第405話 セカンドコンタクト

 次の朝、朝食を終えた俺は、部屋の中で『麗し』の衣装に着替えている。普段なら一人で着替える事が出来るが、今日はミリーズに着替えを手伝ってもらって、完璧な装いに仕上げてもらっている。


「しかし、この衣装を纏った時は、イチローがイチローではない感じに見えるわね… 衣装の重要性が良く分かるわ…」


 俺の衣装チェックを終えたミリーズが、褒めているのかディスっているのか分からない感想を漏らす。


「まぁ、あの聖剣を説得する為なら、やはりちゃんとした姿で臨まないとな… こうした貴公子然とした姿なら、昨日のように魔族呼ばわりされることは無いだろう…多分…」


 昨日の同じ共通の言語で話しても、話が通じない聖剣との会話を思い出しながら、そう述べる。これで少しは話を聞く耳を持ってくれたらいいのだが…


「ミリーズ、私の衣装もこれでいいかしら?」


 俺と一緒にミリーズに着替えを手伝ってもらっていたカローラが、くるりと一回りして、自分の衣装をミリーズに見せながら尋ねる。


「えぇ、いいわよカローラちゃん、とても似合っているわ、ここの女の子たちに交じっても違和感がないぐらいよ」


 ミリーズはカローラの姿を見て微笑んで返す。


「…カローラ…なんで、お前、そんな修道女の恰好をしてんだよ…」


 俺は修道女の衣装を着込んだカローラに疑問をぶつける。


「これまで、スーパーレアが出なかったのは、私の神に対する祈りが足りなかったんだと思うんですよ、だから、今日追加分を買いに行く前に、神に十分祈りを捧げてから行こうと思いまして」


「それで祈りを捧げるために、衣装まで修道服に着替えたのか?」


「はい! そうです! 時々、気持ちさえあれば、作法などが間違っていても神に祈りは通じるという人がいますが、私から言わせれば、気持ちはあって当然なんですよ! だから、作法が大事なんですっ!」


 カローラは拳を握り締めて力説する。


「素晴らしいわッ! カローラちゃん! 凄いプロ意識よっ! 私も久々に教会本部に戻って、若い子の姿を見たけど、プロ意識に欠けている子ばかりで… でも、カローラちゃんの真摯な姿を見れば、今の若い子たちも身を改めてくれると思うわっ!」


「はい! 皆の手本になれるよう、懸命に努力するわっ!」


 べた褒めするミリーズの言葉にカローラは自信満々の顔で答える。


 しかし…ヴァンパイアのカローラが教会本部の若い信者の手本になるって… どうなってんだよ… 


 だが、『気持ちはあって当然、だから作法が大事』という言葉は納得できるな…昨日は保管室だからといって普段着で行くから、聖剣にあんな塩対応されたのかもしれん。ここは俺も気を引き締めて聖剣チャレンジに向かうか!



 という事で、俺とカローラはそれぞれの目的に向けて部屋を出る。ちなみにミリーズには今日も付き添いをお願いする。ミリーズも昨日の事が堪えたのか、今日は普段着ではなく、ちゃんと聖女の正装を着込んでいる。これでばっちりなはずだ!


 そして、第二保管棟に到着すると、昨日と同じアイリスちゃんが俺達を出迎えてくれて、同じく無表情のまま聖剣の保管室まで案内してくれる。


 聖剣と再び対面した俺は、女の子にしか使わないイケメンキラキラ爽やかフェイスを装って、聖剣に話しかける。



「聖剣様、昨日は大変無様な所をお見せしてしまい大変申し訳ございませんでした…

改めて自己紹介を致します。私は、イアピース国、ウリクリ国、カーバル学園都市の参加国から勇者認定を受けた三ツ星勇者で、イアピース国アシヤ領領主で男爵のアシヤ・イチローと申します」


