第387話 出発の準備
ミケとの風呂場での一件以降、ミケは毎晩、俺のベッドに潜り込むようになって強請ってくる。エロくて甘えた声でねだってくるのでベリーいい感じだ。
今まで殆ど俺の前に姿を現さなかったのに、一度致したら自分の方から来るようになるとは…まるで、ガチャで今まで全然出なかったキャラが一度引いたら、続けて連荘で出るような感じだ。
だが、そんな俺とミケとのやり取りを察したのか、シュリがムスッとした顔をしてくる。
「ついにミケもあるじ様に致されてしもたか… 仕方が無いのぅ…」
その割にはあっさり引き下がるシュリ。
「えらくあっさりと諦めるな~ どうしてなんだ?」
「最初は玉座に座りながらミケを膝で侍らせて、女ボスみたいなのをやってみたかったのじゃが、わらわの柄ではないし、それにそんな事よりも今は農業の方に興味が移ったのでのう、今では鶏たちを伴に畑仕事をしておるわ」
そう言えば、シュリが家庭菜園をしている時に、鶏の群れを引きつれていたな… 何をやっているのか様子を見てみると、野菜に付いた害虫や土を耕した時に出てくる虫を鶏達にやっていたな…
「ところで、あるじ様よ、次はきのこ栽培なるものをやってみたいのじゃが、また今度買出しに付き合ってもらえぬか?」
シュリ…お前は一体、どこへ向かおうとしてんだよ…
まぁ、ミケは最初からシュリに対して忠誠心みたいなのが無かったから仕方ないか。
こんな感じでシュリは特に何もなかったのだが、問題はポチである。
ポチはその日の内に俺の異変を感じ、くんくんと臭いを嗅いできたと思ったら、最近しなくなったお尻を向けて俺にすり寄ってくるアレをし始める。
フェンリル状態のポチにやられるならまだ、マシだが、幼女状態のポチにやられると流石に世間体が悪い。
「わぅ! わぅ!」
必死に俺にお尻を擦り付けるポチを抱き上げて止めさせる。
「よーしよしよしっ! ポチ、ケツはしなくていいぞぉ~ それと、ちょっとフェンリル状態に戻ろうか」
だが、ポチは子分状態であったミケに先を越されたことに対抗心を燃やしているのか、フェンリル状態に戻る事無く、抱き上げても俺にしがみついて頬をペロペロしてアピールしてくる。
フェンリル状態でも幼女状態でも、発情したポチに迫られている絵面はかなり世間体が悪いので、俺はそんなポチを小脇に抱えると、小走りでディートの部屋へと向かう。
「ディート! ちょっといいか?」
「どうしました? そんなに急いで」
ポチを抱えて慌てて姿を現した俺にディートは目を丸くする。
「ディート、お前がいつもルイーズを背負っている抱っこ紐だったかおんぶ紐だったか、余ってないか?」
「えぇ、ありますよ、青色の物は今使っていますので、他の色ならいくらでもありますよ」
ルイーズをオプション装備ではなく標準装備のように背負っているディートは、収納魔法から、様々な色の紐を取り出すと俺の前に見せる。
「自分の子供を面倒見てもらっている俺がいうのも何だけどさ… ディート、一日中ルイーズを背負って面倒見ているのって…大変じゃないか?」
紐の事も重要だが、ルイーズを平然と体の一部のように背負っているディートにそう問いかける。
「いや、もう慣れましたし、ルイーズちゃんも大人しいですから… 後、僕は部屋に籠って研究ばかりしてますから、これぐらいの負荷があった方が健康にいいんですよ」
「そ、そうか… ディートがそれでいいのなら、ルイーズの事は任せるよ… この黒色の紐を貸して貰えるか?」
俺はそう答えながら、黒色のおんぶ紐借り受ける。
「で、これどうやって使うんだ?」
「あっ、僕が手伝いますよ」
そう言ってディートは俺におんぶ紐をつけてポチを背負わせてくれる。
「おっ! これでポチを背負えるな! ありがとな、ディート」
「いえいえ、これぐらいの事、お役に立てて何よりです、それよりもイチロー兄さん、頑張って下さい」
ディートは何かを察した顔でそう言ってくる… まぁ、つけてもらっている時のポチの様子を見れば誰でも気づくとは思うが…
「じゃあ… 俺は仕事の様子を見てくるから…」
そう言って、俺は逃げるようにディートの部屋を後にする。逃げ口実に仕事の様子を見てくると言ったが、本当に様子を見に行かないといけない場所がある。それはロレンスの工房である。
ロレンスから一度見に来て欲しいと連絡があったので、俺は何のことかと思い、ロレンスの工房へと足を向ける。ロレンスの工房はビアンの鍛冶場の近くにあり、互いに色々と相談や頼みごとをしながら作業を行っている様だ。
その方が作業効率が良いのもあるが、元々二人が知人というか趣味友な所もあるだろう…
「おーい、ロレンス…って…えぇ!?」
俺は城を出てロレンスの工房が見え始める所でロレンスの姿が見えたので声を掛けようとしたが、それ以上に目に映るものに驚きの声を上げる。
「あぁ、イチロー様、これは御足労願いまして… しかし、そのご様子からして、やはり、ご存じではなかったのですね?」
俺の存在に気が付いたロレンスがそう返してくる。
「あぁ、俺、こんなの聞いてないけど…どうして、こんなもんを作っているんだ?」
蟻族と一緒に作業をしているロレンスに問いかける。
一体、何を問いかけているかというと、ロレンスが工房の前で新たな馬車を作っているからである。しかも、ただの荷馬車などではなく、俺が普段冒険で使っている様な、キャンピング馬車の様な代物だ。
今使っている馬車は壊れてないし、特に問題もない。なのになんで二台目なんか作っているのであろう?
