第378話 ミリーズの聖剣の話
ミリーズが教会が管理している聖剣の事について話してくれるというので、俺はゴクリと唾を飲み込んで神妙な面持ちで待ち受ける。
「とは言っても、部署も異なるし、私は聖女の仕事が忙しかったから、人伝の話で私も詳しくないのだけどもね」
「まぁ、教会と言っても、ミリーズがいた本部はこの大陸の教会を統べる総本山だからな、そこに勤める人員の多さや組織の規模を考えれば当然だな…」
あまり実りの無さそうなミリーズの前置きに、俺は自分に言い聞かせるように言葉を返す。
「それでも、教会が聖剣を管理していると、どこから聞きつけたか分からないけど、月に2,3人は、我こそは聖剣の新たなる持ち主になるっ!って言って訪れていたから、話題には事欠かなかったわね」
「えっ? そうなのか? そんなペースで聖剣を求める人が来ているのか?」
俺は誰かに先に聖剣を手に入れられるのではないかと気が逸る。
「あっ、でも安心して、イチロー 恐らくまだ誰も聖剣を手に入れてないと思うわ」
俺の心を見透かされたのか、ミリーズが微笑みながらそう言ってくる。
「そうなのか?」
「えぇ、良くやってくる人は、何処かの王族や貴族が多く、親が子供に社会的なステータスを与えたくて挑戦しにくるか、自意識過剰の自尊心だけが高い人物が多いから、殆ど手に触れる事も出来ないそうよ」
「そんな連中、世界や人類を聖剣の力を使って救うつもりなんてねぇだろ…」
俺は少々呆れながら声を漏らす。
「そうね、でも年に一人ぐらいはガチの人も来るのだけれど、どういう訳かその人たちも王族や貴族と同じで手に触れる事も出来ないのよ、だから、今の教会にあるはずだから、安心してイチロー」
ミリーズは再び微笑みながらそう言うが、今の話のどこに安心できる要素があるんだよ… 誰かに先に手に入れられていないだけで、俺も同じように手に触れる事も出来ない可能性の方が高いじゃないか…
まぁ、それでも魔族の対抗手段としての聖剣を手に入れられる可能性があるなら、行かなければならない。
「で、教会本部に行って頼んだら、俺も聖剣チャレンジに参加することはできるのか?」
一応、念のために尋ねる。
「うーん、そうね… 三ツ星勇者になったイチローなら大丈夫だと思うけど、念のための紹介状を用意しておいた方がいいわね、前に一度トラブルがあった時に、紹介状なしの人物だったから、誰が責任を持つのか問題になったことがあるのよ…」
「責任問題って…えらく物騒な話だな…一体、何があったんだよ?」
「聖剣に選ばれなかった人物が暴れ出したのよ… それで保管室を壊したり怪我人が出たりで問題になって… それからは身元がはっきりしている王族や貴族以外の者、特に野良の実力者や勇者ね、そういった人は、冒険者ギルドからの身元と損害が出た時の保証を貰わない事には、聖剣の保管室に通さない事になっているのよ」
「なら、既に男爵になっている俺なら大丈夫じゃないか?」
こういった時に、貴族の爵位があると何かと便利だな。
「うーん… イチローには申し訳ないけど、男爵だと…微妙かしら… なんせ保証制度の原因になった事件が、ほら、教会って高価な装飾品が多いでしょ? それで修繕の為の費用がとんでもない金額になって、そこらの男爵ぐらいでは払えない金額になったから…」
その問題になった男はどれだけ暴れたんだよ…
「ちなみにどれぐらいの金額になったんだ? 後、その暴れた男はどうなったんだ?」
「うーん… 私は担当じゃなかったか詳しい金額は聞いてないけど、相当な金額になったと聞いたわ、それこそ城一つ買える金額だって… 男の方は教会や人類に対する反逆者という事で公開処刑になったと聞いたわね…」
「城一つか… 確かに普通の男爵なら到底無理な金額だな… 普通の男爵なら、精々お屋敷に住むのが精々だからな… 城なんて持てない…」
こうして改めて考えると城を手に入れた俺はラッキーだったな… 普通の国なら城を乗っ取っていた敵を倒しても、その後、多少の褒美をやるから城を返せと言われるのが関の山だ。
しかし、この城の場合は厄介者の王族の住んで居た場所だから、その事を知っている王族や貴族は使いたいとは思わなかったのだろう…謂わば左遷先の様な城だからな。
「そう言う事なら、念のためにカミラル王子に紹介状を書いてもらうように連絡しましょうか?」
何かとカミラル王子とタッグを組んで俺を監視するアソシエがそんな事を言ってくる。
「そうだな…カミラル王子に頼むしかないよな… でも、連絡するのはアソシエに頼むのではなく、俺自身がイアピースに行ってくるよ」
「えっ? イチローってカミラル王子の事が苦手ではないの?」
「いや、苦手だよ。俺にはいないけど、実際に怖い兄がいたらあんな感じなタイプだなとは思うぐらいにはね… でも、任務から帰って来た報告もしないといけないし、たまにティーナの様子もみないと可哀相だろ?」
俺がそう答えると、アソシエはまた、他の女の子に良い顔をするつもりだと、頬を膨らませる。
「確かに、そうじゃな、人にものを頼むなら筋は通さねばならん」
おこなアソシエに対してノブツナ爺さんが俺を擁護してくれる。その爺さんの言葉に、アソシエも納得して、怒りを鎮める。
「分かったわよ…イチロー… それで、イアピースにはいつ向かうの? もしかして、イチローの事だから、今日これからとか明日とかそんな感じ?」
「ん~ 一応、今の俺は体力回復のための療養中って事だから、もうしばらくしてからかな?」
チラリとミリーズの様子を見ながら、アソシエの言葉にそう返す。
「ならば、わしがウリクリに帰る際に途中まで、一緒に伴をするか?」
ノブツナ爺さんがそんな提案をしてくる。
「それでもいいけど、ノブツナ爺さんはいつウリクリに帰るつもりなんだよ」
「そうじゃな、わしもここで美味い物を食って体力を回復しているところじゃが、後2,3日もすれば、お暇させてもらうかのう」
「そうか、後2,3日ってところか、なら爺さんと一緒にさせてもらうよ」
ノブツナ爺さんが後2,3日でこの城から出発すると聞いて、少し寂しく思いながらも柔和な笑顔で答える。
なんだかんだ言っても、ノブツナ爺さんとは気が合うし、人生の良い先達者だと思っていたので、離れるのは寂しい。引き留めたくなるが、爺さんにも仕事や使命はある。
「では、様子を見ながら2,3日後という事で決まりね」
そのミリーズの言葉でこの場は締めくくられた。
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