第412話 偶然の連続?

 俺はシュリとカローラ、それとポチを連れ立って街へ繰り出す。一応カズオやアソシエ達にも声をかけたのだが、カズオは調味料の買出しを頼んで来ただけで、厨房で料理の手伝いをしており、アソシエ達はBL腐人連合だけで買い物をするそうなので、俺達とは同行しなかった。まぁ…行き先はあそこだろうな…


 シュリの目的は種や園芸用品を売っている店だし、カローラはカードショップ、ポチは散歩ができたらいいと言った感じで、俺自身は特に目的など無く、皆に合わせてぶらぶらと街を見て回るつもりである。


 聖剣の事で色々とストレスが溜まっているからその発散と、何か良いアイデアを見つける事が出来たらいいのだが…


「で、どこから順番に回っていく? シュリの園芸店か? それともカローラのカードショップか?」


 両手に花と言いたいところだが、両手に蕾状態で左右にシュリとカローラに挟まれながら道を歩く。ポチはトタトタと小走りで前を歩いている。


「わ、私は…」


 まず修道服のカローラが口を開く。


「出来るだけ多くの信仰パワーを溜めてからにしたいので、シュリが先でいいですよ…」


 そう言って手を組んで祈りのポーズを取り始める。


 カローラの奴…カードにのめり込んで、次は宗教にのめり込んでいるのかよ… 結構ヤバいな…


「では、わららの園芸店が先で良いな、出来ればイアピースに戻ってから蒔く分の種も欲しいのでそちらも買い足そうかのぅ」


「お前…前回買った分の種だけでは飽き足らず、また種まで買うのか…」


「そうじゃのう、今は順調に芽が出ておるが、イアピースの方で種が取れるまで成長するか分らぬのでのぅ」


「種が取れない時点でイアピースの気候にはあってないから、種を蒔いてもダメだろ」


「いや、そんな事はないぞあるじ様」


 シュリは歩きながら俺を見上げてくる。


「麦の様に育ちの悪い年もあるじゃろうし、花などの鑑賞用は、種がとれんでも花が咲いていればいいじゃろ」


「なるほど、そう考え方もあるのか…」


 シュリもカローラと同様に農業にのめり込んでいて、尚且つ、相当の知識をつけ始めているので、聞きかじった程度の俺の知識では太刀打ちできなくなってきている。


「あっ! あるじ様! 見えて来たぞ! あの店じゃ」


 シュリは目的の店を見つけるとポチと一緒に店に駆け出す。


「ふっ… シュリもまだまだ子供ですね… もっと私の様にお淑やかに落ち着かないと…」


 そんなシュリを見て、カローラがふっと微笑を浮かべる。


「いや、アイツの場合は普段からオカン臭い所もあるし、口調がロリババアだからな… 少しは若々しい所を見せてくれないと、美少女の皮を被ったオカンババアになるだろ…」


「しかし、イチロー様、若々しいのと、落ち着きがないのとは違うのですよ… 私の様に若くても落ち着きがあれば、落ち着いた美少女となれるのです…」


 カローラは澄まし顔でそう述べる。


「いや、お前はいつまでも幼女の皮を被ってないで、本来のエロむっちむちなボディーに戻れよ…」


「…大人の姿でカードを買い漁っていたら大人気なくて恥ずかしいじゃないですか…」


 澄ましていても、ポロっと地がでてくる。


「カローラ…お前も人の事は言えんぞ…」


「クッ… 私も修業がまだまだですね…」


 そう言って再び手を組んで祈りのポーズを取り始める。


 そんな会話を交わしながら、遅れて園芸店に辿り着くと呆然と立ち尽くすシュリの姿があった。


「おい、シュリ、どうしたんだよ」


「あ…あるじ様…種が売っておらんのじゃ…」


 俺に振り返るシュリは残念そうな顔をして答える。


「えっ? 種が売り切れ? じゃあ、仕方ないから別の種を買えばいいじゃないか」


 たまたま欲しい種が売り切れるということもあるだろう。


「いや…それが別の種も全て売り切れておるのじゃ…」


 シュリが空になった棚を指差して答える。


「別の種も? なんだ急にホラリスで園芸ブームでも始まったのか?」


「いや…分らぬ… わらわが来るちょっと前に、種を買い占めていったものがおったそうな… 間が悪い事じゃのぅ…」


