第416話 秘策
カローラを回収した後、この街の憲兵に事情徴収される事があったが、俺が勇者であることや、聖女ミリーズの関係者である事を伝えると、犯人と疑われる事無く解放された。
だが、現場検証する時に、消火のための水魔法でぐしゃぐちゃになって使い物にならなくったスーパーレアカードを見たカローラが血の涙を流していたのを俺は見落とさなかった…
その後、宿舎に戻った俺達は、びしょびしょになった俺とシュリ、ポチの三人で風呂に入る。
「今日は…いや、今日も色々な事があったのぅ…」
「あぁ…散々な一日だった…」
「わぅ! ポチは楽しかったよっ!」
シュリが湯船に浸かり、俺はポチをわしわしと洗っていた。
「それで、あるじ様よ、気分転換にはなったのか? もしなってないなら明日も街を回るか?」
シュリが湯船の淵に顔を載せながら尋ねてくる。
「ん~ 明日は街を回らん」
「では、別の場所に気分転換に行くのか?」
シュリが首を傾げる。俺はポチにお湯をかけて泡を洗い流し、ポチがプルプルと体を揺らして水滴を飛ばした後、シュリの横にポチを湯船に付ける。
「いや、明日は聖剣チャレンジに行くつもりだ…」
「ほぅ、では何かいい考えが思い浮かんだという事か?」
俺も泡を洗い流し、湯船に入る。
「よっこいしょうたろう、ふぅ~ 思い浮かんだというか、初心を思い起こさせたと言った方がいいな?」
やっぱり風呂は良いな… 湯船に体を沈めて湯に体を任せると、今日あった散々な出来事がどうでもよくなってくる。
「一体、どういうことなのじゃ?」
「…相手の気持ちを汲んで説得するなんて、俺らしくないって事だ、今日のメスガキの一件で思い出したよ」
俺は手拭いを頭の上に載せて、首だけ出す様に湯船に体を沈め、湯を満喫する為目を閉じる。
「…つまり、聖剣を説得などせずに、無理矢理力任せにものにするということか?」
「そうだ、あんな奴の説得に時間を掛けていたら、それこそ魔族との戦争が終わっちまうよ」
「でも、聖剣相手に力任せが通用するのか?」
目を閉じていると浴室の中にポチがはしゃいでいる湯がバシャバシャと立てる音が反響して響いている。
「そこは、シュリにも協力してもらう」
「わらわが?」
そこで俺は目を開けるとシュリの顔がすぐ近くにあって、俺の顔を覗き込んでいた。俺は視線をシュリの顔からその胸に下げていく。
「こら!あるじ様! 人と話す時に胸ではなく、顔を見ろ! 顔を!」
「…わかったよ…」
たっぷりと入浴剤が入っていたので、湯に浸かっているシュリの乳首を確認することは出来なかった…
まぁ、今日は散々メスガキと致したからいいか…
「まぁ、あるじ様がおかしなことをせんように、次は元々わらわが付いて行くつもりであったが、わらわは何をすれば良いのじゃ?」
「今日メスガキを押さえていたみたいに、本来のドラゴンの力を使って欲しいんだ」
「わらわのドラゴンの力か…一緒に説得しろと言われるより分かり易いのでよいな、あいわかった!」
シュリは快く引き受ける。
「それでわらわが付いて行くとして、準備はそれだけで良いのか?」
「いや、もう一つある、それは風呂あがってからカズオに相談しに行こうと思う」
「カズオにか?」
「あぁ、カズオにだ」
その後、風呂を上がった俺達は、カズオのいる食堂へと向かう。
「あっ、旦那ぁ 風呂上がりでやすかい?」
俺たちの姿を見つけるとカズオが声を掛けてくる。
「あぁ、今日は煤だらけになったりびしょびしょになったりしたからな」
ほっこりした顔で答える。
「では、風呂上がりということですから、いつものアレをいきやすか?」
「アレと言うと…アレか!?」
俺とカズオはヤバい薬でも取引するように、顔を寄せて会話する。
「へい! コヒーだけでなく、フルーツの方もありやすぜ、しかも旦那が言ってた味を再現できているはずでやす…」
「マジか! じゃあフルーツの方をくれフルーツを!」
「シュリの姉さんとポチもフルーツの方でいいでやすか?」
カズオがシュリとポチにも尋ねる。
「あぁ、フルーツ牛乳を貰おう」
「わぅ! フルーツ!」
「へい! お待ち! フルーツ牛乳でごぜいやす!」
カズオがフルーツ牛乳をグラスに注いで出してくる。俺達三人は腰に手を当てて斜め45度のポーズでフルーツ牛乳ををあおる。
ごきゅ!ごきゅ!ごきゅ! ぷはぁ~っ!
「どうでやすか? 旦那」
「カズオ! スゲーじゃないか! めちゃくちゃ美味いし再現度高いぞ!!」
俺は空になったグラスを眺めながら感嘆の声を上げる。
「ここでババナという珍しい果物が手に入りましたからね、それを使ってみたんでやすよ」
「おっ! ババナって名前までバナナとそっくりな果物じゃねぇか! なるほど、フルーツ牛乳のあの美味さはバナナに秘訣があったのか!」
「うむ、このフルーツ牛乳はいけるのう~」
「わぅ! フルーツ牛乳美味しい! おかわりっ!」
シュリとポチの二人も満足している様だ。
「おい、シュリ、このババナって果物もカローラ城で栽培できるようにしろよ」
「あぁ、それなら既に幾つか苗を育てておるぞ、もっと栽培したいのなら、種を買い足さんといかんな」
「くっ! なるほど…それで買い物を邪魔されたことをあんなに怒っていたのか…」
「ようやく、わらわの怒りの理由が分かってもらえたようじゃな」
あのメスガキ…今度会ったらただのWAKARASEだけでは済ませんからな…
「ん? 街の買出しで何かあったんでやすか?」
街の買出しに同行しなかったカズオが何があったのか聞いてくる。
「いや、つまらないトラブルに巻き込まれたんだよ… そう言えば、カズオから頼まれていた調味料はどうすればいい? 今渡した方がいいのか?」
「いえ、それは城に戻った時に使う分でやす、なので、御面倒ですが、旦那が預かっててもらえやすか?」
「分かった、収納魔法の容量にはまだまだ余裕があるから大丈夫だ。それよりな、カズオにちょっとお願いがあるんだが…」
俺はカズオに必要な物を述べる。
「へい、それならたんまりとあるので、お渡ししても問題ないでやすが、一体に何につかわれるんで?」
「フフフ、聖剣の取得に使うんだよ…」
「へ? あんなものを聖剣の取得に使うんでやすか? まぁ…旦那のやる事でやすから、何か特別な考えがおありなんでしょう…厨房の責任者にお願いして、今、お持ちいたしやすので」
こうして俺は、目的の物を手に入れたのであった。
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