第396話 申請

 俺達の馬車は首都ホラリスの中に入り、ミリーズの道案内に従いながら、暫く街の中を進んでいる。流石、宗教国家の首都だけあって、行き交う人々は多く、その殆どが巡礼者、司祭など宗教関係者ばかりだ。


 道を挟む2・3階建ての街並みは綺麗に漆喰を使って整えられており、道もガタつきの無い石畳で整えられている。


「ここはカーバルとはまた違った凄さがあるな、で、ミリーズ、あとどれぐらいで教会本部に到着するんだ?」


 道を挟んで左右に覆いかぶさるようにそびえる建物を見上げながらミリーズに尋ねる。


「あら、もう教会本部に入っているわよ」


「えっ!?」


 ミリーズの言葉に驚いて視線をミリーズに向ける。


「ここの区画…というか首都そのものが教会本部になっているのよ」


「マジか…」


 俺は驚いて目を丸くする。


「えぇ、だって大陸全土を教会を束ねる本部だもの、恐らくイチローが想像しているような礼拝堂だけではなく、全土の教会を管理する事務機関、司祭を教育する機関、その司祭が寝泊りするところ、司祭だって食事をするからレストランもあるわね、その他、各地の依頼に応じて教会を建築したり神像を作成したりと、教会本部の仕事は多岐に渡るわ」


 現代でいう所のバチカン市国の様な物か…


「確かに言われてみればそうだな、大陸全土を管理するならそれぐらいの組織が必要だわな… で、とりあえずはどこの部署に向かっているんだ?」


「各国要人向けの総合窓口よ、そこで申請を出しておいて、その後、宿泊施設の順になるわね」


「申請を出して、宿泊施設という事はすぐに聖剣チャレンジが出来るわけではないってことか?」


「えぇ、そうよ、いくらイアピースの紹介状や私の口利きがあったとしても、紹介確認が必要ですからね、ちゃんとした手順に則った申請をしないと結果を貰えるまで一か月も待たされる事があるわ」


 なんだか日本のお役所仕事のようだな、しかも手順に則った申請をしないと一か月も待たされるって…お布施の量で決まるのか?


「後、宿泊施設についてなんだけど、民間の宿や、イチローだったらイアピースの大使館に申し込めば宿泊する事もできるけど、今回は教会本部の宿泊施設でいいわよね?」


「あぁ、別に構わないが、なんでだ?」


「教会の宿泊施設の方が本部内で行動しやすいから、出来れば昔の友人や知人にあっておきたいのよ」


「あぁ、なるほど、それは重要だな。この機会に色々と話してくるといいよ」



 その後、ミリーズの道案内に従い総合窓口の所に到着して申請を行う。普通の申請なら建物の一画を使って待合室があるのが普通だが、やはり大陸全土の教会を束ねるとなると、建物一つを使って待合室になっている。


 俺とミリーズが申請に向かい、他の仲間たちは馬車の中で待つことになる。


 そして建物の入口の所、申請内容によって階層が分けられ、そこで番号札を受け取り、幾つもある窓口から呼ばれるのを待つ仕組みになっている。


 待っている間、辺りを見回してみると大きな黒板があり、申請受理結果報告番号と書かれて、幾つもの長い番号が書かれている。なんだが、大きな病院の調薬済掲示板のようだ。


 また、順番待ちをしている人も、そこらの人間ではなく、どこぞの王族、貴族、又はそれらに従ずる文官のような人間ばかりで、窓口から番号を呼ばれるとその窓口に進み、幾つか話をした後、別室へと進んでいく。


