第420話 勝手に凱旋パレード

 街への宴会はシュリやカローラ等のいつものメンバーや、アソシエ達の主婦連だけではなく、アルファーやDVD、肉メイドのハナたちも引き連れて二台の観光用馬車を使って、街の有名料理店へと向かう。


 その途中、カローラが聖剣を手に入れた事を凱旋するように見せて回れば、街の人が色々と忖度してくれるのではないかと言って来たので、気分の良い俺はその通りにやって見ようと考えた。


 観光用馬車の上に立ち、腰の聖剣を引き抜いて人々がよく見えるように掲げて、道行く人々に聞こえるように大きな声で口上の述べる。


「ホラリスの人々よ! 我が声を聞け! 我こそはイアピース国アシヤ領領主にして、三ツ星勇者のアシヤ・イチローだっ!」


 道行く人々が俺の姿と声に注目し始める。


「この剣を見るがいい!! これは300年前、勇者と共に魔王を討ち滅ぼし、以後誰も手にする事が出来ず、ここの教会に保管されていた、伝説の聖剣だっ!!!」


 掲げる聖剣が日の光を浴びて、神々しくキラリと輝き辺りの人々を照らす。


「この俺、アシヤ・イチローが聖剣を手にしたからには、もはや魔族など遅るるに足りず!! 魔族の侵攻に脅える人々も安心するがよい! 人類の勝利の日は近い! 聖剣に栄光あれ!!!」


 そう言って、より一層高く聖剣を掲げる。


 その途端、街の人々から歓声が湧き上がる。


「聖剣の勇者だ!! 聖剣の勇者が現れたぞっ!!!」


「これでもう魔族に脅える事はなくなるんだっ!!!」


「きゃー!!! 素敵な勇者様よぉぉ!!!」


「かっこいい!!! 聖剣の勇者!!!!」


「まつりじゃ!!! 聖剣の勇者の誕生と、人類勝利の前祝いを始める祭りを始めるぞ!!!」


 気まぐれで初めてみたものの、ここまでの反応があるとは思わなかった。


「いや~ 以前にも駐屯地からの凱旋をしたけど、田舎の俺の領地と違って、これだけの人がいる所でやるとスゲー気持ちいいな~」


 ホラリスの人々はまるで、関西で阪神が優勝した時のように盛り上がり始める。その光景に俺もなんだかその気になってきて、宴会の宴をする為の有名料理店には直行せず、何度かぐるぐると街の中をパレードの様に回り続ける。


「今日は特別大売りセールを始めるぞ!!!」


「こんなめでたい日は酒だ! 酒を浴びる程飲むぞ!!!」


 街の人々は、聖剣の勇者の誕生に湧き上がり、次々と祭りのムードになってくる。


「いい気分だ! じゃあ、有名料理店に言って宴を始めるかっ!!」


「いや…あるじ様… これだけ民衆が付いてきておるのに、店に行ったら迷惑ではないか?」


 シュリが俺達の馬車に付いてくる民衆を見てそう呟く。


「構わん! 構わん! 店も客引き連れてきたのに迷惑なはずはないだろう!!」


 実際、店に辿り着くとてんやわんやの大騒ぎになり、もはや一人一人の注文に応えて一品づつ料理を出すのは不可能になって、最後にはもうシェフのお任せで勝手に料理を出すから、みんな勝手に食ってくれというパーティー状態になる。


 しかも、そんな状態では、誰に支払いを求めてよい状態なのか分からないので、店のオーナーの計らいで、今日は聖剣の勇者の誕生のお祝いという事で、全て店からのサービスとなったのだ。


