第408話 フォースコンタクト&アソシエの種割れ

「アソシエ…ホント、これで大丈夫なんだろうな?」


「大丈夫よイチロー、安心してっ!」


 いや…安心できないから聞いているんだが…


 俺は自分の着ているシルク製のひらひらしたシャツを見る。胸元が俺の乳輪がみえそうなぐらい大きく開いている。女の乳輪を見るのは好きだが、自分の乳輪を見せる趣味は俺にはないのだが…


 ズボンもぴちぴちの黒のスリムズボンを履かされている… なんかバレエダンサーのコーチみたいな恰好だな…


「イチローこれもちゃんと持っててね、なんなら口に咥えてていいわよ」


 そう言って一輪の薔薇を渡される。


「なんで薔薇まで…」


「敵と戦う時に剣が必要なように、女性を口説き落とす時には薔薇が必要なのよ」


「でも相手は聖剣だぞ?」


 手で薔薇をいじりながらアソシエを見る。


「聖剣になるまえは聖女だったのでしょ? だったら有効よっ!」


「あの聖剣が剣の姿でなく、絶世の美女だったとしても…あの性格なんで口説きたくねぇな…」


「でも、聖剣を手に入れる為なんでしょ!それとさっき教えたセリフもちゃんと言わなきゃだめよっ!」

 

「マジで言わなきゃダメなのか…」


 そんな会話を交わしていると前を歩くアイリスちゃんがいつもの部屋の前で立ち止まる。


「聖剣様、失礼します入りますよ」


 前を歩くアイリスちゃんが聖剣のいる保管室に入り、俺達も後に続く。


「さぁ! イチロー! はじめて…」


 アソシエが俺の背中を押してくる。


「分かったよ…」


 俺は短く答えた後、顔をあげて聖剣に向き直る。



「ハァ~イ(はーと)麗しの僕のセニョリータ♪」



 俺はアソシエに言われた通り、麗しのキラキラスィ~トマスクをしながら聖剣に手を広げる。



「君と離れ離れになっていた一夜が、僕にはまるで幾千の夜のように長く感じられたよ…

何故なら…それは君が僕の心を蜘蛛にからめとられた蝶のように虜にして魅了してしまったから…」



 薔薇の香りを嗅ぎながら、しなりしなりとモデル歩きで聖剣に近づいていく。



「僕のこの切なさを癒す為には、愛しのセニョリータ… 君がずっと僕の側にしてくれるしかないんだ…」



 甘いマスクで甘い声を使いながら甘い言葉を聖剣に捧げ、キラキラとした瞳で熱つくて甘い流し目を送る。



「さぁ! 僕の愛しのセニョリータっ! 僕のこの手を取って… そして、二人で永遠の愛を誓いあおう!(ラヴ)」



 そう言って口元に一輪の薔薇を咥えて、聖剣に向けてサラリと手をさし伸ばす。


 そんな俺にアソシエが光の魔法と、氷のダイヤモンドダストの魔法を使って、俺をキラキラと演出する。


 

 決まった…ロマサガのワグナスでも倒せるぐらいに、完全に俺の流し目が決まった…



「アイリス」


「はい、なんでしょう、聖剣様」



 俺の流し目が完全に決まる中、俺を無視するように聖剣とアイリスちゃんが会話を始める。



「摘まみ出して」


「はい、分かりました、聖剣様」



 すると護衛の女騎士がやってきて、流し目を決める俺を羽交い絞めにして、部屋の外へと引きずる。



「えっ? わたしも? なんで私までっ!!」



 アソシエも羽交い絞めにされて部屋から摘まみ出される。



「ふぅ…最近、夜中に猫がニャーニャーうるさいと思っていたら…そう言う時期だったわね…」


「そうですね…聖剣様、発情期は色々大変ですね…」



 俺とアソシエが摘まみ出される様子を眺めながら、聖剣とアイリスちゃんはそんな言葉を交わした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい! どうなってんだよっ! アソシエ!」


