第425話 バカにつける薬
今朝になって相談先から戻ってきたミリーズに朝食を摂りながら昨日の事件について話をした。
「へぇ~ 昨日の夜、そんな事があったの…」
「あぁ… まさか教会の宿泊施設でそんな事をしてくるとは思わなかったよ… ミリーズもやっぱり今後は単独行動に気をつけろよ」
目標がミリーズの命ではなく、俺の手に入れた聖剣であったことが幸いだったと思う。
「分かったわ、気を付ける…」
「で、昨日は一体どこへ行っていたんだ? それで成果はあったのか?」
「昨日は、私が幼いころいた場所、聖女候補の育成所に行っていたのよ」
「聖女候補の養成所? また、なんでそんな所に…」
俺は食事の手を止めて尋ねる。
「昨日も言ったように、聖女は政治や利権などの権力闘争に捲き着こまれないように、公平中立の精神を叩きこまれるのよ、だからそこの責任者はこの教会の中でもっとも公正中立な精神の持ち主が選ばれている訳よ、私の恩師でもある方だし」
「なるほど…しかし、教会ってのは思った以上に権力闘争があるもんなんだな…」
「えぇ、設立当初は、各国の王族や貴族、教会内での次期教皇狙いの人が、自分の息のかかった女の子を養成所に連れてくることがあったんだけど、その事に危機感を覚えた当時の教皇が、生前退位を行って養成所の責任者になって、息のかかった女の子たちの精神を叩き直していったそうよ」
「なるほど、どこにでも抜け道を考えて悪さをする人間はいるもんだな…で、肝心な成果はありそうなのか?」
俺はコヒー一口コクリと飲む。
「えぇ、私の恩師であるマドレーヌ院長が根回ししてくれるそうよ、後は結果待ちの状態ね」
ミリーズがウインクしながら答える。
そこへ、カローラがイライラした顔で俺の所へやってくる。
「イチロー様、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ? カローラ、またカード買いに行きたいのか?」
カローラは俺の隣の席によっこいしょっと座り始める。
「まだスーパーレアを引いてないので出来れば買いに行きたいですが、今日はその事じゃないんです」
カローラにはちょくちょくカードを買いに行かせているが、まだスーパーレアが引けてないのか… しかし、どうすんだよカローラ… アンデッドであるお前のカードのアンチカードの教会キャラがどんどん増えていってるぞ…
「じゃあ、なんだ?」
「イチロー様が昨日拾ってきた小娘ですが…あのバカ、どうにかなりませんか?」
カローラは苦虫でも噛みつぶすような顔で言ってくる。
「アシュトレトが何かしたのか?」
「いや、逆に何も出来ないんですよ… 私の買い物を邪魔したバツとして私のカードゲームの相手をさせようと思ったのですが、どうやら字が読めないみたいなので、口頭でルールを教えようとしたんですが、物覚えが悪すぎて、ルールを覚えられないみたいです…」
「昨日の夜、アシュトレトを連れて行ったのはゲームの相手をさせる為だったのか… でも、眠たかったから仕方ねぇんじゃないのか?」
「でも、字が読めないのはなんとか、早々に何とかしないとダメですよ」
うーん、元になったのが下級悪魔と棄民の娘だから、基本スペックが低いのか…元の上司が手放すのも頷けるな…
「あるじ様!」
今度はシュリがおこな顔で現れる。
「今度はシュリかよ、そんなに怒ってどうした?」
シュリはスタスタと大股歩きで俺の所にやってくる。
「あの小娘、どうにかならんか!?」
「あの小娘って、シュリもアシュトレトの事かよ… それでどうしたんだ?」
シュリは鼻息を荒くしてカローラとは反対側の俺の横に腰を降ろす。
「あの小娘に、先日の買い物を邪魔したバツとして、わらわの園芸の手伝いをさせようとしたのじゃが… わらわが大切に育てておる苗に勝手に肥料を撒こうとして、除草剤を苗に撒きよったのじゃ!」
「えっ!? マジかもしかして、俺が欲しているババナの苗もか?」
