第380話 爺さんへの土産

※近況ノートにミリーズのイラストを投稿しました。


「すまねぇな、ノブツナ爺さん、俺の領地にあるウリクリへの抜け道を使えばすぐなのに、こんな遠回りをさせちまって」


 俺は文字通り、轡を並べてイアピースに到着したノブツナ爺さんに声を掛ける。


「いや、一応、わしも今回の任務はウリクリのマイティー女王から、直接声を掛けられて任務を受けた訳じゃから、一応ウリクリの人間で公務の途中じゃ、そんな人間が非公式にされている道を使う訳にはいかんじゃろ」


 ノブツナ爺さんはそんな事は気にするなというような顔で答える



 ミリーズ達と聖剣の話をしてから三日、俺自身の方はまだマイSONの封印は解かれていないが、ノブツナ爺さんの方は体力が回復したとという事なので、ウリクリへと戻る事になり、俺もカミラル王子に聖剣チャレンジの紹介状を書いて貰う為に、一緒に一路イアピースに出た訳である。


 一応、俺も男爵位を持つアシヤ領の領主であるので、お伴にはアルファーとDVDがついてきているが、俺がイアピースに向かうと聞いた連中から、色々と買出しを頼まれている。


 頼られているだろ…俺、領主なんだぜ…


 そんな事もあったので、お伴といってもなんだか、当てこすりの様にしか思えない。まぁ、アルファーとDVDの二人はちゃんとやる気なので、二人の為にも俺は腐らずにいるが…


「そう言って貰えると助かるよ、それでノブツナ爺さん、ハルヒさんとはちゃんと話す事が出来たのか?」


 ノブツナ爺さんがハルヒの事を気にしていて会いたがっていた事は知っているので、その事を尋ねると、爺さんは少し眉を顰めて気まずそうな顔をする。


「一応、話す事は出来たのじゃが…」


「シュリとマンツーマンで受験勉強の様に『初恋、はじめました』の勉強をしていたからな…」


 剣聖の称号を持つノブツナ爺さんが、シュリの指導を受けながら、恋愛ラノベに出てくるヒロインの少女のお気持ちを察する勉強をしていたのだから、気の毒というしか他にない。


「実際の所、あれだけ必死に読み込んだ本の話はせずに、わしの生きていた戦国時代の事について根掘り葉掘り聞かれたな…」


「例えばどんなことを?」


「…晴信公と高坂弾正の関係とか恋文を送ったのは本当なのかとか…」


 爺さんは言い淀みながら答える。


「あぁ…そっちの話か… 爺さんは武田の士官を断った人間だから、知らんがなって感じだよな…」


「そうじゃ、他にも織田上総介とその小姓の話も聞かれたな…」


「織田上総介って信長か…って事は小姓っていうのも森蘭丸の事だな…」


 うーん、ハルヒさんもBLを嗜む派だったのか…


「というわけで、わしの興味の無かった話を聞かれるばかりで、有益な話をする事はできなんだな…」


 そう言って、残念そうな顔をする。


「それは…残念だったな…それじゃ、俺がそんな爺さんを励ます為にいい物をやるよ」


「なんじゃ?」


 俺は収納魔法から木刀を取り出し、それをノブツナ爺さんに投げて渡す。


「ん? 先日使った木刀か…」


 ノブツナ爺さんが受け取った木刀を確認している間に、俺は収納魔法からもう一本の木刀を取り出す。ノブツナ爺さんは最初、木刀を取り出す俺に目を丸くするが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。


「イチロー、お主も武人よのぅ…」


「あぁ、あんな稽古で、爺さんの期待を裏切ったままでは終われないからな…」


 そう言って、俺はスケルトンホースから飛び降り、イアピースの郊外にある開けた場所へ移動する。


「わしも、シュリ嬢には悪いが、あのような本を読んでおる事より、お主がこうしてわしに向かってきてくれる方が、何倍も血が滾るわ」


 ノブツナ爺さんも馬を降り、俺が立つところまで来て3メーター程の距離を取り木刀を構える。俺もノブツナ爺さんの構えを見ると、自分も木刀を構える。


「イチロー、期待して良いのじゃな?」


「あぁ、期待を裏切らないよう努力するっ!」


 お互いが、呼吸を整えにらみ合う。


「では、いざ参るっ!!!」


 先手をとってノブツナ爺さんが動く!!


 静止した状態から、力を溜めていたバネのように、一気に距離を詰めながら唐竹を打ち込んでくる!!


「うぬっ!!!」


 だが、その唐竹を受け止めると思っていた俺の姿は底には無く、唐竹が空を切る。その好きが出来た爺さんに逆に唐竹で切りかかる。


「はっ!!」


「そこかっ!!」


 ノブツナ爺さんは後ろに回り込んでいた俺に反応して、後ろに振り向きながら切り上げで俺の斬撃を弾き返す!!