「先日、アソシエ様とプリンクリン様が私の所へ来られまして、旅行用の馬車を作って欲しいと申されまして…」
「えっ? アソシエとプリンクリンが? また、どうして?」
奇妙な取り合わせである。アソシエとプリンクリンは元勇者メンバーと元魔族側の魔人という事で、あまり接点はなかったように思えた。
「なんでも、ミリーズ様だけ同行するのはずるいという事で、自分たちも付いて行く馬車が欲しいとの事でしたので…」
「ミリーズだけ同行するのはずるいって… あぁ! アソシエ達も聖剣チャレンジに教会に行くのに同行した言って事か」
聖女のミリーズには教会への口利きをしてもらわなくてはならないので、教会への同行を頼んでいたが、まさかアソシエ達までついてくると言い出すとは…
「えぇ、やはり、前回、イチロー様が重傷を追って戻られたので、心配になられたのでしょうね」
ロレンスがそんな事情を言ってくる。
「心配かけちまったもんな… しかし、よくこんなものを作るだけの資材と金があったな、先日金を渡されて買出しを頼まれたものも、これの材料なんだろ?」
俺は経理の方まで口出しはしていないので、あまり詳しくはないが、これだけのものを作るとなると結構な資材と金がいる。
ロレンスからの買出し依頼品が結構高額なものがあったので、その金の出所に疑問をかんじていたのだ。
「アソシエ様たちもちょくちょく仕事をしてお金を貯めこんでおられるようでしたからね」
「そうなのか?」
俺の知らない事情をロレンスが口にするので尋ねる。
「えぇ、前回イチロー様が戦地に赴いておられる間に、ミリーズ様は重病人に治療、ネイシュ様が希少な素材の採取、それをアソシエ様とプリンクリン様が加工して魔法薬や魔道具を作って業者に降ろしていたようですね」
「ロレンス、やけに詳しいな」
「ネイシュ様がちょくちょく森へ木材選びに出ている事を知って、森で希少な素材を見かけてないかと尋ねて来られたんですよ、その時にお話を伺って」
アソシエ達は俺の嫁という事で、別に働いて金を稼がなくてもよい立場なんだが、一応、俺に負担を掛けまいとか、俺に協力しようとか考えていたんだな…
「なるほどな… それで今回俺を呼んだのは、その事の確認か?」
「いえ、それだけなら、アソシエ様たちの個人的な資金での事ですので、特にイチロー様にお話する事では無かったのですが、ちょっと、私の職人魂に火が点きましてね…」
ロレンスは意味ありげな笑みを浮かべる。
「一体、どういう事だ?」
「ここで開発したゴーレムトラクターの技術を流用してみたいのですよ…なので、イチロー様に現物を見てもらって許可を貰おうと思いまして」
「なるほど、そういうことか、で、具体的にはどこまでやるつもりなんだ?」
俺もそう言う事は好きな方なので、興味津々にロレンスに尋ねる。
「そうですね、具体的にはゴーレムエンジンを搭載して自走できるようにして、後は車軸にベアリングを使うつもりです」
「ベアリングはいいなぁ~ 俺の馬車の方にもつけてもらいたいな、しかし、ゴーレムエンジンの方は大丈夫なのか? トラクターの方ではかなり魔力を吸われるぞ?」
「こちらの馬車の方は作業用の動力は必要ありませんし、アソシエ様たちのような魔力の多い方々が乗るので大丈夫ですね。後、イチロー様の馬車にもベアリングの取り付けを行いますよ」
「おぉ! そうか! じゃあ、構わずにどんどん進めてくれ!」
こうして、アソシエ達も教会本部へ同行することが決まったのであった。
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