第415話 WAKARASE

 メスガキは俺のアレまみれになりながら床に倒れてピクピクと痙攣している。俺の方はメスガキが座っていたソファーに体を預けWAKARASEの余韻に浸っていた。


「ひ、酷い…私…初めてだったのに… 初めては…黒馬に載ったマッチョな覇王の様な人にと思っていたのに…」


 メスガキが嗚咽を漏らしながらそう呟く。黒馬に乗った覇王のようなって…北方の拳のラオウかよ…


「しかし…この感覚…久しぶりだなぁ~ 最近、仲間とかの人類側ばかり相手にしていたから、相手を気遣った致ししかしてなかったんだよな~ 魔族とかの人類に敵対的な奴相手の容赦ない致しをするのは久しぶりだ…」


 俺は満足感に浸りながら、少し高揚感も感じていた。


「そ…それよっ!…」


 メスガキが声を上げたと思うと、生まれたての小鹿の様に足をプルプルと震わせながら、腰砕けの状態で立ち上がる。


「ん?」


「私が、もうイってるからって、何度も言ってるのに… 聞く耳を持たずに何回も何回も続けるなんて…貴方には人の心…良心ってものがないのっ!」


 えっと…俺は今、魔族か悪魔か知らんが、そんな奴に良心を問われているのか…?



「いたしつづけてもいいじゃないか だってきもちいいんだもの いちろー」



 ちょっと賢者モードに入りかけている俺は、どこぞの詩人のように答える。


「くっ! まぁいいわ… そこまで続けるという事は、私の魅力にメロメロになったという事だからね…」


 変に貞操観念持っているくせに切り替えが早いやつだな~


「アシヤ・イチロー! 私の魅力にメロメロになったのなら! 我が軍門に下りなさいっ!」


 メスガキは生まれたての小鹿の様な足取りで言い放つ。


「いや、一回ぽっち致したぐらいで、人類を裏切って軍門に下る訳ないだろ」


「一回じゃないじゃないのっ! 何度も何度もやったくせにっ!」


 まぁ、教会の宿泊施設であんあんと嬌声を出せないからここしばらく致せなかったのと、聖剣の事でストレスが溜まっていたから、10発はやったと思うが…そんなの俺からすれば一回のカウントだ。


「それに…私は曲りなりのも悪魔の一員よ… その私の初めてを奪っておいて、何も無しでは許されないわっ!」


「等価交換って訳か… なんかプリンクリンみたいだな… しかし、お前、悪魔にしては、滅茶苦茶非力で弱いよな… 俺が以前戦った悪魔は滅茶苦茶強かったぞ?」


「貴方が誰と戦ったかしらないけど、私は生まれたばかりの低級悪魔だから… この世に召喚された時に、自分を維持できないから、棄民の女の子の体を生贄にして定着させたのよ! 謂わば悪魔と人間のハイブリット! 名付けて『悪人』よっ!」


「悪人って…おまっ… そんなの自慢気にいうなよ…」


 なるほど、コイツは生まれたての低級悪魔がベースでまともな教育を受けてない棄民の子と合体させたからこんなにバカなのか…


「さぁ! アシヤ・イチロー! 私の初めての対価を支払う為に、我が軍門に下りなさいっ!」


 仁王立ちの姿で言うなら様になるが、腰砕けの内股で言われても様にならんな…


 しかし、コイツも悪魔の端くれと言うなら、契約の対価ということでマジで何らかの強制力が働くかもしれんな… ここは何とかして言いくるめないと…


「お前は初めての対価を支払えというが、俺の方はお前に俺の子種を10回もくれてやったんだぞ? 俺の方が支払っている対価が多いだろ… それに初めてというが、正確にはその体の持ち主の初めてであってお前のものじゃないだろ」


 俺はどこぞの王様のように言い放つ。


「あっ? えっ? 私の初めてが1に対して、アシヤ・イチローの子種が10… 確かに私の方が多く貰っているわね… それとその初めても元々この体の持ち主の物ってのもその通りだわ…」


 俺の屁理屈に真剣に納得し始める… コイツ、相当おバカだな…


「いや…でも…っ!」


 メスガキはキット俺に目を向ける。


「妻子あるお前が、他の女と交わったり、しかもその相手が魔族側の者ということなら、アシヤ・イチロー! 貴方のやった行為は人類側では許されないはずよ!!」


 なんでコイツは魔族や悪魔側の者なのに、変に道徳心が働いているんだよ…


「フフフ…この事が広まれば、貴方は人類側で居場所を失うはずだわ… もう我が軍門に下るしか他に居場所はないわ…」


 邪悪な笑み…と言いたいところだが、メスガキがする事なので悪戯っぽい笑みを浮かべて言い放ってくる。


 そこに倉庫の入口の方から誰かの声が響く。


「あるじ様~ ここにおるのか~」


「わぅ! いちろーちゃま!」


 シュリとポチの声だ。


「おぅ! シュリ、ポチ! 俺はここだぞ!」


 俺が二人に答えると、二人の陰がこちらにやってくる。そして、シュリの姿が見えるや否や、先程まで仁王立ち…いや小鹿立ちしていたメスガキが、さっとシュリに駆け寄り、その背中に隠れだす。


