第403話 ファーストコンタクト

 第二保管室棟に辿り着くと、表の入り口前まで来ていた金髪碧眼の美少女が出迎えてくれた。その後ろには入口を守る衛兵の姿も見える。


「本日、イチロー様の聖剣取得挑戦の立会人を担当するアイリスと申します」


 そう言って、歳の割には洗練された作法で挨拶をする。やはり、なんだかんだ言って教会の人間は色々とレベルが高い。うん、年齢的にギリギリストライクゾーンかな?


「三ツ星勇者でイアピース国アシヤ領の領主を勤める男爵のアシヤ・イチローだ」


 普段はこんな長々と肩書を名乗る事はないが、こんないい感じの美少女が目の前にいるなら名乗らない訳にはいかない。


 もしかしたら俺の肩書の凄さに感銘して、いやぁ~ん♪ こんなイケメンかつ素敵で、その上こんな凄いお方が私の前に現れるなんて… もしかして、私の白馬の王子様で、私の迎えに来てくれたのかしらっ! もう私の身も心も処女も…



 ぎゅっ!



 いきなり俺の尻がつねられる。何事かと思い後ろを振り返ると、微笑んでいるが静かに怒りを湛えるミリーズの姿があった。


「イチロー… ここでそんな妄想を垂れ流されたら…私が凄い恥を掻くんだけど… 分かってくれる?」


「アッ、ハイ…ミリーズさん、すみませんでした…」


 最近は妄想を漏らしてなかったんだけど、久々に漏らしてしまったな…まぁ、こんな美少女がいたから仕方が無い。


「そちらの女性は本日イチロー様側で立会人をなされる聖女ミリーズ様でよろしいでしょうか?」


 担当の美少女は、何事もなかったように、淡々とミリーズに確認を取る。


「はいそうです!」


 美少女に尋ねられたミリーズは表情を戻して答える。


「分かりました。申請通りですね、それでは聖剣の場所まで案内いたしますので、私の後にお続きください」


 美少女が扉に向き直ると、入口を警備していた衛兵が警戒を解き扉を開く。そして、美少女は静かに歩きながらその中へと進んでいく。


 俺とミリーズの二人は先程の妄想垂れ流しの事を無かったように進んでいく美少女に、安堵しながらもその後につづく。


 美少女はロビーをそのまま通過して、細い廊下を進み、突き当りにまた衛兵が警備している扉の所まで進む。衛兵は美少女の姿を見ると、玄関の時のように警戒を解き扉を開く。するとそこは地下に降りる階段になっている様だ。


 美少女は俺達に振り返る事無く階段を降りていく。まぁ、美少女はゆっくりと歩いているので俺達が遅れることはないが、まるで後ろにも目が付いて俺達が遅れていないのが分かっている様である。


 そして、地下に辿り着き再び進んでいくと、扉の前に今度は二人の女性騎士が警護している扉が見えた。そこで美少女は立ち止まり、俺達に振り返る。


「聖剣はこちらの部屋でございます」


 俺達が扉の前まで辿り着くと、美少女が女性騎士の一人に視線を向けると、その女性騎士が扉をあける。


「では、中に進みます」


 美少女が中に進み俺達も後に続くと、女性騎士の一人が俺達の後ろにつき、もう一人が外から扉を閉める。普段から行っている警戒の手順なのであろうが、なんだか罠にはめられて閉じ込められたようで、少し落ち着かない。


「あちらが聖剣です」


 美少女が指差す。そこには、台座に柄を上側に掲げられた聖剣の姿があった。


 聖剣と言っても300年前に誕生したものなので、デザイン的には、最新の儀式用の剣に比べたら装飾は大人し目で、刀身もゲームに出てくるような馬鹿でかい物ではなく、普通の長剣の長さだ。ただ、刀身自体の素材は、鋼では無い様で、クリスタルの様な透明感を持ちつつ金属の様な光沢もあり、ただの見た目では言い表せない神器特有の威圧の様な物が感じられた。


「これが…聖剣…」


 俺はゴクリと唾を呑む。


「はい、教会が管理する正真正銘の聖剣で御座います」


 担当の美少女が後ろに控えて説明する。


「じゃあ… 所有できるか試してもいいか?」


 俺は神妙な面持ちで美少女に振り返り尋ねる。


「はい、どうぞお試しください」


 美少女は静かに頷いて答える。


 俺は聖剣に向き直り、再びゴクリと唾を飲み込み、汗ばんだ手をズボンで拭う。


 そして、聖剣に一歩踏み出した時に…



「近寄らないでっ!!」



 部屋に女性の声が響く。



「えっ?」



 俺は振り返り部屋の中にいる美少女とミリーズ・女性騎士を見るがそんな言葉は口にしていないような素振りをしている。


 俺は再び聖剣に向き直り、一歩踏み出す。



「だから、近寄らないでって言っているでしょ!!」



 再び女性の声が響く。今度は聖剣から声が響いている事が分かる。しかも俺の脳内に直接ではなく、普通の声としてだ。



「ま、まさか…本当に人格を持ったインテリジェンスソードだったのか?」



 俺はそう言いながら聖剣に手を伸ばそうとすると、何かに手を弾かれる。



「いてっ!」



「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!! 魔族よぉぉぉ!! 魔族!!! この男は魔族よぉぉぉ!!! 魔族が私を奪いに来たんだわぁぁぁぁ!!!!」



「えぇぇぇぇっ!!?」



 聖剣が電車の中で痴漢にあった女性の様に悲鳴を上げ始める。しかも、その内容は俺を魔族と言い出す始末だ。


 いきなり聖剣に濡れ衣を着せられた俺は、困惑して慌てて後ろを振り返り、弁明を始めようとする。



「い、いや、お、俺は魔族じゃなくて…ちゃんとしたゆ、勇者なんだが…」



 いきなり聖剣に魔族呼ばわりされて、教会の聖騎士たちが駆けて来て掴まえられるのではないかと心配していたが、美少女も女性騎士も何事も無かったように佇んでいる。ただミリーズだけがあたふたとしている。



「はい、分かっております。聖剣様がそう仰るのはいつもの事ですから…」


 美少女が一言述べる。


「えっ?」


「聖剣様は毎回、聖剣取得に来られた方を魔族と罵っておられるのです」


 美少女は淡々とそう述べて、後ろの女性騎士もうんうんと頷く。


「えぇぇぇぇ!?」


 俺は美少女の説明に盛大に驚きの声を上げる。



「貴方!! 何を言っているのよ!! 魔王を倒したこの私! この私がこの男は魔族だと言っているのよ!!」


「そう仰いますが聖剣様… 今まで方々を後で取り調べしてきましたが、どの方も魔族や魔族の関係者ではない事は証明されております。なんでしたら、300年間に渡る全ての取り調べ記録もお持ち致しましょうか?」


「男は皆、魔族なのよ! 何故、それが分からないのっ!!」



 えぇぇ… そんな『男はみんな狼なのよ~』みたいなノリで魔族と言ってたのかよ…


「イチロー様、こんな聖剣ですが、取得の挑戦を続けられますか?」


 当人の聖剣がそこにいるのに、美少女は表情一つ変える事無く俺に聞いてくる。



「キィィィィィ!!! 『こんな』のとはなによっ! 私は魔王を倒した聖剣なのよっ!!」



 聖剣がヒステリックに声をあげる。


 こんなのだろうが、そんなのだろうが、魔族に対抗する唯一現実的な手段である聖剣を見逃すわけにはいかない。



「続ける…」


「分かりました。では、気のすむまでお続けください」



 美少女は淡々とそう答えた。



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