第406話 第二回反省会
「はぁぁぁぁぁ~」
俺は食堂で再び『ゲンドウ』のポーズを取りながらクソデカ溜息をつく。
あの聖剣… よくもまぁ、次から次へと人の心をバッキバキにへし折る言葉が出てくるな…毒舌がえげつすぎるわ…
「なんじゃ、また三人で落ち込んでおるのか?」
作業服で食堂に飲み物を取りに来たシュリが声を掛けてくる。その言葉に顔を上げ周りを見ると、昨日ようにミリーズとカローラが同じ『ゲンドウ』のポーズで落ち込んでいる。
「あぁ…また聖剣の所で色々とあってな…」
「ミリーズ殿もまた聖剣に悪口を言われたのか?」
シュリは手拭いで汗を拭きながらミリーズにも確認する。しかし、シュリの奴、一体どんな汗をかくような事をしてんだよ? ここはカローラ城じゃねぇのに…
「悪口を言われたというか…自分の未熟さを気づかされたというか…」
「なんじゃ、言われっぱなしなのか? それではいかんぞ、一度ガツン!と言い返しやらねば!」
「いや、それはちょっと出来ない状況なんだ…」
シュリの言葉にそう返す。
あの時、そのまま言い合いになっていたら、聖剣はミリーズに対して、『そこまで言うなら、私の様に貴方自身が聖剣になりなさいよ』と言っていたかもしれない。
全ての聖女なら聖剣になれるのであれば、今までの聖女も同様に自身を聖剣に変えていたはずである。しかし、そんな話は聞かない。それは出来ないか失敗したかのどちらかだ…
そんな不確かで危険な行為でも、言われてしまったらミリーズは真剣に聖剣になる為の方法を探し出すだろう。だが俺としては、全世界の平穏と自分の我儘を天秤にかける行いであるが、そんな形でミリーズを失いたくないし、ミリーズが産んだ子供たちの事もある。
だから、あの時、俺は早々にその場を切り上げたのだ。
「まぁ…色々とこちらの事情があるから、ミリーズが聖剣に言い返すことは出来ないんだよ…」
察してくれと言わんばかりの表情でシュリに話す。
「なるほど…言い返す訳にはいかんかった訳じゃな… しかし、おなごのミリーズ殿ならまだしも、あるじ様まで落ち込む程の言葉を浴びせてくるとは…」
「…私、前に一度話したけど… 聖剣の挑戦に失敗した勇者が暴れたって話をしたでしょ? その時は詳細が良く分からなかったけど…今ならその勇者の気持ちが良く分かるわ…」
ミリーズがポツリと呟く。
「あぁ…それは俺も同じだ… 俺には色々と守るものがあるから我慢できたけど、体一つの男がプライドや自尊心までへし折られたら…まぁ、暴れるわな…」
俺もミリーズの言葉に同意して述べる。きっとその暴れた男も聖剣にボロカスに言われて切れたんだろうな…今はその男に同情するよ…
「あるじ様にそこまで言わしめる程の存在なのか…ほんに聖剣は恐ろしいのぅ…」
シュリがたじろぎながら声をあげる。
「で、カローラは、またスーパーレアが出なかったのか?」
残り落ち込むカローラに向き直って尋ねる。
「…神は…私に…どれ程の試練を課されようとお考えなのでしょうか…」
「…その言い方だと…出なかったんだな…」
ドンッ!
今まで落ち込んでいたカローラがテーブルを叩く。
「私とイチロー様の分、合わせて20ボックス買って来たのに、一枚もスーパーレアが出ないんですよっ!」
「…そこまで出ないとなると…レアを抜かれたものが売られているんじゃねぇか?」
現代日本ではオクや中古品にはそんなものがあるって聞いた事がある。
「あの店は公式のカードショップですよ!?そんな事があるはずないじゃないですかっ!」
「そ、そうなのか…」
「えぇ…だから…これも全て…私の信仰の無さが原因なんです…」
いつもは逆切れしそうなカローラが内罰的な事を言い始める。スーパーレアが出ない事に相当参っている様だな…
「アルファーとDVDにも開封を手伝ってもらって、尚且つ見落としが無いように、今まででたカードを種類ごとに並べて、同じカードを重ねていっているんですが…段々、賽の河原の石積みのように思えて来て… 永遠に続くんじゃないかと思い始めましたよ…」
一つ積んではレアの為…とか言って積んでそうだな… しかし、異世界のあの世にも賽の河原があるのか… もしかして、今まで転生してきた日本人が広めたものか?
落ち込むカローラが気の毒だし、俺自身も欲しいので、懐から皮袋の財布を取り出す。
「ほれ、カローラ…追加分を買うための金だ」
「ひぃっ!」
俺は金貨をカローラに差し出すが、カローラはすぐに受け取らず、それどころがビクリと体を震わせて、少し金貨から仰け反る。
「…カローラ、なんで仰け反るんだよ…いつものお前なら、『わーい♪ 金貨♪ カローラ、金貨大好き♪』って喜んで受け取るのに…」
「なんですか、その私の物真似…裏声まで使って…腹立ちますね… いや、金貨が怖い訳ではなく…買いに行って、またスーパーレアが出ないのではないかと思って… 少し体が拒絶反応を起こしただけですよ…」
「…お前…トラウマになりかけてんじゃん…大丈夫か?」
すると、カローラは椅子からすくっと立ち上がる。
「ちょっとこれから礼拝堂に行って神に祈りを捧げて、心を落ち着けようと思います…後、次回スーパーレアが出るようにも祈ろうと思います…」
「お、おぅ…そうか…頑張って来いよ…」
カローラは夢遊病のような足取りで食堂を去る。
「カローラの奴…マジで大丈夫か?」
「まぁ、あれでもカローラはヴァンパイアじゃから大丈夫じゃろ」
「もしかして、教会の神気にあてられておかしくなってるのか?」
「さぁ…どうなんじゃろ…後でアルファーかDVDにでも言ってカローラの様子を伺ってもらうか」
カローラの様子を見ていていた俺とシュリでそんな会話を交わす。
「ところでシュリ」
俺は視線をカローラからシュリに向ける。
「なんじゃ、あるじ様」
「おまえ、そんな作業着なんて着て何やってんだよ?」
俺はシュリの作業着を見る。所々土汚れが付いている様だ。
「あぁ、これか、買ってきた種を早速植えておったのじゃよ」
「植えていたって、ここに畑でも耕して植えてたのか?」
「いやいや、種まき用のポットにじゃよ、それならカローラ城に戻るころには苗になっておるじゃろ?」
「あぁ、なるほど、ここを立ち去る際には収納魔法にいれて持って帰るのか… それならここで苗作りしても大丈夫だな」
シュリの奴、収納魔法を有用活用してんな。
「あるじ様、話は戻るが聖剣の方はどうするのじゃ? また何か手立てはあるのか?」
「イチロー、私も、明日には立ち直って付き合うわ」
ミリーズも少し弱々しい口調で声をあげる。
「いや、ミリーズは休んでいてくれ… 明日は俺一人で行ってくる」
「イチロー…大丈夫なの?」
「まぁ…色々とやって見るさ!!」
俺はミリーズを元気づける為に、勢いよく答えた。
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