「助けて下さい! 私、そこのアシヤ・イチローに誘拐されて乱暴されたんですぅ~!!」


 メスガキがいきなり被害者ムーブを始める。


「えっ? なんじゃこの小娘… あるじ様… ついに犯罪に手を染めてしまわれたのか…」


 メスガキに縋りつかれたシュリはジト目で俺を見てくる。


「いや、言っておくがシュリ、そのメスガキは人間じゃなくて魔族側の悪魔だぞ」


「何を言っておる…あるじ様、この様な娘が魔族や悪魔などでは… あっ本当じゃの」


 一度悪魔と一緒に戦った事のあるシュリは、メスガキから微かに臭う悪魔の気配を感じて、その首根っこを押さえつける。



「いだだだだだだだだだぁっ! 痛いって!! えっ! 貴方は私が罠に嵌めたはずのシュリじゃないのっ!」



 そこでメスガキはここへやってきたのが俺の仲間のシュリであることにようやく気が付く。



「なんじゃ、あの罠を仕掛けたのはお主であったか」


 ぎゅっ!



 シュリは更に力を強めてメスガキの首根っこを押さえつける。



「いだだだだぁっ! 痛いっ! なんてバカ力なのっ!」


「バカはお前じゃ! あの程度の檻でわらわを捕えられるはずがないじゃろ、普通にドラゴンの力を使ってこじ開けてやったわ」


「わぅ! ポチは檻が落ちてくる前によけた!」



 腕をドラゴン化させたシュリによって床にねじ伏せるように押さえつけられたメスガキは涙目になる。



「シュリ、ポチ、ちなみに、俺達の買い物を先回りして買い占めていけずしたものそいつだぞ」



 そう言って、俺は後ろにある荷物をシュリ達に示す。



「貴様かっ! 貴様がわらわの買い物を邪魔したのかっ!! 許さん! 許さんぞ!!」



 シュリは戦闘力52万の人の様に怒り狂う。



「いだだだだだだだっ!!! いだいっ! いだいって!!! 首がっ! このままでは首がとれちゃうっ! かくなる上は…」



 そう言うとメスガキは頭に付けていた野球ボール大の髪飾りを手に取ると床に叩きつける。


「えいやっ!!」


「なんじゃこれはっ!!」


「うぉ!!!」


 その瞬間、床にたたきつけられた髪飾りから凄まじい量の煙幕が吹き出す。


「ごほっ! なんだよっ! まだ出続けるのかよっ! 尋常じゃないぞ!! この量はっ!!」


 俺もなんどか煙幕を使う所を見たことがあるが、こんな勢いで出るようなものではない。恐らく冒険者が使う個人用のものではなく、軍隊などが使う組織用の煙幕を使ったのであろう。


「ごほっ! ごほっ! これはたまらぬ!!」


「わぅ!! ポチも目も鼻も利かないっ!!」


「ちょっ! いくら何でもやり過ぎだろっ! 加減ってものを知れよ!!」


 俺達が煙幕の中で混乱していると、建物の外から人の騒ぎ声が聞こえてくる。



「煙が出ている!! 火事だ!! 火事だぞ!!!」


「すぐに、自警団を呼んで消火活動を!!!」



 煙幕の煙を火事の煙と間違えた近隣住民が自警団を呼び、水の魔法で消火活動を始めた。お陰で俺達はびしょびしょになったが、水を捲いた為に煙が収まり、外に逃げ出す事ができたのだ。


 外に出て改めて俺達の姿を確認すると、メスガキが使った煙幕の煤はついてるわ、消火の水でびしょびしょだわで散々な有様である。


「あーあ…持ったいねぇな…あんだけ水かけられたらもうカードは使い物にならねぇ…」


「わぅ…ポチ、びしょびしょ…」


 ポチのふわふわ白い毛が煙幕の煤で灰色になり、水で濡れてべっとりとしていた。


「すまぬ、あるじ様よ…あの煙幕で小娘を取り逃がしてした…」


 シュリも煤だらけのびしょびしょになりながら頭を下げる。


「別に構わねぇよ…あんな小物… しかし、びしょびしょの煤だらけになったから宿舎に戻って風呂に入らねぇとな… それより…」


 俺はびしょびしょになったシュリとポチを見る。


「カローラの姿が見当たらないけど…カローラはどうしたんだ?」


「わらわは檻を出てポチを見つけたから、あるじ様の元へ案内してもらったのじゃが、カローラとは会ってないのぅ… あるじ様のところで会えると思っていたからな」


「なるほど…ポチ、匂いを辿って、カローラの場所分かるか?」


「わぅ! 分かるよイチローちゃま!」


 そうして俺達はポチにカローラの所まで案内してもらう。そこには大きな鐘が落とされており、その中からカローラのすすり泣く声が聞こえてくる。


「おい! カローラ! 大丈夫か!? 今出してやるかな!」


「わらわが鐘をどかしてやろう」


 シュリが腕をドラゴンモードにしてひょいと鐘を持ち上げる。すると中には辺り一面にカードを広げてすすり泣くカローラの姿があった。


「イ…イヂローざま…」


 カローラは鼻水を垂らしてべそかいた顔を俺に向ける。


「カローラ…お前、どうしたんだよ…」


「でないんでず…やっぱりズーバーレアが…でないんでずよ…」


 カローラは、道で拾ったカードパックからもスーパーレアが出なかったようだ。 

 

 カローラはとことん運がついてないようであった…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る