第377話 三人の意地

※近況ノートに、ネイシュのイラストを投稿しました。

次はミリーズを描いていくつもりですが、他にもご希望があればコメントして頂けるとありがたいです。

また、いいね、ブクマ、評価もして頂けると幸いです。


「えっ? 聖剣…の…話?」


 ミリーズは俺の言葉をオウム返しした後、何かにはっと気が付いたように頬を赤らめる。


「えっ!? アソシエの次は今度は私の番なの? それを皆の前で話せと?」


「こっちの方こそ、えっ?だ… ミリーズ、一体、何と勘違いしているんだよ?」


 ミリーズの想定外の反応にこちらの方が困惑する。


「だって… 前にイチローが… その… 俺の聖剣を…私が鞘で…の話の事でしょ?」


 頬を赤らめながら上目づかいで言ってくる。


「ちげーよっ! 夜の致しの事を言ってるんじゃなくて、教会が管理している本物の聖剣の事について聞いているんだよっ!!」


 ミリーズの一言で、俺がミリーズとどんなプレイをしているが皆に知れ渡ってしまった… こっちの方が、顔から火が出そうなほど恥ずかしいわっ!


「イチロー… お主も大概じゃのぅ…」


 話を聞いていたノブツナ爺さんも苦笑いをしながらそう漏らす。


「えっ!? 俺の聖剣だって!? イチローは既に別の聖剣を所持しているのかっ!!」


「ロアンはもう、黙ってガトーショコラを食っていろよ!! ナギサ! ロアンにもう一つガトーショコラをやってくれっ!」


「…頂こう」


 俺に黙れと言われたロアンはムッとしていたが、ナギサから新しいガトーショコラを貰うと機嫌を直す。


 そして、場が収まってから、ミリーズが先程の失言を誤魔化しながら話を続ける。


「えっと、教会が管理している本物の聖剣の話ねっ、 でも、どうしてイチローは聖剣の話を聞きたいの?」


 その言葉に俺とノブツナ爺さんは互いの目を見て頷く。


「今回の戦闘で、本物の魔族の主力と戦い、自分の力が足りない事に痛感したんだよ、だから何としても魔族に対抗する手段として聖剣が必要なんだ」


「敵の攻撃が激しいというのなら、今度は私が一緒に戦って、イチローの側でどんな傷でも癒してあげるわっ!」


 俺が死んでいてもおかしくなかった状況を知っているミリーズは、強い意志でそう述べる。


「ネイシュもイチローが治療している間の足止めぐらいできるっ!」


 すると、ネイシュがミリーズに負けじと声を上げる。


「私だって、イチローと共に魔法で敵を倒す事ぐらいできわっ!」


 ミリーズとネイシュの二人が声を上げるので、残ったアソシエも取り残されまいと声を上げる。


「ちょっと待ってくれ! 三人とも! 人数が足りないとか、回復役が必要とか、そんな話だけで済む問題じゃないんだよ」


 俺は鼻息を荒くする三人にそう説明する。


「どういうことなの? もっと詳しく説明してもらえる?」


 ミリーズが落ち着いて尋ねてくる。


「あぁ、ちゃんと詳しく話すよ、駐屯地で主力の魔族と戦った感想だが… 強いとか攻撃が激しいとかそんな次元の話ではなく、そもそも人類側の攻撃が一切通用しないんだよ」


「攻撃が一切通用しないって…具体的にはどんな感じに?」


 以前は俺と共にパーティーのアタッカーをしていたアソシエが真剣な面持ちで聞いてくる。


「魔族の本当の主力である魔族人と呼ばれる存在と、俺達は戦ったんだが、そいつらは、シールド魔法とは異なる魔法障壁を持っていて、物理的魔法的な攻撃を中和減衰させてしまうんだよ」


「なら、ネイシュのアンチマジックの処理をした短剣なら大丈夫!」


 ネイシュは暗殺専門の武器を持っていて、暗殺を恐れて探知魔法を使っている者もその武器で数多く葬ってきた。


「いや、それでもダメだ。実際、一緒に任務についていた他のパーティーや、俺自身もつかって攻撃してみたが、敵の分厚い装甲を抜く事は出来なかったんだよ… しかも、俺が戦ってボロボロになった相手は、ご丁寧に関節部分まで蛇腹の装甲を付けていたから関節を狙っての攻撃もダメだった…」


 俺がそう説明して、ネイシュお得意のアンチマジック武器での不意打ちや関節狙いが不可能だと分かると、自分が役に立たないと思ったのか、シュンとする。…後で頭でも撫でて励ましてやるか…


「そんな相手にイチローたちはどう戦って勝ったの?」


 ここまで話をするとミリーズは、強大な敵に対する恐怖よりも、そんな相手にどう対処したのか興味を惹いたようだ。


「先ず、ここにいるノブツナ爺さんが、自身が編み出した奥義『真陰流』で敵の分厚い装甲を切り裂いて手足を飛ばすことが出来たんだ」


 俺はノブツナ爺さんに視線を向けながら説明する。すると皆の視線がノブツナ爺さんにあつまり、そのノブツナ爺さんは、少し自慢げにふっと笑みを作る。


「じゃあ! イチローもその技を覚えれば、魔族に対抗できるじゃない!」


「アソシエ、俺もそう考えてノブツナ爺さんに相談してみたんだが、ノブツナ爺さんがこの歳になって初めて完成させた技だから、今日教えてもらって明日には使えるようになるような簡単な技じゃないんだよ… ノブツナ爺さんが言うには、俺なら山に籠って修業に明け暮れて、数年費やせば会得することが出来るだろうと言ってくれたが、数年経って山から出てきたときには人類が滅んでいるだろ…」


「その前に、イチローは私たちや女の子なしでそんな長期間、過ごせないわよね…」


 ミリーズが真顔でそう問題点を述べる。自分でも自覚している問題点だから、言い返す言葉もない…


「うむ…後、魔族人にはコアというものがあって、それを潰さない限りは、厄介なことに手足を切り飛ばしたところで、再び再生し始めるんだよ」


「なによそれ…まるで、子供が考えた最強生物みたいじゃないの…」


 アソシエが敵の厄介さを理解して眉を顰める。


「イチローはそんな最強生物にどうやって勝ったの?」


「たまたま、対魔族用の秘密兵器を託されてな… それを使ってようやく勝てたんだよ… しかし、そいつは一発限りの物で、託した人物もやられてしまったから、補充することは出来ないんだ…」


 俺はあの時、マサムネから託された神の杖発射照準装置をまだ持っている。なんとなく、マサムネの遺品と思えるからだ。


「なるほど…事情は分かったわ…そんな状況だったから、イチローは藁でも掴む気持ちで聖剣を欲しているね…」


 ミリーズがようやく理解を示したように、そう言ってくる。アソシエやネイシュも同じようにようやく納得したような顔をしている。


 恐らく、ミリーズ達三人は、自分達の力に頼らず、聖剣に頼る俺に不満や嫉妬のような物を感じていたのであろう。確かに今は子供を産んで引退しているが、ロアンと一緒に魔族たちの戦う前線を張っていたメンバーという自負がある。その自負や自尊心が気づ付けられた気分だったのであろう。俺もその事が、今のミリーズの顔を見てようやくわかった。


「イチロー、じゃあ、聖剣の事について話してあげるわ」


 ミリーズは静かにそう言った。



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