「おっかしいわねぇ… これで完全に落ちると思ってたんだけどね… 何がいけなかったのかしら…」


 食堂で声を上げる俺に、俺の前の席に座るアソシエは、頭を抱えながら首を捻る。


「いや…俺もお前も問答無用に摘まみ出された結果から、『何が』ってレベルじゃなく、ほぼ全てダメだったに決まっているじゃねぇかっ! こんなのシュリぐらいしか引っかからんぞ!」


「そんな話にわらわの事を引き合いに出さんでくれ… それと、その情夫の様な姿にはわらわでも誑かされんぞ」


 農作業の途中で水分補給に来たシュリが俺の言葉に反論する。


「情夫って…嘘だろ…そんな風に見えるのか?」


「それは…見たくもない乳輪をちらちらさせられてはな…」


「うぉ! マジ見えてる…」


 シュリの言葉で、俺の乳輪というか乳首がチラリズムしている事に気が付き、俺ははにかみながら開いた胸元を閉じていく。


「はにかみながら乳首を隠す様子を見ておると、いつぞやのカズオを思い出すな…」


「シュリ…俺をカズオと一緒にするのは止めてくれ…マジでやめてくれよ…」


 俺は激しい羞恥と嫌悪感に苛まれる。


「イチロー! そんな事より、次の作戦を考えないとダメじゃない!」


「そんな事よりって…お前が始めた物語で、俺がすげー恥かいてんだけど…」


「女なら兎も角、男が乳首の一つや二つで恥ずかしがってちゃダメよ」


 アソシエがピシャリと俺の言葉を封じる。


「しかし…あの聖剣…思ったよりも厄介だわね… 強敵だわ…」


 アソシエがテーブルに両肘をつく『ゲンドウ』のポーズを取りながら真剣に悩み始める。


「あぁ、そうだろ? 色々説得しても理解も納得もしない、あんな分からず屋だとは思いもしなかった…」


「いえ、そういうことじゃなくて…」


「じゃあどういうことなんだよ?」


 俺の言葉を否定するアソシエに聞き返す。


「…普通なのは当然ダメだとして… 貴公子の王子様風もダメ… ダークな俺様系もダメ… そして今日のお色気系でもダメって… あの聖剣…どんな趣味してんのよ…」


「そっちかよっ! 真剣な顔をして考えていると思ったら、そんな事を考えていたのかよっ! 真面目に考えろよ!」


 真面目に考えていると思ったらBL系の事を考えていたので、俺はアソシエに声を上げる。


「何言ってんのよイチロー!! 私はちゃんと考えているわよっ!」


 だが、アソシエは逆切れして大声を上げる。


「いい?イチローっ! イチローやミリーズの話を聞く限り、あそこまで拗れた女はね、理屈じゃなくてハートで分からせないといけないのっ!」


 アソシエはバンと自分の胸の心臓部分に手を当てて、さもそれが常識のように言い放つ。


「いや…でもあれは聖剣だぞ?」


「聖剣と言えど、中身は女だわ! 女という存在はね、子宮で考えているよ!! だから、あそこまで拗れた女はね、理想の男の姿で口説く落とさないといけないのよっ!」


 男の俺でも息子で考えているって言い出しにくいのに、アソシエはよくそんな言葉を公然と言い出せるな…


 俺は少しドン引きする。


「そうはいっても、今日の女たらし系の姿でもダメだったじゃないか…」


「そうね…私も今日のお色気系で落とせると思ったんだけど… 王子様ダメ、俺様ダメ、お色気系ダメとなると…」



 ピキンッ!



 その時、突如アソシエの脳裏に稲妻が走り、SEED…いやBL本が割れて覚醒する!



「そうだわ! これだわ! これ! これしかないわ!!」


 

 何かが閃いたアソシエは席から立ち上がる。


「ど、どうしたんだよ…アソシエ…」


「今…未来が見えたの…イケるわ!! 次こそは必ず聖剣を堕として見せるわよ!」


 そう言って明るい未来を見上げるアソシエであったが、俺には嫌な予感しかしなかった…

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