第397話 暗躍する陰

 申請を済ませた後、俺達一行は、教会の宿泊施設に移動する。流石、大陸全土を束ねる教会本部だけあって、大きな宿泊施設だ。しかも、全員同じ階で個人に一つの部屋が割り当てられていく。


 道中でまたカズオが変な事を言い始め居たので、男部屋、女部屋と割り当てられていたらと想像して、肝を冷やしていた所だ。


 さて、泊まるところは確保したので、後はどうするかと考えていると、早速、カローラとシュリ、そしてポチが期待に目を輝かせて俺の部屋にやってくる。


「イチロー様! イチロー様! カード! カード買いに行きましょ!」


「あるじ様! わらわは本屋と野菜の種を買いに行きたいのじゃ!」


「わぅ! おさんぽ!」


 アソシエ達の子供たちはまだ幼児だから、言ってこないけど、あの子供たちが大きくなったら、こんな風に一緒に出かけたいって言ってくるんだろうな… ってか、お前ら子供かよ…


「まぁ、いいけど、夕食の事をどうするか皆と相談してから決めようか」


 そう答えていると、ミリーズも俺の部屋に姿を現す。


「あら、カローラちゃんたちも来てたの? イチロー、ちょっといいかしら?」


「なんだ? ミリーズ」


「教会側が私たち一行を会食に招待したいって連絡が入ったのよ」


「今日の夕食なのか? ってことは教会側のお偉いさんとの食事になるな」


「そうね、私やイチローと顔を繋ぐために色々な人が来ると思うわ、勿論、私の旧友も来ると思うけど」


「そうなると、断る訳にはいかないな…」


 断ったら聖剣チャレンジを却下されるかもしれんし、ミリーズも旧友と会いたいだろう。また、俺自身が色々な伝手を作っておくのも悪くはない。


「というわけで、カローラ、シュリ、ポチ、外を出歩くのは明日だ。今日はこれから教会のお偉いさん達との会食になるから準備しておけ」


 三人にそう告げる。


「そういうことなら仕方が無いのぅ…」


「じゃあ、みんなと遊んでくる!」


 シュリとポチはそう言って素直に諦める。


「じゃあ、イチロー様、これを見ていてください」


 カローラは俺にチラシを渡してくる。


「なんだ?」


「ロビーに置いてあった、ここホラリスの案内地図ですよ、どこに何があるのか書いてあるので、明日効率よく回っていきましょう!」


「なるほど、これがあれば、ウロウロ歩き回らず効率的に目的地に行けるな…ん?」


 地図を見ていた俺はあるものに気が付いて声を上げる。



「あっ、やっぱりイチロー様も気が付きましたか?」


 カローラがわくわくと期待した目で俺を見上げてくる。


「あぁ… これって…名前が…ってかよくこんな名前の場所が首都ホラリスにあるな…」


「私もどんな場所なのかは、名前だけでは分からないんですけど… その名称は行ってみたくなりますよね…」


 恐らく、俺とカローラで期待しているものが異なるとは思うが、これはちょっと行ってみたくなる名称の場所がある… 



 『闇と欲望の信仰場』



 うーん…どんな場所なんだろ…エロい所なんだろうか…それとも中二病をくすぐる場所なんだろうか… 行きたい…行ってみたい…


 でも、とりあえずは目先の会食を無難に済ませ、教会のお偉いさんの心象を良くして聖剣をゲットしないと…


 

 そう言う事で、俺達はお偉いさんと会食するために、良い衣装に着替えて会食の準備をする。


 そして本日の会食は立食式で行われるというので、メインゲストの俺とミリーズは、俺がミリーズをエスコートする形で会場に入場する。会場は、俺達、参加するメンバー、俺、シュリ、カローラ、ポチ、カズオ、ミリーズ、アソシエ、ネイシュ、プリンクリンの9名が参加するにしては大き目の会場が用意されており、他の参加者として50名程の教会関係者がいた。


 その50名が全て教会のお偉いさんかと言うとそうでもなさそうで、恐らくミリーズに会いたい知人や旧友が多く含まれているのだろう。


 また、こちら側から参加するメンバーとしてプリンクリンがいるが、プリリンという偽名を使っている様だ。なんだよ…その気円斬でも使いそうな偽名は…


 他にもカズオの事も心配していたが、カーバルでカズコの時に買ってやったドレスを今のカズオでも着られるように仕立て直して、女装して参加している。お前はそれで貫くつもりなのか…


 後、ここに参加していない、蟻族のアルファーとDVDは肉メイドと部屋で子守をしてもらっている。流石にこの世界でも公式の会食の場で幼児の参加はマナー違反という事らしい。とりあえず、子守をしてもらっている連中には、後で恩返しをしておかないとな…


 そして、教会側、ミリーズ、俺の三人で挨拶をした後会食が始まる。


 会食が始まってすぐに、俺とミリーズは参加者に取り囲まれる。ミリーズは昼間申請を担当したロクサーヌさんや同じ世代の旧友に取り囲まれ、俺の方はお偉いさん達に取り囲まれた。


 どうして、ミリーズの方ではなく、俺の方にお偉いさんが来るんだと思ったが、どうやら既にミリーズとは顔見知りなので特に顔を繋ぐ必要が無いので、俺の方に来たようだ。


 また、俺に話しに来たのはただのお偉いさん達だけでなく、各神の信仰を担当する司祭たちが順番で話に着て、お近づきの印にと言って、フィギュア大の神像を手渡していく。それぞれの信者にとっては貴重でありがたい神像と思われるんだけど… 会食の席でこんなものを渡されてもな… 


 でもまぁ、流石、教会本部で担当司祭が渡してくる神像である。フィギュア大と言っても細部の作り込みや、造形のセンスがそこらにあるものと一線をかくしている。ポージングも凝っていて、男神はカッコいいし、女神は何といっていいか…うん、正直に言おう、ちょっとエロい… 人目があるので出来ないが、ちょっと下側から覗き込みたい… 


 と言っても、何体も渡されると邪魔なので、こっそりと収納魔法の中に納めていった。


 そんな感じに多くの教会関係者と交流していった。そして、ちょっと間が開いた時に、今度はミリーズが俺の所にやってくる。


「イチローちょっと、いい?」


「どうした? ミリーズ」


「明日からの予定何だけどね…」


 確か、特に用事が無ければ、ミリーズの案内で街を探索することになっていたはずだ。


「何か予定が入ったのか?」


「うん…そうなの… ちょっと、聖女の力を使って欲しい人がいるって言うのよ… だから、私、明日の案内が出来なくなっちゃって…」


「うーん、まぁしゃあないわな… ミリーズは元々教会で育てられた人間だし、その教会から頼まれたら断れないよな…」


「ごめんね…イチロー… 他のみんなにも後で謝っておくわ」


「そんなに気にしなくていいよ、カローラがここの案内地図を手に入れたみたいだから」


 俺はミリーズに気遣って、そう答えておく。


 そんな感じで、教会側との会食を済ませたのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「奴の顔を覚えたか…」


 ある教会の者が、イチローを眺めながら物陰に潜むものに声を掛ける。


「はい…この目でしかと…」


 陰に潜むものは間者としては、若い女の声で答える。


「もしかすれば、あの者が聖剣を手に入れるやもしれぬ…」


「あの…男がですか?」


 間者は少し驚いたような声で答える。


「あぁ… ほぼ無いと思われるが…もし手に入れそうになれば…其方に任務をつかわすかもしれぬ… それまでにあの男の情報を集めて置くのだ…」


「分かりました…」


 そう答えて間者の姿は消えたのであった。




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