「ガハハ! みんな! 飲め! 食え! 今日は全て店のサービスだそうだぞ!!」


「やはり、店に迷惑をかけておるではないか… まぁ、祝い事という事にはかわらぬし、飯も美味いから細かい事をいうのはなしとするか…」


 寝ている所を勝手につれてきたプリンクリンもこの騒動には目を覚まして、宴会に加わる。


 カズオも、時々厨房の方に行って、手伝うそぶりを見せながら、俺や自分の好物を勝手に作って運んでくる。


 そんな感じで収拾が付かないほどの大騒ぎの宴会となった。



………


……



「はぁ~ もう流石に飲めんし、食えんわ… 腹がパンパンだ…」


 俺は妊婦のようにパンパンになった腹を擦る。


「イチローは、皆からお酒を進められていたから当然… 二日酔いの薬飲む?」


 ネイシュが薬を差し出してくる。


「いや、時々、互いに乾杯の代わりに、骨付きあばら肉で完食をやっていたから、そんなに酔ってないぞ、それよりも消化薬をくれ」


「あれって、そう言う事だったんだ…何かの儀式かと思った…」


 ネイシュは微笑を浮かべながら消化薬をくれる。


「ネイシュ…酔い止めは私の方に貰えるかしら…」


 そんなネイシュにかなり酔いが回ったミリーズがお願いする。


「私の所にも聖女という事で、皆が集まって来たんだけど…イチローみたいにお酒の代わりにお肉を食べ合うって訳にはいかなかったから、かなり飲んだのよ…」


 どうやら人だかりが出来ていた俺に近づけなかった人々が、代わりにミリーズの方へ流れていったようである。


「アソシエとプリンクリンはどうしてる?」


「プリンクリンは一度起きて食事をしていたみたいだけど、またすぐに寝てたわ… アソシエも勢いよく飲む割にはお酒に弱いから、プリンクリンと一緒に寝てるわよ…」


 ミリーズはネイシュに貰った二日酔いの薬を飲みながら、部屋の端の方を指差す。すると二人して長椅子に横になりながら寝息を立てている。


「ここだけの話だが、俺は皆がカローラ城に合流した時、プリンクリンと気の強いアソシエが衝突するんじゃないかと心配していたんだが、意外と仲良くしてそうだな…」


「うふふ、私も最初は心配していたけど、同じ魔術師同士だから、気の合う所があったのよ」


 二日酔いの薬を飲み干して、少し気分を良くしたミリーズが答える。


「あと、プリンクリン、意外と人付き合いが上手、私にも魔法薬の材料の採取について色々話しかけてくる」


 ネイシュが俺に消化薬を差し出しながら補足する。そこへアルファー達が子供たちを抱えながらやってくる。


「キング・イチロー様」


「おぅ、アルファーか、ちゃんと料理はくったか?」


「はい、存分に頂きました。それでお話があるのですが」


「どうした?」


 すると、アルファーは腕の中で寝息を立てている子供たちに視線を落とす。


「お子様たちのお休みの時間が過ぎているのですが… 子供たちだけでも宿泊施設の方に戻ってもよろしいでしょうか?」


「ん? もうそんな時間になっているのか?」


 ここは窓のない大部屋なので、外の景色を見る事が出来ないが、いつの前にか、明りの魔法が灯されている。


「はい、もう日は沈み切って、空には月が上がっております」


「そっか、じゃあ、俺も腹がパンパンだし、昨日の力を使い果たしたのも全開した訳じゃないから、そろそろ帰るとするか…」


「ならば、わらわが馬車を呼んで店の前に回してもらうとするかの」


 いい加減、飲み食いに飽きていたシュリが、ぴょんと椅子から飛び降りて、外へ通じる扉へと向かっていく。


「すみません、シュリ様、お手を煩わせて…」


 子供を背負っている肉メイトのハナがシュリに謝罪を述べる。


「いや、構わんよ、其方たちはややこたちの面倒を見ておるからな」


 そう言い残して、シュリは外へ出ていく。


「そう言えば、カローラはどうしたんだ?」


「カローラちゃんなら、あっちで街の人とカードゲームをしてたわよ」


 その方角を見てみると部屋の隅でカローラと街の住民の一部がカードゲームをしており、その周りに結構な数のギャラリーまでいる。


「あいつはいつでもどこでもブレねぇな…」


 そんなカローラに視線を向けていると外に出たはずのシュリの声が背中から掛かる。


「あるじ様よ…」


「ん? もう馬車を呼んで来たのか?」


 そう言いながら振り向くと、シュリが先日のメスガキを摘まみ上げて持っていた…




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