「そうか…タイミングが悪かったのか…じゃあ、また今度来るしかないな」


 このままだとシュリが気の毒なので、次回改めて買いに来ることを告げる。


「そうじゃな…今回は足りないポットだけを買い足していくか…」


 種を買う事が出来なかった失意のシュリは、しょぼくれた顔をしてポットだけを買っていく。


「次は、カローラの番だけど…急がなくていいのか?」


 しずしずとゆっくり歩くカローラに尋ねる。


「私は神に信仰を捧げる敬虔な信徒ですから… 神の名を貶めるようなはしたない所作は取りませんわ…」


 カローラはすました顔で答える。


「まぁ、種の様にカードパックもいきなり売り切れるって話は無いだろう…」


 先程の種の売り切れで、カードも売り切れているのではないかと心配であったが、そうそう同じことが重なる事もないだろう。


 だがしかし…


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 カローラの嗚咽にも似た悲鳴がカードショップの店内に響き渡る。


「私のカードが…私のカードがっ!!! 旧弾どころか最新弾まで全部うりきれているぅぅぅぅ!!!! どうして!!! どうしてなのぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 殻になった商品棚を前に、カローラが血の涙でも流しそうな勢いで絶望の叫びを上げる。


 あまりにも不可解な状況に、俺は店員に声をかけて事情を尋ねる。


「おい、どうなってんだ? 先日まで今までの弾全部が山積みにされて売っていたじゃないか、どうして急に売り切れているんだ? もしかして、カードの大会でもはじまるのか?」


「いえ、そんな事はないのですが、つい先程訪れたお客さんが全て買い占められてしまって…申し訳ございません…」


 店員が困惑しながら答える。


「おいおい、種に続いてカードまで…一体どうなんてんだ?」


 あまりにも変が偶然が続き過ぎる…


「ガード…ガード…わだじのガードが…」


 先程の澄まし顔はどこに行ったのか、鼻水を垂らしながら咽び泣く。


「また入荷した時を見計らって買いに来るから…それでいいだろ?」


「がみだま…わだじにいけずじないで…」


 そう言って泣き続けるカローラを抱きかかえて店を出る。


「まぁ…たまたま偶然、運が悪い日に巡り合ったと思うしかねぇな… 仕方ないから、露店で買い食いでもして帰るか」


「わぅ! ポチお腹減った! 露店の美味しそうなもの食べたい!」


 ポチが子犬用に足元にじゃれてくる。


「うんうん、ポチはかわいいなぁ~ よーしよしよしいい子だ!」


 そんな俺達は露店街に足を向けるが、そこでも奇妙な光景を目撃する。


「えっ!? なんで? なんでだよ!! まだ昼を回ったぐらいの時間帯だぞ!?」


 露店街の店が一斉に店を畳み始めているのである。


「おい、おっちゃん! どうなってんだ? まだ昼なのになんで店じまいしてんだよっ!」


 俺は近くの店じまいをしているおっちゃんに声を掛ける。


「あぁ…にいちゃん、食べに来てくれたのかい? でも、済まないねぇ…さっき女の子が来て、この露店街の売り物を全て買い占めていったんだよ、それで売り物が無くなって皆店じまいさ」


「えぇ!? 種・カードに引き続き、露店の食べ物まで売り切れって…ちょっとこれはおかしすぎるだろ!? 一体どうなんてんだ!?」


 俺達は困惑して呆然と立ち尽くした…



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「フフフ…アシヤ・イチロー…ようやく街に姿を現わした様っすね…街で見かけてから今までずっと待っていたのよ… 私の天才的な策略に恐れ慄くがいいわ…」


 店の陰からイチロー達の姿を見て、ほくそ笑む小さな姿があった…

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