第424話 聖剣?いいえ呪われた剣です

 食堂での話が終わった後、俺の心配をよそにミリーズはすぐに目的地へと一人で出かけて行った。まぁ、教会本部の敷地内だから、一般の犯罪者がウロウロしている事は無いと思うが、魔族に加担している連中がいるのに良くやると思う。


 俺はミリーズを見送った後、自室へ戻る廊下を歩く中で、アシュトレトの召喚と返送を使ったエロい事を想像していた。


 すると俺の部屋の前に、一人の教会関係者が立っているのが見える。


「ん? 誰だ?」


 俺はそんな事を考えながら、その男の所に近寄る。


「アシヤ・イチロー様でしょうか?」


 男は強張った愛想笑いを浮かべながら俺に話しかけてくる。


「そうだが…アンタは?」


「わ、私は教会の関係者の者です…」


 話し方も少し変な感じがする。


「そりゃ、姿を見れば分かるよ、で、俺に何の用があるんだ?」


「それは聖剣を狙う盗人が教会内に入り込んだと…連絡を受けまして…その…教会側で聖剣を保護しようと受け取りに参りました…」


 まるで、子供が嘘の言い訳を考えながら話す様に説明する。


「ふーん…で、アンタが来たと…」


「は、はい、そうです…」


 あからさまに嘘だと分かるので、俺は少し考える。


「でも、俺にはアンタも信用できないから、俺が信用できる元々の聖剣の担当のアイリスを連れて来てくれ」


 俺がそう告げると、男が肩をピクリと動かす。こう返される事を全く想定してなかったんだな…


「いや…その… もう、夜が更けておりますので… アイリスを起こすのは…」


「聖剣が盗まれるかもしれない状況なんだろ? なんで聖剣よりもアイリスの就寝を重要視してんだよ」


 しどろもどろに答える男に俺は笑いを堪えてそう返す。


「…出直してきます…」


 男はそう言うと、トボトボと何処かに去っていく。いや、そこは嘘でも連れてきますと言わんとあかんやろ…


 俺は男を取り押さえようとも考えたが、現状ではミリーズもいないし、確たる証拠もなく犯行もまだ犯してないので捕まえる理由が見当たらない。


 うーん、アシュトレトを使ってエロい事をしようと考えていたが、今日は…というか、ここにいる間は控えて警戒すべきかな…


 そんな事を考えて部屋の扉を開ける。



「あっ」



「あっ」



 部屋の中にいた見知らぬ男達と目が合う。しかもその内の一人は俺が苦労して手に入れた聖剣を抱えていた。



「やべぇ!!! 戻ってきやがった!!」


「どろぼうっ!! おまっ! 人が苦労して手に入れた聖剣をっ!!!」



 俺がそう言った途端、泥棒の一人は床にボールの様な物を叩きつける。すると、先日アシュトレトが使った時の様に物凄い量の煙幕が吹き出す。



「またこれかっ!!」


「今のうちだ! ずらかるぞ!!!」


 自分の鼻先も見えないような煙の中、泥棒の声が響く!



「させるかよっ!!」



 俺は前回の失敗から、すぐさま口を服の袖で覆い、目を閉じて生体調査魔法を使う。すると、瞼に熱探知画像の様に窓から逃げようとする泥棒の姿が映し出される。



「逃がさんっ!! エアバインド!!!」


 

 俺はすぐさま空気で拘束する魔法を使う。空気で手前の泥棒をぎゅっと縛って拘束しようとするが、すぐに拘束が解ける。



「うっそだろ!? 泥棒如きが、アンチマジック処理の装備を!?」



 アンチマジック処理の装備は、マサムネの駐屯地にいた冒険者連中なら持っていて当然の装備であるが、ただのコソ泥程度では手が出せないほどの高価な代物である。



「だが! これはどうだ!!」



 俺はドラゴンボールに出てくる天津飯の気功砲の構えを手前の泥棒に向ける。



「ショットガンッ!!」



 収納魔法から取り出した鉄球を殺さない程度の威力にしてショットガンの様に撃ち出す。



「うっ!!」



 いきなり、背中からの散弾を浴びて、手前の泥棒は崩れ落ちる。例え、撃ち出す時は魔法の力を使っていても、撃ち出された散弾はただの物理的な力だ、アンチマジック処理の装備では防ぎようがない。


 俺はすぐに倒れた泥棒を改めるが、聖剣を持っているのはこちらの泥棒ではなかった。聖剣を持ち出したのは、先に窓から逃げたもう一人である。



「くっそ! 逃がさねぇ!!!」



 俺はすぐさま窓から顔を出し、先に逃げ出した者の姿を探す。熱探知画像の様に見える生体探知魔法を使っている現状では、夜と言えども昼間以上に逃げる泥棒の姿が見える。



「あそこか…結構、逃げ足はえぇな…」



 俺は狙いを定めると、鉄球を泥棒の足を狙って撃ち出す。



 パスッ! パスッ!



