第409話 フィフィスコンタクト&お説教

 聖剣を手に入れる為に、今まで色々な事をしてきたが、今回の作戦が一番気が乗らない…というか気が重い…それどころか今の自分の姿を深く考えると気が狂いそうになる…


 本当にこんな方法で大丈夫なのかと思い、後ろのアソシエをチラリと見ると、満面の笑みでサムズアップしてくる。


 餅は餅屋、女心は女に尋ねる方が正しいかもしれないと言うのは分かるんだけども… 今回ばっかりは、マジで今からでも逃げ出したくなる…


 だが、今日の聖剣チャレンジには俺が途中で逃げ出さないように、アソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人が付いて来ている。



 くっそ…進むしかないのか…このいばらの道を…



 俺は三人連行されるような状態で聖剣のある第二保管棟に辿り着く。


「おはよう…アイリスちゃん」


 アイリスちゃんはだんだん真面目に仕事をする気が無くなってきているのか、最近では、椅子に座って本を呼んでいる事が多い。


 俺はそんなアイリスちゃんにいつもの様に声をかける。


「あっ 今日も来られましたか、イチロー…様…」


 俺に声にアイリスちゃんは読んでいた本を畳みながら顔を上げる。


 アイリスちゃんの表情はいつもと同じ感情の無い無表情であるが、今日のそれは顔の上半分だけである。下半分は食べ物を頬に詰め込むリスのように大きく膨らませている。


「…じゃあ、今日もいつもの様に、聖剣様の所まで案内をお願いできるかな?」


「ふぁい…ふぁかりふぁした… ふぁたしのふぁとにおつづきくふぁださい…」


 アイリスちゃんは極めて冷静を装って返事しようとしているが、頬を膨らませているので、上手く喋られない。


 それでもいつもと変わらぬ機械人形の様な正確な歩調で、聖剣が納められている保管室まで案内する。


「ふぇいけんふぁま、いちろーふぁまをごあんないいふぁしましふぁ」


 その口調が当たり前のようにしてアイリスちゃんが保管室に入っていく。



「ん? どうしたの?アイリス、その喋り方は…」


 

 やはり当然の如くアイリスちゃんの喋り方が気になった聖剣は、俺の姿を見るなり、言葉に詰まる。



「………貴方…私をバカにしているの…?」



 言葉に詰まっていた聖剣がポツリと呟く。


 すると、俺の後ろにいるアソシエが小声で『さぁ、ちゃんと言われた通りにやって!』と言ってくる。


 俺は…非常にやりたくないが、ここまで来た以上やらざるを得ない…



「そ、そんなことないよっ! 聖剣のおねえちゃんっ!!」



 俺は裏声を使って、幼い少年っぽく喋る。すると、今まで口汚い言葉以外に全く反応を示さなかった聖剣が物理的にピクリと動く。


 

 おっ! 嘘だろっ! マジでこれに反応するのかっ!? 今まで動いた事無かったのに…



 ちなみに今日の俺は、王子様系ダメ、俺様系ダメ、お色気系ダメという事で、残されたショタ系をアソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人にコーディネートされて演じる事になったのだ。


 だから、今日の俺の姿は、二十歳になっている俺がやるのはどうかと思うが、ショタらしく、半袖短パンの衣装で、短パンを掃く為大きく露出する足の毛を全て剃ってツルツルにして、襟の胸元には殺人事件を召喚するコナン君の様に蝶ネクタイを付けている。


 ぶっちゃけ、この姿になった俺を鏡で見た時は、鏡をぶち割りたくもなったし、他にこんな奴が街中を歩いていたら、速攻で警察…いや憲兵か…を呼ぶレベルであった。


 こんな目に見える地雷状態なので、端からダメだと思っていたが、まさかあの聖剣が反応するとは思いもしなかった… やはり餅は餅屋、女心は女に尋ねないといけないんだなと改めて思う。



「聖剣のお姉ちゃん! 僕、今日ね…お姉ちゃんにお願いがって来たんだっ」



 俺は一気に畳みかける為に、予定された次のセリフを言っていく。



「今ね、世の中にはね、魔族って悪い人が暴れているんだっ! それで僕の大切な人たちが傷ついて困っているのっ!」


「………」



 おっ! 黙って話を聞き入っているぞ!



「だから、魔族をやっつける事が出来る聖剣のお姉ちゃんの所に来たんだ!」



 俺は純粋無垢な少年の瞳の輝きを作って聖剣を見つめる。



「ねぇ! 聖剣のお姉ちゃん! お願いだから、僕と一緒に世界を救ってよ! 僕にはお姉ちゃんしか頼ることが出来ないんだっ! お願いっ! お姉ちゃん!!」

 

 

 純粋無垢な少年の声が保管室に響き渡る。


 健気な少年の思いを断る者などいようか!? いやいないっ!!(反語)


 これは決まった!完全にショタの萌え萌えきゅんきゅんアタックが綺麗に決まったぞ!



 俺はゴクリと固唾を呑んで、聖剣の反応を見守る。



「わ…わたし…」



 聖剣が震えた声で話し始める。



「私…人の姿を失って…この何よりも強靭なこの体になったのだけれど… まだ…こんな感覚が残っていたなんて…」



 うっそだろ!? マジでこの聖剣、ショタ好きだったのか!?



「肌も…内臓も…既に無いこの体だけど…」



 熱い思いがあるって事だろ? ようやく俺に勝利の時が訪れた!!!