 そこで、俺は後ろに下がって距離を取り、木刀を構え直す。


「やっぱ、ノブツナ爺さんはすげーな…初見であれに対応するんだからな…」


 俺は木刀を握る小指に力を込めて正眼に構えながら、その切っ先を通してノブツナ爺さんを見る。


「お主こそ…あの面妖な動き…縮地でも覚えたのか?」


 ノブツナ爺さんも木刀を正眼に構えて、俺を中心に円を描くように横へ動き始める。


「ならば、その技…見極めやろう!!!!」


 ノブツナ爺さんは、再度バネを解放したような瞬発力で突進しながら、構えを正眼から脇が前に変えて、そして、瞬きする暇なく横薙を放つ!!!


 まさか、突進の最中に構えを変えてくるとは思わなかった俺は、爺さんの剣を止める事が出来ず、横薙を躱す為、後ろの方に下がる。


「むっ! 両足を地に付けたままのその動き!!! それがお主の縮地かっ!!!」


 流石はノブツナ爺さん! 俺の新技を見抜くために、先程の攻撃を仕掛けて来たのか!!


 そして、そのまま、薙いだ木刀を下段に構え、後ろに下がる俺に追従して逆風を食らわせてくる!!


「くっ!!!」


 俺は地面を滑らせる足の片方を固定して、直角に曲がり、爺さんの逆風を躱す!!


「むっ!! かような動きがとれるのかっ!!」


 なんとか爺さんの右側面を取った俺は、横薙ぎに斬りかかる。だが、爺さんも切り上げた切っ先をそのまま振り下ろして、俺の横薙ぎを叩き払い、そのまま木刀を滑らしながら、右側面にいる俺に向けて肩から体当たりをぶつけてくる。


「ちっ!!!」


 ノブツナ爺さんの木刀や体が俺に触れると、またしても強化魔法が解除される恐れがあるので、俺は即座に後ろに下がる。


 そして、俺とノブツナ爺さんは、互いに距離を取り合って、無言で木刀を正眼に構える


 俺がイケルと思っていた新技であるが、初見でここまで対応してくるとは、流石、剣聖の名は伊達ではない。それがノブツナ爺さんだ。


 この技を使って小手先に爺さんの横や後ろを取ろうとしても、すぐに反応されてしまう…


 ならば今の俺が使える全身全霊の力を持って、ノブツナ爺さんの反応速度を超える技を繰り出すのみ!!!


 俺はゆっくりと呼吸を整え、正眼に構える木刀の切っ先を通して、ノブツナ爺さんの姿を捕える。


 その爺さんも切っ先を通して俺の姿を見据えている。


 心の中を深い水の底にしずめていくように、落ち着かせ、精神がその水底についた時、自身を爆発させるように爺さんに向けて突き進む!!!


「!!!」


 俺は爺さんの反応速度を超える事が出来るのは、俺の新技を使った突きのみだと考えていたが、爺さんも同時に突きを繰り出してきたのである!!!



 ギィィィィィン!!!



 木刀と木刀の切っ先が激しく衝突して、まるで金属の様な衝撃音をあげる!


 そして、次の刹那…



 パキィィィィィン!!!



 お互いの木刀が、まるでガラスのように砕け散る。


 互いが、にらみ合ったまま、木刀の砕け散る破片が地に落ちるのを見守る。



「うむ、良い引き分けであった…」


 ノブツナ爺さんがそう言って、この試合の終了を口にする。俺はその言葉に今まで止めていた呼吸の息苦しさから、はぁと大きく息をする。


「はぁ…なんとかご期待に沿えたようだな…」


 俺は安堵の息をしながら、そう漏らす。


「おぅ期待以上のものであったぞ、最後に良い土産を貰えたわ。ところであの縮地のような技はどの様にして編み出したのじゃ?」


「あぁ、あれか… あれは足の裏に魔法を使って、足の裏の摩擦を無くしたり、逆に足と地面とを固定させたりしていたんだよ… 前回の魔族の戦いで、空中で敵の攻撃を高速に躱しながら最終兵器を照射し続けただろ? あれで、集中力が鍛えられて、足の裏の魔法をコントロールしながら戦えるようになったんだよ」


「なるほど、そうじゃったのか、しかし、お主に優位に立てるようになったと思ったらすぐにこれか… いやはや、まだまだ鍛錬のし甲斐が出て来たわっ!」


 そう言って、ノブツナ爺さんは、俺の城で美味い物を食って見せていた顔より、もっと嬉しそうな顔で笑い声を上げる。


 やはり、ノブツナ爺さんは、武人であり、剣豪なんだなと改めて思う。


「では、わしはウリクリへと向かう、イチロー、達者でな、また次の機会に会う事を楽しみにしておるぞ!」


 そうして、俺とノブツナ爺さんは別れたのであった。


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