第411話 聖剣と勇者の伝承
俺はシュリにお説教された後、アソシエ達では趣味に走って当てにならないので、もっと聖剣の事を知る為に教会の図書館へと向かう。そこでまた聞きの噂話でなく、正式に記録された聖剣の伝承を知る為に聖剣の事が記された本を借りて帰ってくる。
その本に記されていた内容は、魔族との戦いで大怪我を負い、生死をさまよっていた赤毛の勇者アルドが教会に運び込まれたところから始まる。そこで、当時、対魔族連合が組まれたことにより、レヴェナントの出身地であるセントロイス国から派遣された聖女フィーラと勇者アルドが運命的な出会いを果たす。
フィーラはアルドにひと時も離れることなく献身的な介護を行い、そしてフィーラはアルドに恋に落ちてしまう。
だが、アルドは傷が癒えると再び戦地に赴こうとするが、当時はあまりにも平和な時代が続いたため、魔族に対して有効的な攻撃手段を持たなかった。だから、このままアルドを行かせてしまっては次こそアルドが戦死してしまうのではないかと恐れたフィーラはアルドに同行することを申し出るが、女性に魔族との前線は危険という事でアルドに断られてしまう。
アルドに拒絶されたフィーラは、絶望に打ちひしがれるが、それでもアルドへの思いは断ち切れず、愛の神を降臨させ、自身の体を聖剣へと変えた…
そして自身は聖剣へと化したが念願のアルドの同行が許され、そして二人で数多くの魔族を撃ち破り、遂には魔王をも討伐した…
うーん、ロアンやミリーズの話より、詳細に記されている所もあるが、大体の流れは同じだな…
今までの聖剣チャレンジの失敗が無ければ、髪の毛を赤く染めてアルドっぽい姿で聖剣チャレンジをしていたと思うが、何度も接触して聖剣の性格を知っている今では、そんな事をすれば逆に逆鱗に触れて、二度と交渉することは出来なくなる事が分かる…
アルドについてもっと詳細な情報が載っていれば、まだ何とかしようがあったんだが、容姿などについては赤毛だと言うぐらいで、その他の顔立ちや体格については記されていない。
それというのも、アルドは聖剣と共に魔王を倒した後、すぐに聖剣を教会に託して、自身は人知れず何処かに消えてしまっている…
しかし、ここの最後の部分が少し引っかかるんだよな… 本来であれば自分の為に聖剣に姿を変えた女を、魔王を倒すという用事がすんだら、すぐに教会に預けるだろうか… 普通は戦いが終わって平和な世の中になっても共に暮らすのが当たり前なんじゃないのか?
もしかして…聖剣はアルドから避けられていたのか? それなら納得できるような気がする。最初に出会った話も普通ならお互いに恋に落ちたとか記されているはずだが、書かれていたのはフィーラが一方的にアルドの事が好きになって恋に落ちただけと記されている。
これって…現代風に言えばストーカーか? それなら最初に旅に同行しようとしてアルドから断られているのも納得できる。
という事は、聖剣フィーラは赤毛の勇者アルドに一方的に好意を寄せていただけのストーカーで、当時の300年前から、あのような面倒な性格の女だったかも知れないな…
俺はパタリと本を閉じ、体を起こして椅子の背もたれに体を預けて、読書で凝り固まった体を解す為に伸びをする。
「あるじ様、聖剣に関する読書が終わったようじゃが、どうじゃ? 何か役立つ情報は載っておったか?」
農作業の合間に水分補給に来たシュリが尋ねてくる。
「いや…300年前の当時から聖剣がめんどくさい女だったと分かっただけで、殆ど役立つ情報はなかったな…」
「そうか、役立つ情報は無かったのか…では明日はどうするのじゃ? なんじゃったら、今度はわらわがついていってやるぞ?」
今まで聖剣については俺任せだったシュリが、度重なる呼び出して恥を掻いた事から、自らお目付け役として申し出ているのであろう。
しかしながら、シュリに付いてきてもらって、聖剣を口説き落とす口実がまったく思い浮かばないので、空振りするのは目に見えている。
しかし、三国志の孔明でも三回行けば仲間になってくれるというのに、もう五回だぞ…五回も行っているのに、少しも折れる素振りすら見せない…
「うーん…このまま行ってもいい考えが思い浮かばんから、明日は思い切って気分転換でもしにいくかぁ~」
「いいのか? そんな事をしていても?」
シュリが少し目を丸くして聞いてくる。
「あぁ、今は何も思い浮かばないから、こんな状態で行っても、また聖剣を怒らせるだけだ… それなら気分転換でもしていい考えが思い浮かぶのにかけた方がいいだろ」
「なるほど、様々試した結果、どれも上手く行かずに八方ふさがりになっておるのじゃな? なら、また街に買い物でもしにいくか? わらわも買い足したいものがあるのでのぅ」
シュリも俺の気分転換に同意してくれ、ついでに自分の買い物を希望してくる。
「買い物したいって、シュリは何を買い足したいんだよ?」
「苗を作るポットが不足して負ってのぅ、買い足したいのじゃ」
「おいおい、前回買ってきた種を全部植えているのかよ、まぁ、イアピースに帰ってから上手く発芽しなかったとかで買いに戻れない事を後悔するよりマシか…」
「そうじゃな、とりあえず種の発芽具合をみておるところじゃ」
「じゃあ、街に買い物に出かけるか… アイツの事も気になるしな…」
そう言って、修道服を纏って、敬虔な信徒のような立ち振る舞いをしているカローラを見る。
「カローラの奴…ここ最近、ずっとあんな感じだけど… レアが出たからってわけじゃないんだろ?」
シュリだけに聞こえる小声で尋ねる。
「あぁ、わらわもカローラの様子が変じゃから、買出しや開封を手伝っておるアルファー達に聞いてみたのじゃが、目的のカードは一枚も出ていないようじゃな…」
「じゃあ、どうしてカローラはあんな事になってんだ?」
「そこは本人に聞いてみたらどうじゃ?」
シュリもカローラの内心までは分からないのか、両肩を上げて手を開く。
「…じゃあ本人に聞いてみるか… おい、カローラ」
俺がカローラを呼ぶとしずしずとした行儀良い歩き方で俺の所へやってくる。
「何でございましょうか? イチロー様…」
まるでアイリスちゃんのような口調で喋り始める。
「何か…最近、様子が変わったようだけど…どうしたんだよ…」
「はい…神に対する忠実な僕となるべく、修道女となる為の修業に励んでおりました…」
胸の前に手を組んで祈りを捧げるような仕草で返事をする。
「お、おぅ…そうか…それでカードの方はもういいのか?」
するとカローラの体がピクリと動く。
「カードの事で心が乱れてしまいました…私も修業がまだまだですね…」
すぐに澄ました顔で言葉を返す。
「…じゃあ、明日の買出しは俺とシュリの二人で行ってくるか…」
そう言って席を立ち上がろうとすると、突然カローラが袖を引っ張る。
「…どうした? カローラ」
「…私も連れて行ってください…」
顔は澄ましているが、体はプルプルと震えている。やっぱり我慢してたんだな…
「分かった、明日はちゃんとカローラも連れて行ってやるよ…」
そう言う訳で、明日はシュリとカローラをつれて気分転換の為の買出しに出かける事になった。
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