第418話 似た者同士?

 聖剣を手に入れた事で緊張の糸が切れた俺は、全ての力を使い果たした反動が来て、足元がふらつく。


「大丈夫か!? あるじ様よっ!」


 シュリがすぐさま駆けつけてくれて、俺に肩を貸してくれる。


「あぁ…かなり疲れたが大丈夫だ…休めば回復する… でもこうして聖剣を…」


 そう言って手にした聖剣を見ると、シャキーンと真っ直ぐに伸びた姿ではなく、空気の抜けたバルーンアートの風船のようにへにょへにょになっていた。



「…穢されちゃった…穢されちゃったよ… もう…こんな穢れた私ではアルド様に顔向けができないわ…」



 聖剣がレイプされた女の様に呟く。



「おまっ… 俺の物になったぐらいでレイプされたように言うなよ…」


「でも…この身体どころか心まで貴方色に染められてしまったのよ… もう…私…生きていけないわ…どこかに首吊り用の縄は無いかしら…」



 そう言ってさらにへにょへにょになっていく。



「ちょっ!! そんな致した後のナニのようにへにょへにょになるなよ…何か…もっとこう…致す前のような完全勃起状態に戻れよ…」


 ってか首吊りって…聖剣のどこが首なんだよ… そもそも息してんのか?


「ちょっと!!! 私の体をそんな汚らわしい物に例えないでよっ!!! 私は魔王を倒した事がある由緒正しき聖剣なのよっ!!!」


 聖剣はびよーんびよーんと大きく動いて抗議する。


「ははは、それだけ動ければ大丈夫だな… じゃあ、シュリ、帰るぞ」


「あいわかったあるじ様、お疲れ様じゃったな…」


 シュリは俺を労わる様な柔和な笑みを浮かべる。


 そうして俺はシュリに身体を支えながら部屋を出て帰ろうとする。


「ちょっと…ちょっと!待って下さい!!!」


 今まで唖然としていたアイリスが、急に必死な顔をして俺にしがみ付いてくる。


「…何だよ…やっぱり聖剣を返せって言うんじゃないだろうな…」


 疲れている俺は、はしがみ付いてくるアイリスに鬱陶しそうに答える。


「い、いや…そういう訳ではないのですが…ちょっと私も困惑していて…」


 今までずっと澄ました顔をしてきたアイリスが本当に困惑した顔をしている。


「何だよ…早く言ってくれよ…俺は滅茶苦茶疲れていて、早く戻って休みたいんだよ…」


 実際、今の俺は目を閉じて気を抜いたら、そのまま眠ってしまいそうな状態である。


「えぇっとっ…! 本当に聖剣を手に入れられる方が現れるなんて、全く想定していなかったものですから… こちらもこのままお渡して良い物か混乱しているのですよ…」


 何だよ… 金だけ巻き上げて当てさせるつもりのない、屋台のくじ引き状態だったのかよ… それなのに俺がマジで手に入れたもんで、パニックを起こしているんだな…


「…とりあえず、俺はすぐにこのままイアピースに帰る訳じゃない、マジで疲れて今にも眠ってしまいそうだから、宿泊施設に戻って眠るつもりだ。その間に上の者やら上司とやらに相談しておけよ…でも、もう聖剣は返すつもりは無いからな」


「えっ!? あっ!? そ…そうですね… 先ずは聖剣を手に入れた方が現れた事を報告しなければなりませんね… で、ではアシヤ・イチロー様が休んでおられる間に、私は教会の上層部に聖剣の勇者が現れた事を報告してまいりますっ!」


 アイリスは焦った顔でそう言うと、いつもはしずしずと歩くアイリスが、裾を掴んで走りやすい体制を作り、駆け出していく。


「あの娘が慌てて取り乱しておる所を見ると、何だか胸がすく思いじゃ」


 保護者として俺を迎えに来た時にアイリスにネチネチと小言を謂われたシュリがそう漏らす。


「…実は俺もだ」


「なんじゃ、あるじ様もか」


 シュリが掛け去るアイリスが顔を俺に向ける。


「あぁ、俺も聖剣と二人してネチネチと言われたからな… 出来ればよがり顔も見てみたいが今は慌てて取り乱している所で我慢するとしよう」


「…とりあえずは、今は休まれるがよい、さぁ帰ろうか」


 シュリはふっと笑みを浮かべると、皆が待つ宿泊施設へ足を進める。



「イチロー! どうしたの!!」


「しっかりして、イチロー!」


「ダーリン! 大丈夫っ!!」


「もしかして! 聖剣に酷い事… それっ! イチロー!! もしかして聖剣を手に入れたのっ!!」


 シュリに支えられながら、身体を引きずるように宿泊施設に辿り着いた俺達の姿を見て、アソシエ、ネイシュ、プリンクリン、そしてミリーズが駆け寄り、俺の腰に収まる聖剣を見て、驚きの声をあげる。