カローラの訴えは完全に他人事であったが、今回の件は他人事扱いは出来ない。
「あぁ、そうじゃ… すぐに気が付いて水を多めに撒いて洗い流したが… 苗がどうなるか分らぬ… しかし、あのバカはどうにかならんのか? 簡単な手伝いも出来んぞ?」
「うーん… ミリーズ、後でシュリの苗に解毒魔法と回復魔法をかけといてくれないか? しかし、肥料と除草剤を間違えるとは、マジで字が読めないのをさっさと読めるようにしないとダメだな… それでアシュトレト本人はどうしたんだよ?」
「わらわが怒ったら蜘蛛の子を散らす様に逃げ出したわ… わらわは苗の手当をしなければならなかったので、追いかける事ができなかったのでのぅ…」
ちょっとこのままではマズいな… 手伝いも字も読めないとなると、マジで俺のオナホ要員にしかならないな… そのままでは、居場所がなくなって本人も辛くなるだろう…
「分かった、俺が何とかする… シュリの所にも後で謝りに行かせるから、それでいいか?」
「あぁ、頼むぞ、あるじ様、愛玩動物状態のミケとハバナですら、普段は城に湧くネズミ捕りに貢献しておるし、忙しい時にはちゃんと手を貸してくれるからのぅ…」
シュリの奴、マジで『猫の手を借りる』を実践していたのか…
………
……
…
「で、私の所に来た訳? ダーリン」
「そうだ、悪魔の事に詳しいって言ってたからな」
俺はアシュトレトを子猫の様に摘まみ上げながら、プリンクリンの所にいる。ちなみにアシュトレトは俺の召喚魔法ですぐに捕まえる事ができた。捕まえた時は、悪い事をした自覚を持っていたのかビクビクとしていた。
「でも、ダーリン、下級悪魔って、元々そんなものよ? 難しい事は出来ないから、簡単な命令しか出来ないのよ」
「じゃあ、今から中級や上級悪魔に交換することは出来ないのか?」
俺に掴まれていたアシュトレトがビクリと肩を震わす。
「うーん、出来るかもしれないけど、その子の人格が消えるわよ? それにもうその身体に癒着してしまっているから、失敗する可能性が高いわね…」
「イチローマスター…私にお情けを…」
摘まれているアシュトレトも涙目になって俺に慈悲をせがんでくる。
「じゃあ、どうする事も出来ないのか?」
「そうね…字に関しては普通に教えるしかないわね… あと、バカなのは…一応対応方法があるわ」
「あるのか?」
「えぇ、バカにつける薬があるわ」
俺は耳を疑う。
「えっと、もう一度言ってもらっていいか?」
「バカにつける薬よ」
「マジで、バカにつける薬があるのか…」
俺は異世界を舐めていた事を再認識する。
「えぇ、バカってのは、思覚えが悪いのもあるけど、余計な事をするのもバカの特徴なのよね、でも、バカにつける薬を使えば、薬の有効成分で頭をスッキリさせて、バカの思考独特の斜め下に考える思考を真っ直ぐさせる性質があるのよ」
なるほど…バカだから、あんな作戦を思いついて実行したのか…合点がいく。
「それで、バカにつける薬はどこで手に入るんだ?」
「それなら、私が調合できるわよ、簡単なレシピだからすぐに出来るわ」
そう言うとプリンクリンはいつの間に覚えたのか収納魔法から材料や調合道具を取り出す。
「おい、プリンクリン、お前いつのまに収納魔法覚えたんだ?」
「ディート君が魔法の相談に来た時に交換条件で教えてもらったのよ」
おい、ディート…ほいほいと口車に載ってしまうなよ…
「でも、安心して、ちゃんと他の人には教えないって条件で教えてもらったから」
プリンクリンはやはり悪魔の力を取り込んだだけあって、交換とか条件とか契約に纏わるやり方が多いな。
「わかった、じゃあアシュトレトのバカにつける薬を頼んだぞ…」
こうしてアシュトレトはバカにつける薬を常用する事となった。
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