「寒気や鳥肌…吐き気がするなんて…」



「………えっ?」



 俺は目を丸くする。



「聖剣になって300年…魔王とも戦ったこの私が、初めて気持ち悪さに鳥肌が立って吐き気を催したわ…」



 聖剣は沸騰したやかんの蓋の様にカタカタと揺れ始める。


 これ…マズイんじゃね?…



「聖剣様! 大丈夫ですかっ!!」


「アイリスっ!!」


「はい! 聖剣様!」


「すぐさまこのクリーチャーを叩き出してっ! 直ちに保護者に引き渡しなさい!!! 今すぐ!!!」


「分かりましたっ! 聖剣様!!!」


 すぐさまいつもの女性騎士がやってくる。



「嘘だといってよ! おねぇちゃぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」



 俺の最後の叫びは、女性騎士に引きずられていくことで掻き消されて行ったのであった…


………


……




「なるほど…そう言う事で、またわらわが呼び出されたのじゃな…」


 シュリが俺達四人を見下ろしながら、冷たい瞳でそう言い放つ。


「だから、こんな作戦、最初からダメだと言ってんだんだよっ!」


 俺は正座しながら悪態を付く。


「でも、万に一つ…ワンチャンあるんじゃね? って考えて実際にやったのはあるじ様じゃろ」


「ぐぬぬ…」


 ずばりその通りにシュリは言い放つ。


「で、でも…なんで私たちまで正座させられているわけっ!?」


 正座になれないアソシエが不平を述べ始める。


「あるじ様が実行犯…アソシエ殿達が計画犯… どちらかと言えば、あるじ様に良からぬことを吹き込んだアソシエ殿達の方が罪が重いじゃろ」


「で、でもシュリ、貴方から正座させられるなんて納得いかないんだけどっ!」


 アソシエは正座の限界が来ているのか、脂汗を流しながら口ごたえする


「納得いかないじゃと? 保護者として呼び出されたわらわのいう事が納得できないじゃと?」


「いや…その件ではお世話になったけど…迎えに来てもらったぐらいで…」


「迎えに行くだけで済む訳が無かろうがっ!!!」


 アソシエの言葉にシュリが声を荒げる。


「初めてではなく二度目じゃからな… カズオに菓子折りを準備してもらって、何度も何度も頭を下げたに決まっておろうが…」


 ここまで言われてアソシエも反省したのかシュンと頭を項垂れる。


「それと、担当のアイリスという娘から、『お宅ではどの様な教育をなさっているのですか? 詳しくお聞かせ願えますか』と…わらわが何度も頭を下げておるのにネチネチネチネチと言われたんじゃぞ… 何も言い返せず頭を下げるしかなかったわらわの気持ちがわからぬか?」


「申し訳ございませんでした…」


 アソシエは深々と頭を下げてシュリに土下座をする。


「次に…ミリーズ殿…」


「ひゃい!」


 突然、矛先を向けられたミリーズは驚いて嚙みながら答える。


「シュリちゃんに怒られちゃったけど、イチローのショタ姿を見る事が出来たからまっいいか? などと、考えておらぬだろうな…」


「ひぃっ!!」


 先程まで余裕そうにしていたミリーズの顔が青ざめ始める… 図星なのか…


「…カズオ…」


「へい…シュリの姉さん…」


 シュリが呼ぶと、俺と同じショタ姿のカズオが現れる。


「カズオ…やれ」


「でも…シュリの姉さん…」


「いいからやるのじゃ」


 戸惑うカズオにシュリは続行を命じる。


「わ、分かりやした… では…」


 普通にショタの服装だけを着ていたカズオは、ショタっぽい仕草を取り始める。


「ミ、ミリーズのお姉ちゃん♪ 僕、イチローだよ♪」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 カズオのその一言でミリーズが突然悲鳴を上げ始める。


「ミリーズ殿…脳内に焼き付いたあるじ様のショタ姿だけでご飯三杯は行けると思っておろうが、そうは問屋が卸さぬ! このカズオのショタ姿であるじ様のショタ姿を上書きしてやるわ!!」


「いたっ! イチロー、ころんじゃった! いてて、膝小僧すりむいちゃったよ! てへぺろ♪」


「やめてぇぇぇ!!! ほんとにやめてぇぇぇよぉぉぉ!!! 折角、脳裏に焼き付けたのに… 全部カズオに置き換わっちゃうぅぅぅ!!!」


 ミリーズが号泣しながらカズオのショタ姿に声をあげる。ってか…これ…ミリーズに対する罰だけど…なんか俺もモヤるんだよな…


「次にネイシュ殿…」


「はい…」


「いくら大切な友達だといって、全てを受け入れてはならぬぞ…ちゃんとダメな事はダメ、悪い事は悪いと言ってやらぬと…」


 そこまで言ってシュリはミリーズを見る。


「イチロー、お眠になっちゃったよぉ~」


「やめてよ…お願いだから…やめてよ… もう二度とイチローがあんな姿をしてくれることは無いのに…」


 ミリーズは鼻水を垂らしながら号泣している。


「あぁなってしまうのじゃ…わかるな?」


「うん、ネイシュ…わかった…後でもっと辛くなる…」


「わかったのならよい、これでしまいじゃ」


 こうしてシュリのお仕置きは終わったのであるが…なんか納得いかねぇな…特にカズオが…


「イチロー、お尻ぷりぷりぃ~♪」


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ミリーズの叫びが響き渡った。



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