第381話 ご心配、お掛けしました
ノブツナ爺さんとの模擬戦を終えた俺は、その足で、カミラル王子に会うためにイアピース城へと向かう。マグナブリルが事前に連絡をしておいてくれていたので、なんら問題なく城の中に通され、応接室へと案内される。
この流れはいつもの事なので、アルファーとDVDを後ろに立たせて待っていると、いつもとは違う、けたたましい足音が響いてくる。
バンッ!
大きな音を立てながら扉が開かれ、赤子を抱いたティーナ姫、そしてその後ろにカミラル王子と三人一斉に姿を現す。
「イチロー様っ!」
「イチローッ!」
ティーナとカミラル王子の二人が、血相を変えて俺に向かって駆け出してくるので、俺はホストが現れたからではなく、驚いて立ち上がる。
「イチロー様っ! 良かった!」
「イチローッ! 無事だったか!!」
ティーナが赤子を抱いたまま俺の胸に飛び込んできて、カミラル王子がその上から、その巨躯でティーナごと俺を抱きかかえる。
「えっ!? えっ!? なんでお二人とも、そんな大げさに俺を出迎えるの!? ティーナ姫はまぁ、なんとなくいつものこんな感じで抱きついてくれるけど…カミラル王子まで…」
俺は目を白黒させながら、俺を抱きしめる二人に問いかける。
「だってっ! イチロー様が今回の戦で大怪我をなさったと伺ってっ!…」
「国境の駐屯部隊から、お前が全身包帯だらけで、昏睡したまま運び込まれたと連絡を受けたのだっ! 心配させよって!!」
なるほど、俺が気を失っている時に国境に辿り着いて、そこにいた国境警備の駐屯部隊の人間が、俺の状況を知って、慌ててイアピース本国に連絡したのか…
「あっ、でも、俺が城に戻って治療を受けたのは三日前ですよ? 連絡届いてませんでしたか?」
俺は顔を上げて、俺とティーナを抱きかかえるカミラル王子にそう告げる。
「なにっ!? 三日前だと!? 今朝、駐屯地からの連絡とマグナブリルの連絡が届いたところだっ! 三日前に治療を受けて無事であるなら、何故さっさと連絡せぬっ!! 私やティーナがどれ程心配したと思っているのだっ!!!」
カミラル王子は無事だったことを祝う喜びの表情から、まるで昔映画で見た大魔神の様に顔を真っ赤にして怒りの表情へと変える。
ん?今朝、連絡が届いた!? なんでそんなにタイムラグが発生しているんだ? あぁ、俺の馬車はスケルトンホースだから、俺を治療するために昼夜を問わず、馬車を走らせ続けたのか… アイツらに改めて礼を言っておかないとな…
後、マグナブリルの連絡が今朝届いたというのは… 俺に城で休息をする時間を与える為だったのか、それとも、連絡をしないとこうして怒られる事になるって言うのを俺に教える為なのか… どっちか分らん…
どちらにしろ、目の前で赤鬼のように怒っているカミラル王子を説得しなくてはならない。
「傷は城に着いて…すぐに治療を受けたのですが… その体力が回復するまで時間が掛かりまして…」
ミリーズの聖女の力で、部位欠損レベルの傷もすぐに癒して貰って、すぐに動き回れるようになっていたのだが、実際の所、俺のマイSONに施された特級呪物のような封印はまだ解けていないので、ミリーズの魔法判定的にはまだ、体力は完全ではないということだ。今回、言い訳にその事を使わせてもらう。
「なるほど…そうだったのか… すまぬな…だが、それほど、お前の事を心配しておったのだ…許せ…」
カミラル王子は再び、怒りの表情から、慈愛の表情へと変えて、穏やかな口調で俺に詫びの言葉を告げてくるので、俺は少々驚く。
俺を蛇蝎のように憎んでいたカミラル王子が、俺の事を心配していたりしかも、詫びをいれてくるだと!?
「お兄様、イチロー様はまだ体調に不安がある状態…立ち話は体に障りますから、腰を降ろしましょう」
俺がカミラル王子の態度に困惑していると、ティーナがそのカミラル王子に俺の体を気遣って座る事を提案する。
「そうだな…先ずは話しやすいように腰を降ろそうか…」
そう言う事で、俺やティーナ、カミラル王子の三人でソファーに腰を降ろすのだが、いつもなら、ホスト席側にカミラル王子とティーナが腰を降ろすのだが、今日はティーナが俺の隣に腰を降ろして、俺に身を寄せて肩を預けてくる。
そんな様子をカミラル王子は、まるで娘夫婦でも見る父親のような慈愛に満ちた瞳で見ている。
「イチローよ、本当によく生きて帰って来たな…」
カミラル王子はしみじみした口調で告げる。
「私も、お兄様から知らせを受けた時は、気を失いそうになりました」
となりのティーナが俺を見上げながらそう言ってくる。
「そんなに俺が死にそうって連絡が来たんですか?」
「あぁ、国境からの使者の伝聞では、お前には死人のように血の気のない真っ白な顔をして、その上、呼吸が非常に浅く、傷は左肩が削がれ、右腹部は抉れて臓器が見え、左足が裂けて二つに別れそうで、その他、全身に骨折や傷が至る所にあり、意識が無い状態であったと記されている」
俺の問いにカミラル王子は、伝令からの手紙を取り出して、俺の前で説明する。
うん、確かにそんな事が書いてあったら普通死ぬと思うし、実際、俺はそれだけの傷を受けていた。良く生きていたものだと思う。
国境の者がそんなに詳細を知っていたのは、恐らく、シュリがあの戦場から俺の体を引き上げてきたはいいものの、馬車にはまともな治療行為が出来るものがおらずに、急いで国境まで戻り、そこの担当者に治療して貰ったり、治療の方法を教えてもらったのであろう…
ミリーズから治療を受けた後、シュリとカローラは明るく振舞っていたが、俺が目を覚ますまでは気が気でなかったのであろう… だから、ミリーズにあんなお願いをしたのか…
「私は、イチロー様が亡くなってしまわれるか…そうでなくても、一生ベッドの上から起き上がる事の出来ないお体になってしまわれるのではないかと心配しておりましたが… こうして、五体満足のお元気な姿を見せて下さったことを神に感謝しておりますわ」
そう言って、ティーナは瞳を涙で潤ませながら、俺の肩に顔を埋める。
「私もお前がこうして、元気な姿を見せてくれることを喜んでいるのだぞ?」
カミラル王子も心配からの安堵した表情で穏やかな口調で言ってくる。
その二人の言動に、俺は二人にどれ程の心配を掛けていたのか気が付き申し訳なってくる。
「ご心配、おかけいたしました…」
そう言って、俺は二人に頭を下げた。
「イチローよ、頭を下げなくて良い…こうして生きて帰って来たのだからな… それよりも、向こうで何が起きたのか、説明してもらえるか?」
俺は頭を上げてカミラル王子の顔を見ると、真剣な表情へと変わっていた。
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