第413話 罠

「えっぐ…えっぐ…どうじで…がみざまは…わだじにいげずするの…」


「知らねぇよ…それこそ神の思し召しって奴だろ…」


 えづきながらトボトボと歩くカローラにそう言葉をかける。


「カローラに対する神の思し召しはどうなのか知らぬが、わらわの種まで売り切れとはのぅ…」


「イチローちゃま! ポチもおなかすいたぁ~」


 シュリもポチもそれぞれ目的の物を手に入れられなかったので、不満の声を漏らす。


「よしよし、ポチ…可哀相にな… 宿泊施設に戻ったら、カズオになんか作ってもらおう」


「わぅ! カズオの作るご飯も大好き!」


  ポチはぱっと花を咲かせるような笑顔で答える。


「よーしよしよし! ポチはいいこだっ!」


 俺はそんなポチの頭をわしわしとしてやる。


「ところで、あるじ様よ、カズオに頼まれておった調味料などの買出しはどうじゃったのじゃ?」


「それが、カズオに頼まれていた調味料に関しては普通に売ってたんだよな…」


「えっ!? それは本当なんですかっ!?」


 俺の言葉にカローラが反応する。


「あぁ、カズオに頼まれていた調味料は一つも欠けることなく、買いそろえる事ができたぞ」


「なんで!! なんでなのっ!! まさか、カズオだけが神に愛されているとでもいうのっ!!! そんなの贔屓だわっ!!!」


「知らんがな…一体どんな神様がカズオを寵愛するんだよ…」


 カローラはぐぎぎと歯ぎしりしながら、メラメラとカズオに対しての嫉妬の炎を燃やす。しかし、シュリではなく、カローラが贔屓と言い出すとは…


「ん?」


 すると、シュリが急に声を上げる。


「どうした? シュリ」


「いや… あそこに落ちておるの… カローラが欲しがっておるカードパックというものではないか?」


 シュリがそう言って指差すので、その方向に視線を向けると、道の真ん中にぽつりとカードパックが落ちている。


「あっ、ホントだ…」


「カード!! 私のカードっ!」


 するとカローラがネズミを見つけた猫の様に道のど真ん中に落ちているカードパック目掛けて駆け出す。


「おい! カローラ! あぶねぇぞ!!」


「うぉ!! こっちにもカードパックが落ちてる!!! これは敬虔な祈りを捧げる私への神の恵!!!」


 ここからでは見えないが、他にもカードパックが落ちている様で、カローラがそれらを拾い集める為に、カローラがどんどん遠くに行く。


「おぉぉぉ!!! カードパックだけではなくボックスまで落ちてる!!! あぁ! この神の恵みを捨て置く事ができましょうか! いや出来ない!(反語)」


 遠くからカローラのそんな声が響き、姿が全く見えなくなってしまう。


「一体、どうなってんだよ…」


「なんじゃかカードを餌に罠に嵌められておるような感じじゃのぅ…」


 何処かに消えてしまったカローラに俺とシュリは呆然とする。まぁ、カローラの見た目は幼女であるが、中身はれっきとした成人女性のヴァンパイアなので、危なくなっても自力で戻ってくることは出来るであろう…


「ねぇねぇ、シュリちゃまシュリちゃま」


 そんな呆然とするシュリの裾をポチが引っ張る。


「なんじゃ、ポチ?」


「あれ、シュリちゃまが欲しいものじゃないの?」


 そう言ってポチがまた別の方向を指差す。


「ん? わらわの欲しい物とな?」


 シュリはポチの指差す方向に視線を向ける。


「おっ! あれはわらわが買い足そうとしておった苦瓜の種ではないか!!」


 シュリは声を上げるとカローラの様に種の元に駆け出す。


「おい! シュリ! お前まで何やってんだよっ!!」


「こっちには、野菜パパイヤの種じゃ!!! おぅ! 向こうには島ラッキョウの種まで!!」


 シュリもカローラの様に種に導かれて、何処かへ向かい始める。


「ったく! どうなってんだよっ! カローラだけじゃなくシュリまでも!!」


 ここまで来ると誰かの陰謀しか考えられない状況であるが、シュリとカローラ、どちらを追いかけるか悩む。二人ともちょっとやそっとの事で、捕まえられたり殺されたりする事はないだろうが、シュリは抵抗する時にドラゴンの姿に戻って、街を破壊する可能性があるし、カローラはほいほいと変な契約とか結ばされそうだ。


「あっ、イチローちゃま…なんだか美味しそうな匂いがする…」


 今度はポチがポツリと呟き、ある一点を向き始める。


「おい! 今度はポチもかよ! ってかなんだ? 確かにいい匂いがするな…」


 ポチにいわれて鼻をくんくんと鳴らして見ると、確かにいい匂いがする…しかも、ポチだけではなく、俺も好きな匂いだ。


「あっ! イチローちゃま! あれ! 骨付きあばら肉があるっ!」


 ポチが涎をたらしながら指差す。


「うぉ! マジで骨付きあばら肉が落ちてる!!」


 ポチの指差す方向には確かに骨付きあばら肉があった。


「だが…いくら何でも道の真ん中にポツリと落ちてる骨付きあばら肉は…いくら大好物でも食わんぞ…」


 流石の俺でも、道に落ちている物は拾い食いしたりはしない。だが、ポチにとってはそんな事関係なかった。


「ポチ! ちょっと食べてくるっ!」


 そう言ってポチは骨付きあばら肉の所へ駆け出す。


「おい! ポチ! 行くなっ!」


「わーい! あっちにも骨付きあばら肉が落ちてる!」


 ここ最近、宿泊施設での精進料理に似た食べ物ばかりで、肉を食べていなかったポチは我慢できずに道に落ちている骨付きあばら肉を拾い食いしていき、どんどんどこかへ行ってしまう。


「一体、どういう事だよ…もしかして、カローラ達をそれぞれ誘拐するつもりなのか…? それとも…まさか! 俺を一人にして俺の命を狙っているのか?」


 俺はさっと警戒し、辺りに刺客がいないか確認する。


「!!!」


 その時、俺の目にあるものが飛び込む!


「あ、アレは…オーシャン堂の… 美の女神の神像!? しかも魔改造バージョン!?」


 俺は即座に駆け出し、道の真ん中に落ちている神像を拾い上げる。


「うぉぉぉ!!! マジでオーシャン堂の美の女神夏バージョンの魔改造品だ!!! このマイクロビキニや股間に食い込みスジが丸わかりになっている所が最高の一品じゃねぇか!!!」


 すると少し先の道に再び神像が道の真ん中に落ちているのが見えた。


「おっ! あれはオルターの愛の女神! 誘い受けバージョンだと!?」


 すぐさま俺は愛の女神を拾いに走る。


「おぉぉぉぉ!!! あっちにはベストスマイルの処女神! しかも自分からお尻を突き出しておねだりしているバージョンだ!!」


 こうして俺も魔改造神像よって何処かに導かれて行くのであった…

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