第389話 バス馬車
「なんか、スゲーのが出来たな…」
俺はロレンスとビアンとディートが作り上げた新しい馬車を見上げて思わず声を漏らす。
「えぇ… 私も今まで何台もの馬車を作ってきましたが、ここまでの物は初めてですね」
馬車を作ったロレンスも感慨深げに馬車を見上げてそう漏らす。
今、俺とロレンスの目の前には、現代の小型バスの様な形の馬車がある。どの様に普通の馬車とは違うのかというと、先ずは御者台。ビアンの作るガラスで覆われており、御者が雨にも風にも晒されない全天候型に仕上げられている。
また、その御者台は馬の手綱を直接手で操って馬車を運転するのではなく、現代の様なハンドルを回して馬の手綱が操れるようになっており、尚且つ、そのハンドルは馬車の前輪とも連動して、大きくなった馬車が曲がりやすくなっている。
面白いのはここまで、現代風の仕組みを取り入れていながら、車輪は現代車のようなゴムタイヤではなく、普通に車輪である。ただし、車体が大きくなり重量も増えたので、四輪だけでは心許ないので、前輪2輪、後輪4輪の6輪仕様となっている。
「そういえばゴーレムエンジンも取り付けるって言ってたけど、取り付けなかったのか?」
バスの様な馬車の前に、俺からすればすげー違和感を感じる形で繋がれている二頭の馬を見てロレンスに尋ねる。
「いえ、ちゃんと取り付けておりますよ、ただゴーレムエンジンだけで自走する仕様にすると、御夫人方から落ち着けないとのご感想を頂きましたので、平時は馬を使い、その補助としてゴーレムエンジンを使います。勿論、ゴーレムエンジンだけでの自走も可能ですよ」
「なるほど、電動アシストみたいなものか… しかし、二頭立ての馬とゴーレムエンジンでよくこんな巨体を動かせるな…」
「それも、ベアリングあっての事ですね、あれは素晴らしい技術ですよ」
ベアリングぐらいの現代知識、大したことないだろいうと思っていたけど、ロレンスの言葉からすると結構、チート級の知識だったかもしれんな…
「一度、中を見てみてもいいか?」
「どうぞどうぞ」
俺はバス馬車の出入口の扉の所へと向かう。しかし普通のドアノブが無い。
「これ、どうやってあけるんだ?」
「扉の横のレバーを上に上げて下さい」
ロレンスがそう言うので、俺は扉の横にある大き目のレバーを上に上げると、扉がスライドして開き、その上登りやすくするためのタラップまで降りる。
「おっ! スゲー! よくこんなのまで作ったな!」
「えぇ、ご婦人方の要望でございましたので… まぁ、私としても今まで考えていた機構を実現していくはたのしかったですが」
ロレンスは苦笑いとやり遂げた自慢の入り混じった顔で答える。
ロレンスも色々苦労したんだなと思いつつバス馬車の中に入っていく。
「おっ、俺の馬車とはかなり違うな…」
俺の馬車は入って前方にソファーセットがあり後方に簡易キッチンとトイレがある構造であるが、バス馬車は入ってすぐに隣にトイレがあり、前方には簡易キッチン、後方には現代の旅行用のバスによくあるサロン席が用意されていた。
「おぉ~ スゲー… スゲーよ! こんなサロン席まで用意してあるとは…」
「はい、それもご婦人方の要望です…」
後ろのロレンスがそう述べる。
「あいつら、滅茶苦茶我儘言ってんな… しかし、このサロン席は良いなっ! 俺の馬車より滅茶苦茶広いぞ!」
俺はそんな事をいいながら、そのサロン席にどっかりと座る。一番奥の席に座って前を見渡すと、このサロン席だけで12人ぐらい座れそうだ。また、馬車中央に通路があって、運転席のガラスを通して、前方を視認する事もできる。
「ん?」
その眺めを見ていた俺はある事に気が付く。
「どうされました?」
「いや、ベッドが見当たらないなと思って… この馬車はここのソファーで座って寝るのか?」
「いえいえ、そんな事はありませんよ、ちょっとお待ち下さい」
ロレンスはそう言うと、二つあるテーブルの前方側をパタンパタンと三つに畳み、そのテーブルを腰を入れて持ち上げる。すると、カコカコと何か留め具が外れたような音を立てたと思うと、馬車の前方に倒れていく。
「こうして、テーブルを畳んで床に収納して…座席の下からオットマンを引き出すと…」
ロレンスが足掛けのオットマンを引き出すと、座席が少し沈み、引き出したオットマンと水平になる。
「おぉ! スゲー! じゃあ、ここ全部がソファーベッドになるのか?」
「はい、そうです。このサロンの仕組みは私の自慢の一つです」
そう言ってロレンスは微笑を浮かべ歯を輝かせる。
こんだけ広い場所があれば、乱交致しも出来るな…
「他にもお見せしたい場所があるのですが、よろしいですかな?」
そんな俺にロレンスが声を掛けてくる。
「えっ? 他にも何かギミックがあるのか?」
「はい、ございますよ、こちらに着て頂いてもよろしいですか?」
俺はロレンスに言われるがまま言われた場所に向かうと、大きな手回しのハンドルがあった。
「これを回していただけますか?」
「ん? 結構重いな…」
ロレンスに言われてハンドルを回してみたが結構重い。しかも、回す度に、馬車全体がゴゴゴと音を立てる。
ガコンッ!
「回し終わったみたいだけど、これでどうなるんだ?」
「回し終わったら、ここを降ろしてと…」
ロレンスはそう言って、御者台側に続く通路の天井から、梯子の様な階段を降ろす。
「えぇっ!? そんな所に階段をつけてたのか!? しかも上に続く階段って事は…」
「フフフ、イチロー様、ご自身で上がって見てご確認してみてください」
俺はロレンスの言葉に、階段を上がっていく。
!!!!
「スゲェェ!!! マジ、スゲェェー!! ポップアップルーフじゃねぇかっ!! しかもこの広さに、床はにマットが敷いてあるのか!?」
天井の高さがやや低いがこのバス馬車全体の面積になるポップアップルーフがそこにあった。
「最初はここまでの物を設計していなかったのですが、御夫人方から子供たちが遊べる広さと、みんなで眠れる場所を作ってくれと言われましてね… 頑張りましたよ」
ロレンスが入口からひょっこり顔だけ出して説明する。
「ロレンス、マジスゲーじゃないか!! 大したもんだっ! ありがとなっ!」
手放しでロレンスを褒めちぎる。
「いえいえ、私も退屈なエルフの森の子供の頃に、暇を持て余していて、様々な機構を考えていましたが、実際にそれを作るだけの資源や資金・人材がいなくて悔しかったのです。しかし、ご婦人方が有り余るだけの資金と、蟻族の皆さんが手伝って下さったお陰て、ようやく形にする事ができましたよ」
「それでもすげーよ、いや、ホント大したものだ。 これで安全かつ快適な旅が過ごせるな」
そう言いながら、ポップアップルーフから降りていく。
「そう言って頂けると、幸いです。それよりも、出発の準備があるのでしょう? 大丈夫ですか?」
ロレンスの言うように、今日は教会本部へ向けての出発日だ。
「あぁ、じゃあ最終チェックに行ってくるよ、ロレンス留守番は頼んだぞ」
「お任せを」
そうして、俺はバス馬車を後にした。
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