第402話 申請許可
アソシエの事は一件落着したが、新たな問題が発生していた。
「幸運の神様… 幸運の神様…! お願いします! お願いしますっ! レアを… スーパーレアを当てさせて下さい! スーパーレアが一枚も出ないのですっ!」
朝食前のお祈りの時に、カローラが目を固く閉じ、顔の前にぎゅっと硬く手を組んで不穏な言葉を述べながら懸命に祈りを捧げているのだ。
「カローラ… もしかして、レアが出なかったのか?」
懸命に祈るカローラに問いかける。
「はい…そうなんですよ… 出てくるのは各神派の担当神官ばかりで、肝心のスーパーレアの神様が出ないんですよ… 神が姿を現さない信仰なんてありえますか?」
「お、おぅ…そうか…」
俺のいた現在では神様が姿を現さないのが普通なんだけど、ここの異世界では実際に降臨させることが可能だからな…
そして、俺も一応形式だけのお祈りを済ませて朝食を取ろうとすると、昨日は教会本部で仕事をしていたミリーズが声を掛けてくる。
「そうだ、イチロー」
「なんだ? ミリーズ」
俺は口に運びかけていたパンを置いてミリーズに向き直る。
「今朝、ロクサーヌ様がわざわざこちらまで来て下さって、聖剣の申請が降りたって教えてくれたのよ」
「それはマジか? で、いつから聖剣チャレンジができるんだ?」
俺はパンを再び手に取り齧り付く。
「それがロクサーヌ様が特別な配慮をして下さったお陰で、今日これから出来るようになったのよ」
「えっ? 今日これからって、朝食食ったらすぐに聖剣チャレンジできるのか?」
「えぇ、でも、本来なら、儀式祭場に聖剣を移してからの聖剣取得の挑戦になるんだけど、今祭場を他の事で使っているから、第二保管室の方に直接向かって欲しいとの事なのよ」
店頭で品定めをするのではなく、在庫倉庫で確認するようなものか
「まぁ、儀式祭場だろうが倉庫だろうが俺は構わんがな」
「ただ、第二保管室は普段使わない所だから、あまり掃除はしてないと思うの」
埃とか積もってるってことか?
「分かった、正装していこうと思ってたが普段着でいいな」
「えぇ、構わないと思う」
ミリーズと話を終えると、俺はカローラに向き直る。
「という訳で、俺は聖剣チャレンジに行かなくてはならなくなった。だから、俺の分のカードを開封してていいぞ」
「本当ですかっ!? イチロー様っ!!」
カローラは目をキラキラさせて俺を見る。
「あぁ、普段からカードの貸し借りを当たり前のようにしているしな、いつも通りに、互いにデッキに組み込むときは所有者の方に優先権があるやり方でいいよ」
「ありがとうございますっ! イチロー様! わーい! カローラ、イチロー様大好きっ!」
先程まで落ち込んでいたカローラが超ご機嫌になって朝食を食べ始める。
「ふふふ、良かったわね、カローラ… じゃあイチロー朝食を食べ終えたら私が案内するから聖剣の場所に行きましょうか」
「わかった」
カローラの様子を見ていたミリーズが笑顔を作る。
その後、朝食を終えた俺は特に自室に戻る用事が無いのでそのまま、聖剣のある第二保管室に向かう事になる。ミリーズは子供のレーベをアソシエ達主腐連に預けた後、俺を案内してくれる。
しかし、アソシエの奴…機嫌を直してくれたのはいいものの、子守をしながらBL本鑑賞会っていうのはどうなんだ… 絵本見たく子供たちに読み聞かせをするんじゃないだろうな… 心配だ… めっちゃ心配だ…
だから、別れ際に比較的BL嵌ってないネイシュにアソシエが子供たちにBLの読み聞かせをしないように頼む。
「イチロー、それは大丈夫、子供たちには私が昨日『普通』の書店で購入した『普通』の絵本を読み聞かせるから」
ネイシュは書店と絵本の形容詞に『普通』を強調して説明する。…どうして『普通』を強調するんだ…? 書店の方は兎も角、絵本の方に『普通』じゃないものが存在するのか…?
「お、おぅ…分かった、頼んだぞ…ネイシュ…」
『普通』ではない絵本の存在について、聞きたくなったが、人類が触れてはいけない深淵の奥を覗き込むような恐ろしさがあるので、聞かないでおいた。
「…じゃあ、行こうかミリーズ」
俺とミリーズは連れ立って教会の宿泊施設をでる。俺達の泊まっていた宿泊施設を含めて、この辺りの教会の施設を見ると、なんだか俺のいた現代日本の大学の敷地にいるような感覚に囚われる。
広大な敷地に人々が集う広場、教義を演説する講堂に、数多くの信者を収納できる礼拝堂。また、それぞれの神について神官の教育をする教育棟が幾つも立てられているのが大学感を醸し出している。
「で、どっちなんだ? ミリーズ」
「あちらの方角よ」
そう言ってミリーズが指差して歩き出し、俺もミリーズの隣に並んで歩き出す。こんな感じに敷地内を歩いていると、前世での大学生時代を思い出す。
まぁ、大学生時代と行っても、一年もしないうちにPCゲームに嵌ってしまい殆どいかなくなってしまったが…
「しかし…スゲー広い敷地だな…」
「そうね、教官本部の中枢があるところだからね」
「しかも、手入れも行き届いているし、建物も豪華だ…よっぽど金があるんだな…」
丁寧に管理された芝生や、巨大な建物を見てそう述べる。
「ふふふ、そこはこの大陸全土の教会を束ねる教会本部だからね、お金も人も集まってくるのよ」
「やはり、地方の王族や貴族が権威を固持したり、教会に対する権限を得るために金をだしてくるのか?」
「うーん、それもあるけど…純粋に信仰心と言うか…推しの要素が強いわね」
「推し?」
ミリーズの言葉に耳を疑い聞き直す。
「えぇ、推している神様だけが、設備が乏しかったり、信者が少なかったら悔しいでしょ? だから、皆、推している神様を盛り立てる為にお布施をしているのよ」
「そう言えば、国境の時も似たような事を話していたな…」
どうもこの世界は現人神信仰が多いせいか、現代日本の様な神に対する信仰ではなく、どちらかと言うと、アイドルやタレントに対する推し活みたいな感じになって来るのか… 始まっているのか終わっているのか正直分からん…
「あっ、イチロー見えてきたわよ、あそこよ!」
そう言ってミリーズが遠くに見えてきた建物を指差す。その建物は他の建物とは違いかなり年代が古く豪華さも掛けていた。
そんな所に保管されている聖剣って…本当に大丈夫なのかよ…
俺は少し不安になってきた。
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