第399話 お買い物
その後、俺達一行は観光用の馬車を使って首都ホラリスの観光に出かける。俺の馬車やバス馬車の様な密閉式の馬車と違って、周りを見渡せる解放式の番高揚馬車の皆の評判は良かった。
特に子供たちは、カローラ城とは異なる首都ホラリスの街並みに、キャッキャと黄色い声を上げて喜んでいる。
「パパ! お店いっぱいある!」
「色んなものが並べてある!!」
「人がいっぱい!」
「知識だけではなく、実際に目にするのはたのしいですっ!」
子供たちには好評のようだ。
「あっ! あの植物は見たことがないのぅ! 是非とも欲しいっ!」
「イチロー様! イチロー様! ホラリス限定カードの広告がありますよっ!」
「あの露店の食べ物! 旨そうでやすねっ! どんな味がするのか食ってみたいでやす!!」
子供と同様に騒ぐ、シュリ、カローラ、カズオ…
お前らも子供かよ… でもまぁ…気持ちは分らんでもない。シュリが欲しがるあの植物は俺の部屋にも飾りたいし、カローラの指差すホラリス限定カードも是非とも欲しい、カズオのいう露店の食べ物も確かに旨そうだ。
俺はそんな皆の希望を黙ってうんうんと頷きながら聞いていく。何故黙って聞いているかと言うと、さっさと一行による観光を終わらせて、こっそり一人であの『闇と欲望の信仰場』に向かう為である。
流石に無理矢理幼児を連れていくわけにはいかないので一人で行くしかない。しかもアソシエにバレたら怒られそうである。だから今は平然と家族サービスや仲間サービスを行う顔を装って皆の観光に付き合う。
「この装飾品、見た目のデザインも良いし、性能も高そうだわね」
「うんうん、アソシエに良く似合うと思うぞ」
「このナイフとこのナイフ、スキニングしやすそうだし、こっちのは薪のバトニングしやすそう」
「うんうん、両方買っちゃっていいんじゃないか? ネイシュ」
俺はポーカーフェイススマイルでアソシエとネイシュの意見に手放しで賛同していく。すると違和感を感じたアソシエが俺にジト目を向けてくる。
「…なんだか今日のイチロー、変に素直で愛想が良いわね…何か悪だくみでも考えているの?…」
「い、いや、そんな事は無いよ、今日は普段苦労を掛けている皆を…労わってやろうと思っているだけだよ…」
少ししどろもどろになりながら答える。
「イチロー…目が泳いでる…」
ネイシュがそんな俺の目を見て、ポツリと呟く。
「確かに目が泳いでいるわね…でも、まぁいいわ、今日はちゃんと私たちの観光に付き合っているんだし♪」
望みの物を買う事ができるアソシエは、ホクホク顔で俺に対する疑念の事を忘れ、俺はその事にほっと胸を撫で降ろす。
次にプリリンが行きたがっていた魔法素材店に向かう。
「うわぁ~♪ ダーリン♪ 地元のイアピースでは見かけない素材がいっぱい置いてあるわよ♪」
「プリリン、ディートの欲しそうな素材も分かるか?」
「えっ? ディート君の? 分かるわよ、たまに魔法技術の相談にくるから」
ディートからしたら一番とっつきにくそうなプリンクリンとも交流しているのか、ちゃんと城のみんなと馴染んでいる様だな。
「じゃあ、プリリンの欲しい物を含めてディートの欲しそうな物もついでに買っといてくれ」
「あら、優しいのねダーリン♪ もっと好きになっちゃったわ♪」
魔法素材店での買い物を終えた後は、次はシュリの行きたがっていた園芸店だ。
「おぉ! わらわの知らぬ色々な植物や種が売っておるぞ! これはどれを買うか目移りするぞ…」
シュリは子供の様に目を輝かせて植物や種を見る。
「とりあえず、目につくものは全て買っておけよ、シュリ」
「いや、それは物を選ぶ楽しみがないじゃろ…」
「でも、後で買っておけばよかったと後悔するよりマシだろ? お金もそんな掛からないし」
「確かにそうじゃのぅ… 城の近くの街のようにほいほいと来れる場所ではないからのぅ… あるじ様のいう通り全部買うとするかっ!」
俺の言葉に後押しされて、シュリは目につく物をどんどん買い込んでいく。
次はカズオの行きたがっていた食材や調味料の店だが、カズオが物欲しそうな顔をしてじっと俺を見てくる。
「何だよ…カズオ… お前もシュリのように欲しい物を全部買えばいいだろ?」
「本当ですかっ! 旦那ぁ! ありがとうごぜいやす!!」
俺に全部買ってもいいと言われたがったのだろう… 喜んで目につく品を買い込んでいく。…しかし、欲しがるのはいいけど、女装姿で、親指を咥えながら物欲しそうに俺を見るのは止めて欲しい… 鳥肌が立ってくる…
そして次に向かうはカローラの行きたがっていたカードショップである。
「イチロー様! イチロー様! カードショップですよ! カードショップっ! しかも、新弾の限定だけでなく、今までの弾のカードも売ってますよっ!」
カローラが興奮して狂乱状態で声を上げる。
「全部買え! 俺とお前の分を、 しかもパックでなくボックスで買え! ボックスでだ!」
「良いんですかっ! イチロー様! ありがと~! わーい! カード! カローラ! カード大好き!! アルファーとDVDもカードを買うのを手伝ってっ!!」
カローラは超ご機嫌で、アルファー達にカードのボックスを持たせて会計にスキップで向かっていく。
「イチロー…何か考えていると思ったらこの事だったのね… しかもいい大人が自分の分まであんなに買わせちゃって…」
カードをボックス買いさせる俺にアソシエが苦言を挺してくる。しかも、俺の悪だくみがこの事だと勘違いしている様だ。…しめしめ…
「アソシエ、知らなかったのか? 大人の男と子供の違いは趣味に掛ける金額だって事を」
「…聞いた事があるけど…まさか本当だったとは…しかもそれが自分の身内だなんて…」
アソシエは複雑な表情をする。
「男は…いつまでも少年の心を持ち続けるのだよ…」
俺は決め顔でそう答える。
「カローラは?」
ネイシュがそう言って支払いをしているカローラを見る。
「あれは単なるオタクだ」
「子供たちが感化されたらどうしよう…」
そう言ってアソシエが眉を顰めた。
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