「よくあんなに拗らせた聖剣を手にする事が出来たわね… どうやって口説き落としたのよ… もしかして、私の嫌いなインテリ系で攻めたの?」


 アソシエが中腰になって腰の聖剣に目線を合わせてマジマジと見ながら尋ねてくる。すると俺が答える前に聖剣自ら話し出す。



「…レイプよ… この男は私を動けないようにして、嫌がる私に…無理矢理注ぎ込んで…私を弄び…手籠めにしたのよ…」


「おまっ! 嘘を… いや…確かにその通りか…」


 俺は聖剣の言葉に反論しようと思ったが、確かに聖剣のいう通りの内容である。


 すると、アソシエが困惑した表情で俺と聖剣の間を視線を動かし、最後に立ちあがって俺に目線を合わせて聞いてくる。


「…どこに・・?」


「は?」


 俺は意味が分からず声を上げる。


「だから…どこに注ぎ込んだの… 聖剣に穴なんて無いじゃないの… それなのに注ぎ込んだって… はっ!!!」


 アソシエは驚愕の真実に気が付いたような顔をする。


「逆に! イチローがお尻の方に聖剣を差し込んで…」



「しねぇよ!!」

「してないわよっ!!」



 俺と聖剣の声がハモる。


「何が『逆に!』だよ!! こいつが波長で抵抗してきやがったから、俺が力を注ぎ込んで波長を上書きしてやった事に決まってんだろ!! 魔術師のお前がそれに気づかず、なんでケツに走るんだよっ!」


「そうよ!! なんで由緒正しき聖剣であるこの私が、こんな男のお尻に刺さなくちゃならないのよっ!! お尻を出して刺そうとする前に、警護の人間が殺してでても止めにはいるわよ!!」


 俺と聖剣二人して釈明の声を上げる。


「イチローと聖剣…なんだか二人、揃ってる…」


 そんな俺達を見てネイシュがポツリと呟く。


「イチローの言った通りに波長を上書きしたから、言動が似てきたのかしら…」


 ネイシュの言葉にミリーズが考察する。


「ちょっと! 気持ち悪い事言わないでよっ!! この男に似ているなんて言われたら、深い海の底に身投げしたくなってくるわ…」


 だから、お前は息をしてんのかよ…


「そんな事より、ダーリン♪ 凄いじゃないのっ ダーリンが聖剣の勇者になるなんて! でも、私は信じてたわ!! ダーリンが聖剣の勇者になる事をっ!」


 そう言ってプリンクリンが俺に抱きついてくる。


「むっ! この女…魔の臭いがするわ…」


 すると聖剣がプリンクリンに反応し始める。 


「ちょとまて!! 昔は魔族側の人間だったけど、今では俺の仲間になったんだ!」


 俺はプリンクリンの事は敵ではなく味方であることを説明する。


「そうよ!! 私、ダーリンに真実の愛に気が付いてダーリンと一緒にいるのよ!! 邪魔しないでっ!」


 プリンクリンはぷんぷんって顔で聖剣に言い放つ。


「…真実の愛ね… 分かったわ…私も疲れているから今は引いてあげる… でも、後でちゃんと真実の愛なのかどうか…聞かせてもらうわよ…」


 聖剣はそう言って押し黙る。


「じゃあ、俺は疲れているから寝てくるわ…」


 一通りの話が終わったの皆にそう告げる。


「では、添い寝を…」


「いや、マジで今はそんな元気がないから…頼むから一人で寝かせてくれ…」


 何か言いかけたプリンクリンの言葉を押さえて、再び皆にそう告げると、俺は寝室に向かい、泥沼の様に眠ったのであった。




 

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