第407話 サードコンタクト&反省会
「今日はイチロー様、おひとり様なのですか?」
いつもの様に無表情なアイリスが俺に保管棟の入口で俺に問いかける。
「あぁ、そうだ」
俺は短く答える。
「では、私の後にお続きください」
そうして今までの通り、聖剣が保管されている部屋まで案内される。
「聖剣様、またイチロー様が来られましたよ」
なんだかアイリスちゃんの俺の扱いが雑になっている様な気がする。
「貴方…また懲りずに来たの?」
聖剣の方も呆れたような口調で言ってくる。しかし、俺も無策で来るような人間ではない。
「フフフ、俺は昨日までの俺ではない…」
俺はロアンと合流する前に使っていた、中二感溢れる黒を基調とした冒険着に身を包み、バサリとマントを靡かせるように仰々しい仕草を取る。
「我が名はアシヤ・イチロー… シュールストレミング・ゲートの導きより、この地に顕現し、無双の剣術と膨大な魔力を操りし闇の勇者!」
俺は中学生時代に練習したイケてると考えたアクションを取っていく。
「貴方…何をやっているの…」
聖剣が唖然としているが俺は構わず続ける。
「魔族の侵攻により破滅が確定したこの世界を救う為、その使命を背負う俺の体にはあまりにも強大で疎まれし禁断の力が宿っている…」
「訳が分からないわ…」
「だが、深淵に潜む闇を魔王を討ち滅ぼし、シュールストレミング・ゲートを超えて、人々の希望の満ち溢れる新たなる世界線に辿り着くためにはゲートを開く鍵が必要なのだ…」
俺は片目を手で覆い、少し煽り気味に斜に構える所謂『シャフ度』のポーズを取りながら聖剣に腕を伸ばす。
「我アシヤ・イチローの名において命じる!! 古の聖剣よ!!! 我がもとに来りて、シュールストレミング・ゲートを解き放つ鍵となるのだっ!!!…エロ・フロデ・コンヨクゥー」
皆が固唾を呑んで沈黙を守る中、はためかせたマントが緩やかにたなびく音だけが響く…
フフフ…決まった… 邪気眼にシャフ度に俺の流し目…完全に決まったな…
「えっと…」
そこへ聖剣が口を開く。
「昨日…ちょっと私が言い過ぎたから…正気を失っているのかしら… アイリス!」
「はい、何でございましょう、聖剣様…」
聖剣とアイリスちゃんはスペシャル・中二ポーズを取る俺を無視して二人で会話を始める。
「この人、ちょっと…いや…かなり正気を失っている様だから、正気に戻す魔法を掛けてくれるかしら?」
「はい、分かりました聖剣様」
アイリスちゃんは聖剣の声に淡々と答えて、俺の元に来て手を翳して神聖魔法をとなえ始める。
いや…普通はある程度話に乗った上で、承諾するか断るかのながれだろ? ってか、こんなマジ対応されると俺、困るんだけど…
俺は途中でやめる事は出来ずにスペシャル・中二ポーズを取りながらアイリスちゃんの神聖魔法を受ける。
そんなアイリスちゃんが突然、声をあげる。
「大変です! 聖剣様!」
「どうしたの?アイリス!」
「この方…もう手の施しようがありません!!」
「まぁ! そこまで進行していたのね…」
なんだよ…この流れ…なんかヤバい方向に向かってないか?…
俺はスペシャル・中二ポーズを取ったまま考える。
「では…家の方に連絡して…保護者の方に迎えに来てもらいなさい…」
「分かりました…聖剣様…」
やめてくれ…マジ止めてくれよ…
「あと、保護者の方に、治療には家族の協力が必要だと伝えるのよ…」
「伝えておきます…聖剣様…」
そうして、スペシャル・中二ポーズを取ったままの俺は聖剣の保管室から引きずり出された…
「なるほど…そう言う訳で、わらわが呼び出されたのじゃな?」
「…はい、そうです…」
腕組みをしてムスッとした顔で俺を見下ろすシュリを、俺は正座をして上目遣いに見上げながら答える。
「ふぅ…わらわは教会から突然の呼び出しを受け、何事かと思って心配したのじゃぞ?」
「…はい…ご心配おかけしました…」
そう言ってシュリに頭を下げる。
くっそ…よりよって保護者としてオカン気質のあるシュリを呼び出しやがって…俺の身柄をシュリに引き渡す時に、シュリが『うちのイチローが大変ご迷惑をお掛けしまして…』と何度も頭を下げるところなんて、まんま中学時代の黒歴史を思い起こさせる状況じゃないか…
「カローラならまだしも、あるじ様はもうアレは卒業したと言っておったであろう… どうして人様の前であんなことを仕出かしたのじゃ?」
シュリがダメな息子に問い質す様に聞いてくる。
「い、いや…卒業したとしてもOBとして…ワンチャンあるかな?って思って…」
「で、ワンチャンあったのか?」
「…ありませんでした…」
くっそ! 聖剣も聖剣だし、アイリスちゃんもアイリスちゃんだろ! 普通、あの場のノリに付き合うのがお約束なのに、ガチ対応しやがって… お陰で滅茶苦茶恥を掻いたじゃないか…
「どうしたのよシュリ、イチローを正座なんかさせて?」
そこへアソシエが食堂にやってくる。
「あぁ、アソシエ殿か、ちょっとあるじ様が粗相をしでかしての…」
「粗相? イチロー…もしかして、人前でおもらしでもしたの…」
アソシエは残念な人でも見るような目で俺を見る。
「してねぇよっ! ってかシュリも誤解されるような言い方をするなっ!」
「いや、恥ずかしさのレベルは同じぐらいじゃろ…」
「ぐぬぬ…」
くっそぉ~ ここまで中二が受け入れられていないなんて… この世界は間違っている…
「ところで、アソシエは食堂に何しに来たんだよ… 昼飯はもう済んだだろ?」
俺は話を逸らす為に、アソシエに話題を振る。
「私が絵本の読み聞かせを始めようとしたら、ネイシュがいきなり飲み物をとってきて欲しいって言い出したのよ」
アソシエの言葉に、アソシエが抱えている絵本を見る。桃太郎の様であるが、イラストがかなり美形化されたイケメン男子が描かれており、タイトルの桃太郎の最初の一文字が『M』なのか『H』なのか分からない感じに崩されている…
きっとネイシュが俺との約束を守って、アソシエが子供たちに『普通』ではない絵本の読み聞かせをするのを阻止してくれたのであろう…
「ところで、ミリーズはどうしてる? 安定しているか?」
聖剣にボロカスに言われて心をバッキバキにおられたミリーズの状態を尋ねる。
「あぁ、ミリーズならマルティナちゃんに人生相談しているから大丈夫よ」
「…それ、ホントに大丈夫なのか… いや、大丈夫じゃないな…」
「ところでイチロー話を戻すけど」
あっさりと話を戻される。
「…なんだよ…」
「どうせ今日も聖剣チャレンジに失敗したんでしょ?」
「…そうだよ…」
バツが悪いのでアソシエから目を逸らす。
「じゃあ、私にいいアイデアがあるんだけど、試してみない?」
そう言ってアソシエがウインクした。
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