 聖剣にそう述べて、貴族の作法に則った恭しい作法で一礼する。


「聖剣様、私は教会より始めて聖女の認定を受けた初代聖女のミリーズと申します」


 ミリーズも俺に続いて教会の作法で恭しく聖剣に一礼する。


 これで聖剣の態度が変わってくれればと思い、膝をついて頭を下げながら聖剣の反応を待つ。



「で、私の反応が変わるの思ったわけ?」



 しかし、昨日と同じ高圧的で否定的な口調の言葉が返ってくる。



「いや、私の立場や地位を理解して頂いた上で、私の領民の身ならず、この大陸の人々を救うために、聖剣様のお力をお借りしようと思った次第に御座います」



 聖剣の口調はめっさ腹が立つが、そこはぐっと堪えて憂いた美青年の表情を装って訴えかける。


「そうです! 聖剣様! 今もなお魔族の侵攻によって多くの人々が、近しい人と死別し、住む場所を失い、路頭に迷っています! 是非ともお力添えを!」



 ミリーズも熱心に訴えかける。



「地位や立場を出せば、私が屈するとでも思っているの? バカじゃないの?」



 聖剣は嘲笑するような口調で言い放つ。



「いや…そう言う訳では…ただ純粋に人々を救うために…」



 実際はそうであるが、必死に取り繕って言い訳する。



「言っておきますけどね、私の所には300年もの間、毎月、貴族だけじゃなくて王族まで来るの。勇者にしても貴方の様な三ツ星ではなく四つ星や五つ星、特別勇者なんて人も来たわ、それなのに三ツ星や貴族の最下級の男爵ごときでドヤ顔するんなてバカじゃないの?」


「ぐぬぬっ…」



 そういえばそうだった…王族たちの子弟もチャレンジに来ると聞いていたし、マサムネたちも来た事があったんだよな…



「そもそも、三ツ星や男爵ごときでどれだけの人が救えるというのよ、自分を過大評価しすぎじゃないの? あっそういえば、いつも王族から声をかけられている私の担当のアイリスに、自尊心を肥大化させた、たかが男爵の男が俺が白馬の王子様になるって言ってたわね… 恥ずかしくないのかしらその男… あっごめんなさい、貴方の事だったわね」



 俺はその聖剣の言葉に後ろのアイリスちゃんをチラリと見ると、無表情のまま顔をぷいと横に向ける。


 殺したい…昨日の俺を殺したい…


 確かに、地位を出せばと考えていたが、よく考えれば普段王族とも接しているんだったよな… それなのに男爵ぐらいでドヤ顔をしていた昨日の自分を殺してやりたい…


 俺はすさまじい羞恥心から、頭を項垂れて、拳を握り締める。



「それと貴方」


「はひぃ!!」



 矛先を向けられたミリーズは肩をビクつかせどもりながら答える。



「貴方もドヤ顔で『私は教会より始めて聖女の認定を受けた初代聖女』って言ってたわよね…それ、私を誰かを理解して言ってたわけ?」


「え…あ、あの…」



 ミリーズは青い顔をして答える。



「私はね、『聖女』だったから、神にこの身を捧げて『聖』剣になれたわけ、しかも魔王を討ち滅ぼせるぐらいのね… で、貴方は聖女としてどんな実績があるの? この魔王を討ち滅ぼした私に聞かせてもらえるかしら?」


「…………無いです…」



 ミリーズは恥ずかしそうに顔を伏せて、その身をうち震わせながらポツリと呟く。



「まぁまぁ! 聖女としての実績がないのに、私に聖女ですってドヤ顔をしていたのねっ!」


「くぅぅぅぅ~」


 

 ミリーズはコテンパンに言いのめされて涙目になる。


 そこで俺は後ろのアイリスちゃんに向き直る。


「あの…すまんが今日はここで切り上げて…仕切り直してきて…続きは明日でもいいか?」


 俺もミリーズもこんな状態では聖剣の説得を続けられない。



「恥を知る人間だったら、もう二度と私の前に姿は現わせないわね」


「はい、別に構いませんよ…明日も来れるのなら…」



 聖剣も聖剣だが、アイリスちゃんも結構毒があるな…



「じゃあ…今日はこれで切り上げさせてもらう…明日も…必ず来る…つもりだ…」



 俺はそう答えると、落ち込むミリーズを支えながら宿舎に戻る事にしたのであった。

 

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