 なんだか、この辺りも大きな病院で受診をするような感じである。


「114514番の方、こちらの窓口にどうぞ」


 窓口の一つから声が上がり、俺は手元の番号札を確認する。


「俺達の番号みたいだな、行こうかミリーズ」


 自分たちが呼ばれたのでミリーズを連れて窓口へと向かう。そして、カウンターを挟んで窓口職員の前に設けられた椅子に腰を掛ける。


「本日はどのような御用件で?」


「聖剣取得の挑戦に参りました」


 ミリーズが窓口職員に答える。ミリーズの顔をチラリと見た職員は、ピクリと眉を動かした後、手元の書類に何やらスラスラと書き込んでいく。


「何か身分証や紹介状はございますか?」


 そこで俺はカミラル王子に書いてもらった紹介状を取り出して手渡し、その後、俺とミリーズの二人で、認定勇者の証と聖女の証を窓口職員に掲示する。


 窓口職員は紹介状や俺達の証をマジマジと見た後、再び手元の書類に何やら書き込んだ後、受理票と番号札を手渡してくる。


「それでは、あちらの7番の応接室の中でお待ちください。後ほど、担当者が参りますので」


 ミリーズと二人で待合室に向かうが、何だか本当に嫁を連れ添って病院に来ている様な気分になる。応接室の中に入ると、数ある応接室にしては豪華な部屋の作りになっており、調度品や家具を見ても最高級の物ばかりだ。


 やっぱり宗教って儲かってんだな~と思いつつ、あまりキョロキョロしているとお上りさんの田舎者だと思われるので、ソファーに腰を降ろして大人しく担当の者が来るのを待つ。


 しかし、外の受付窓口で、王族や貴族が来ているのにも関わらず、先ず応接室に通さず、窓口で待たせて、案内もなしに応接室に向かわせる所を見ると、暗に教会の方が立場が上である事を示しているのであろう。


 となると、応接室に通されたものの、俺も結構待たされるのではないかと考えていた。だが、俺のそんな予想に反して、すぐさま扉がノックされ担当者が姿を現す。


「お待たせしました、聖女ミリーズ様、お久しぶりです!」


 ふくよかな女性の司祭が姿を現す。


「ロクサーヌ様! お久しぶりです! ご無沙汰しておりました!」


 ミリーズが明るい嬉しそうな顔をして立ち上がる。どうやらミリーズの知人のようだ。


「まぁまぁ、聖女ミリーズ様…こんなに立派に大きくなられて…」


「これもロクサーヌ様のお陰でございますわ!」


 そう言って互いに抱擁し合って再開の喜びを確かめ合っている。


「そう言えば、今日は私に会いに来たのではなく、申請に来られたのでしたわよね、先ずはそちらを済ませましょうか」


 そう言って着席を誘導する。


「お願いできますか?」


 ミリーズも着席して、話し合いの準備が整う。


「えっと、今日は…聖剣取得の挑戦の申請に来られたのね… 挑戦されるのはそちらの殿方かしら?」


 そう言ってロクサーヌさんは書類から目を上げ俺を見る。


「はい、三ツ星勇者、イアピース国男爵のアシヤ・イチローです」


「まぁ! 貴方があの有名なアシヤ・イチローなの!」


 俺の名前を聞いてロクサーヌさんは目を丸くして驚く。…『あの』有名なって…どういう意味なんだろ…


「大陸南東部や先日のカイラウル解放の英雄と聞き及んでおりますわ!」


 いい意味での『あの』だったようだ。


「いえいえ、幸運が重なっただけの結果ですよ」


 一応、謙遜して答える。


「まぁまぁ、奥ゆかしい殿方なのですね、分かりましたわ! 申請を受理して、すぐに聖剣取得の挑戦を行えるよう取り計らいますわ!」


「本当ですの! ロクサーヌ様!」


 にっこりと快く申請を受理するロクサーヌさんにミリーズが破顔する。


「えぇ! 本当よ! 聖女ミリーズ様のお知り合いで、大陸南東部解放の英雄ですもの!」


「ありがとうございます! ロクサーヌ様!」


「いえ、いいのよ、それよりも聖女ミリーズ様、宿泊はどこになさるお積りなのかしら?」


 ロクサーヌさんは営業の話から、個人的な話に切り替えて尋ねる。


「教会の宿泊施設に泊まる予定ですよ」


「まぁ、そうなの? それでは仕事が終わってから、皆と一緒にミリーズ様の所へお伺いしてもいいかしら? 他にもミリーズ様に会いたがっている人がおりますので」


「もちろんですよっ! こちらから会いに行こうと思っていた所なんですよ!」


「では、仕事が終わってからお邪魔致しますわね」


「えぇ、お待ちしておりますっ!」


 そうして、聖剣取得の挑戦の申請はついでの様な形で終わったのであった。


※連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968


新作『ニートシルキー ~僕とステラの不思議な生活~』も投稿致しました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330663346240328

よろしければ、私の作品一覧からご覧ください。


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