 俺の撃ち出した鉄球は見事、泥棒の両腿に命中して、泥棒は盛大に倒れ込む。



「よしっ!! 当たった!! 面倒だが、泥棒を捕まえて、聖剣を拾いに行かないと…」



 その時、俺の頭に声が響く。



『その必要はないわ』




 次の瞬間、身体の中に違和感を感じる。



「うっ! 何だ!? この感覚!!」


『とりあえず、貴方がどうするか黙って見てたけど、今後はちゃんと私の管理をしなさいよ』



 再び頭の中に直接、聖剣の声が響く。



「お前…聖剣なのか!? なんで直接、俺の頭の中に…それとこの身体の違和感はなんだ!?」



 まるで、突然体内に何か異物でも捩じ込まれた感覚に悶える。すると、また別の聞き覚えのある声が俺の頭の中に響く。



(パパッ! パパァッ!!)



「お前は…マイSON? マイSONなのか!?」



(そうだよパパ! 僕だよ! パパの体の中に突然、邪悪なものが入り込んで来たから、僕、吃驚して目覚めたんだっ!!)



『えっ!? ちょっとなにっ!? 貴方、身体の中に寄生虫でも飼っているの!? 本当に貴方人間なの!?』



 聖剣とマイSONの二人が俺の頭の中に話しかけてくる。ちょっと、両方の耳に二人の人間が大声で話しかけてくるようでかなり鬱陶しい。



「ちょっと待て! お前ら! いったん静かにしろっ! ってか聖剣! 俺の体の中にいるのか? ちょっと外に出て来いよ!」


『分かったわよ…ちょっと寄生虫が気持ち悪いから、外に出るわね…』


 すると、俺の目の前の床にふっと聖剣が現れて、ぬっと俺の前に起き上がってくる。知らない人が見れば、念動力か何かで起き上がっているように見えるが、実際の所は見えない手でよっこいしょっとと起き上がっているんだよな…



(ふぅ…パパ、邪悪なものが身体から出て言ったよ)



 おい聖剣…俺のマイSONから邪悪なもの呼ばわりされてんぞ…


 すると、部屋の外が騒がし鳴り始めて、俺の仲間たちが部屋の中になだれ込んでくる。


「キング・イチロー様! ご無事ですか!?」


「イチロー! どうしたのよっ!」


「ダーリン! 大丈夫!?」


「私も一人怪しい奴を捕まえていたけど、イチローの部屋にも忍び込んでいたんだ…」


 アルファー、アソシエ、プリンクリン、ネイシュの四人が先ずなだれ込んでくる。


「あるじ様よ、アシュトレトが廊下を這っておったがどうしたのだ?」


「イチロー様、もう荒事はすみました?」


「わぅ!」


 シュリ、カローラ、ポチもやってくる。ポチはどうやら他の泥棒を捕まえていたようで、フェンリル状態で俺の前にドサリとぬすっとの一人を置く。


「ちょっと、ぬすっとが忍び込んで聖剣を盗み出そうとしていたんだ… 誰かコイツと窓の外に倒れている奴を縛って取り押さえておいてくれるか?」


「仕方ありませんね…」


 カローラはそういうと、にゅっと闇の手を出して、部屋の中で倒れている男と、外で倒れている男に手を伸ばして掴み上げる。


「こいつらを教会に突き出して、神への貢献ポイントを稼いできます…ポチもその男をつれていきますよ」


「お、おぅ…そうか、頼むぞカローラ…ポチも頼む」


「わぅ!」


「カローラ、私の所の泥棒もお願い」


 盗人連中を運び出すカローラとポチにネイシュがついでにお願いする。そして、再び皆の視線が俺と聖剣に注がれる。


「あるじ様、それで聖剣とにらめっこをして何をしておるのじゃ?」


「うーん…ちょっと俺も事情を把握しきれてないんだよ… 外に運び出されたって思っていたら、いきなり俺の元へ戻って来てな… 聖剣…一体、どういうことか説明してくれるか?」


 皆の視線が聖剣に映る。


「簡単な話よ、聖剣の正式な所有者になるって事は、ただ私から使用権や所有権を許されたって事では無いのよ… 私と物理的・精神的に…存在として一体化されるのよ…」


「ってことは、先程みたいに持ち去られても、すぐに俺の所に戻って来れるってわけか?」


「そうね… だから、聖剣の勇者というものは、聖剣を誰の手にも奪われたりしないし、例え投げ捨てたとしても、どちらが望む限りは、手元に戻ってくるのよ…」


「なんじゃ、呪いの品の様じゃな…」


 シュリが誰もが思っていて口にしなかった言葉をポロリと言う。


「そこのバカ力小娘…うるさいわよ…処されたいの?」


「やれやれ、口の悪い聖剣じゃのぅ…」


 しかし、何だよそれ… ほとんどの呪いの品じゃねぇか… ってか、初代聖剣の勇者アルドもそれが嫌で、聖剣との繋がりをどうにかして断って教会に預けたんじゃねぇか?


「なるほど…分かった…しかし…うーん…いきなり聖剣を狙ってくるとはね… 俺が街でパレードなんかしたものだから、目を付けたやつが来ただけなのか、それとも…」


 俺はそれ以上の言葉は押しとどめたのであった。



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