第398話 カローラの信仰

 次の日の朝。外に出かける前に朝食になるのだが、ここは城のように好きな時間に好きな物を食べる形式ではなく、決まった時間に皆で食事に祈りを捧げてから一緒の物を食べる形式なので、二度寝はせずに早々に起きて、部屋をでる。


「ダーリン♪ おはよー」


 プリリンと偽名しているプリンクリンが挨拶をしてくる。


「おはよう、プリ…リン…」


「あら、ダーリン、呼びにくかったらハニーでもいいのよ?」


「ハニーか… その呼び名は嫌な記憶を思い起こさせるので勘弁してくれ…」


 俺はあの黒歴史の老夫婦の事を思い出して、そう答える。


「おはよう、イチロー」


 アソシエも挨拶をしてくる。


「おはよう、アソシエ」


「ねぇ、イチロー、ミリーズが今日の案内が出来ないって言ってたんだけど…どうする?」


 観光する気満々だったアソシエは案内役のミリーズがいない事に不安を覚えて声を掛けてくる。


「あぁ、それならカローラが案内地図を手に入れたみたいだから、それを見て回ればいいだろ?」


「それで、そのカローラどこにいるの?」


 アソシエに言われて周りを見てみると、殆どのメンバーが部屋から出てきているがカローラの姿が見当たらない。


「シュリ、カローラを知らないか?」


「ん? カローラならいつもの様に夜更かしして、まだ起きて来ぬのではないか?」


「まったく…しょうがねぇ奴だなぁ… 俺が起こしにいってやるか」


 そう言って、カローラの部屋に行き、ベッドで寝息を立てているカローラを起こす。


「おら、カローラ、起きろ、朝飯だぞ」


「ふぇ?」


 眠気眼のカローラを抱え上げ、ガタガタと揺らす。


「カローラ、いつも夜更かししやがって、ここは城じゃねぇんだぞ」


「…ヴァンパイアの私に夜更かしをするなって… 無茶言ってません?」


「いや、お前はヴァンパイアである事を差し引いても、好きな時に寝て、好きな時に起きて、好きな時に食べると…フリーダム過ぎる。外ではみんなと合わせろ」


 その後、アルファーとDVDを呼んでカローラを急いで寝巻から着替えさせ、廊下に出る。


「イチロー…今更の話…なんだけど…」


「どうしたネイシュ」


 カローラの姿を見てネイシュが俺に声を掛けてくる。


「ここホラリス…しかも教会本部に…ヴァンパイアのカローラを連れて来てもよかったの?」


「…確かに…そうだな…」


 ネイシュの言葉に欠伸をしているカローラを見る。


「ふわぁ~ ん… 神を信仰しているなら…人間もヴァンパイアも関係ないでしょ?」


「えっ? カローラ、お前、神を信仰しているのか!?」


 カローラの言葉にちょっと驚く。


「えぇ、私ほど、神を信仰している者はいませんよっ!」


 カローラは自信ありげにそう答えた。


 その後、朝食前に神に祈りを捧げる時に…


「幸運の神様…幸運の神様っ… レアが当たりますように… レアが当たりますように…」


 熱心に幸運の神に祈りを捧げるカローラの姿があった。


 うん、確かに俺達の中で一番熱心に祈りを捧げてるわ…



 そして、朝食を終えた俺達は、街に繰り出す事になる。その打ち合わせをする為に、皆でロビーに集まり、案内地図を眺めながら、皆それぞれに見て回りたい場所を告げていく。


「私は装飾店を回りたいわね」


 アソシエがそう述べる。


「私は魔法薬の素材を置いている場所かしら」


 プリンクリン…いや、ここではプリリンと言っておかないとな…プリリンらしく魔法薬の材料について希望を述べる。


「ネイシュは新しい刃物が見てみたい」


 ネイシュらしい希望だ。


「イチロー様! カード!カード! カローラ、カード買いたい!」


 カローラの希望はいつもブレないな。


「わらわは本屋と種を売っている場所じゃな」


 シュリはいつも通りの希望だ。


「あっしは食材ですね、あと調味料もみたいでやすね」


 カズオも女装しながらそう述べる。


 みんなの希望を聞いて俺は、うんうんと頷く。



「分かった分かった、お前ら全員、バラバラで全く協調性が無い事が分かった」


「わぅ! ポチはイチローちゃまとお散歩できるだけでいいっ!」



 そう言ってポチが俺の足にじゃれてくる。



「そっかぁ~ ポチは可愛いな~いい子だ!いい子だ!」



 そう言ってポチをワシワシとしてやる。



「贔屓! 贔屓じゃ!」



 シュリがおこな様子で声を上げる。そう言えば、シュリの贔屓発言は久々に聞いたな…


「そんな事を言うなら、イチローはどこへ行くつもりだったのよっ!」


 アソシエがむっとした顔で突っかかってくる。


「ん? 俺か? 俺の行きたいところは…」


 俺は思わず、『闇と欲望の信仰場』と答えそうになるが、ぐっと押さえる。恐らく俺の予想では、『闇と欲望の信仰場』は現代で言う所の、泡の国…もしくは大きなお友達のおもちゃや、エロい本などを売っている所に違いない。


 そんな所に行きたいと言い出せば、俺の方がとっちめられてしまう…ここは何とか誤魔化さないと…


「お、俺は今日は家族サービスと言うか…仲間サービスと言うか… 皆の行きたいところへ合わせるつもりだよ」


「本当に?」


 アソシエが疑いの目で俺の顔を覗き込んでくる。


「本当だとも」


「あっ、イチローの目、泳いでる…」


 ネイシュがポツリと漏らす。


「確かに泳ぎまくっているわね… しかも必死に私と目を合わせないように… 何を隠しているの!? どこへいくつもりだったの!?」


「別に隠してねぇーよ! それに今日は皆に合わせるって言ってるからそれで良いだろ!」


 疑いの目を向けるアソシエに俺は大きな声で返す。


「ダーリン、ダーリン、これ見て?」


 そんな時にプリリンが俺の腕に絡みついて来て、紙を俺の前に出す。


「このルートで行けば、効率よく全員の希望通りの場所に行けるでしょ? しかも、観光用の馬車も貸し出してくれるようだがら、今日一日で全ての場所を回れるわ」


 そう言ってプリリンが差し出した案内地図には、それぞれの希望の場所が記載されており、そこを最短ルートで通る道が記されていた。


「おぉ、これはいいな」


「でしょ? ダーリン、もっと褒めてもいいのよ?」


「おぅ、でかしたぞプリリン」


 早々に統べて回ることが出来れば、空いた時間にあの『闇と欲望の信仰場』にこっそりと行けるかも知れないな…


「あるじ様よ…何を考えておるのじゃ?」


 シュリが俺の悪だくみを察知してジト目で声を掛けてくる。


「いや、別に… それよりも早速出かけるかっ!」


 そうして、俺達は街へと繰り出したのであった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る