第376話 イチロー総受
カズオに食堂を追い出された俺は、アソシエと寄り添い、問題の原因であるロアンや、異常事態に駆けつけたミリーズとネイシュと共に、談話室へと移動する。
すると、ソファーの上で、本を読み疲れて眠っているカローラの向かいに、『初恋、はじめました』の前に頭を抱えるノブツナ爺さんの姿があった。
「…ノブツナ爺さん… どうだ?」
返事は分かっているが、敢えて尋ねる。
「イチローか… 見ての通り、全く分からん…」
「だろうな…」
頭を抱えるノブツナ爺さんから想定通りの返事が返って来たので、そう答える。
「わしも好きではないものの源氏物語は読んだことがあるが、あれは男性視点多かったから、まだ読めたが… これは全く分からん… おさなごのおなごはこの様な事をかんがえておるのか…」
多分、ノブツナ爺さんの事だから、普段、本を読むとしても平家物語や史記とかそんなんだろう… そこへ、現代っ子の少女感覚の恋愛ラノベなんて世界が違い過ぎて、訳が分かんないだろう…
「まぁ…とりあえず、一度目を通して、シュリが帰ってきたら、本の内容についてどういう意味か尋ねてみたらいいよ、あいつ、オカンな性格をしている割にはみょうに乙女チックな所があるから、喜んでおしえてくれるだろ」
申し訳ないが、ここはシュリに振っておく。
そして、とりあえず座る為に、ソファー丸々一つを使って横になって眠っているカローラを縦に置き直して、俺とアソシエが座り、ミリーズとネイシュがノブツナ爺さんの隣に座り、ロアンが端の席に座る。
「よいしょっと、これで落ち着いて話せるな」
「へぇ~ 凄い本棚と本の量だな… ここは図書館なのかい? イチロー」
ロアンが落ち着きのない子供の様にキョロキョロとしながら問いかけてくる。
「図書館は別にある。ここは談話室だよ、まぁ、皆で暇をつぶすことが多いから娯楽室として使っていることが多いがな」
「へぇ~ そうなんだ…」
ロアンは聞いている様な、聞いてないような返事で返す。興味は大量に納められている本に向けられている様だ。
そこへ、肉メイドのナギサとホノカがティーワゴンを押して、お茶の給仕に現れる。
「お茶をご用意いたしました」
「あぁ、ありがとな、ほら、アソシエもお茶でも飲んで、気分を落ち着かせろ」
俺は受け取ったお茶をアソシエに回して進める。
「ありがとう…イチロー…」
アソシエは小さく答えて、ティーカップに手を伸ばす。他のメンバーにもお茶が配られていき、その中でノブツナ爺さんは読んでいた本を置いて、お茶を飲み、ふぅと安堵のような声を漏らす。相当、『初恋、はじめました』を読み進めるのが辛かったんだろうな…
「本日のお菓子はガトーショコラでございます」
ホノカはお茶を給仕して、ナギサが茶菓子を出してくる。
「カローラ様、カローラ様のお好きなガトーショコラでございますよ」
ナギサはカローラの前にもガトーショコラを差し出して、カローラの肩を優しく揺らしてカローラを起こす。
「ん? あ? え? あっ! ガトーショコラだっ! えっ!? なんで、イチロー様やみんながいるの?」
カローラは寝起き様にガトーショコラに反応して、その後、俺達に反応する。
「まぁ、色々とあったんだよ…カローラ、お前は大人しくガトーショコラでもくっとけ」
俺がそう言うと、カローラは早速、ガトーショコラにフォークを突き刺して黙々と食べ始める。
「とりあえず、アソシエ、あーん♪一番には慣れなかったが、あーん♪を一番してもらった女になればいいだろ? ほら、アソシエ、あーん♪してっ」
そう言って、俺はガトーショコラを切り分けて、アソシエにガトーショコラを差し出す。
「ごめんなさい、イチロー、私、ダイエット中なのよ」
そういってアソシエは、俺が差し出したガトーショコラを手で遮る。
くっそめんどくせぇ~!!!
「うふふ、アソシエは産後暫くの間は、ちょっと情緒が不安定になる時があるのよ」
ミリーズが俺とアソシエのやり取りを眺めながらうふふと笑う。
「うん、アソシエ、前の産後の時も、情緒不安定だった…」
ネイシュもガトーショコラを切り分けながらミリーズの説明に補足をする。
「なんだ、そうなのかよ… でも、まぁ…俺がア…いや、後ろの方で致す趣味はねぇから、男色疑惑はもう晴れただろ?」
「そうね… イチローは今まで…ア…いえ…後ろをせがまなかったのは本当だからね…」
アソシエも納得するように答える。これでややこしい話は決着がついたと思ったが、その話を聞いていたカローラがとんとんとアソシエにつつく。
「ねぇ、アソシエ」
「なによ? カローラ」
カローラに向き直るアソシエに、カローラはニチャリと笑う。
「アソシエは『受け』って知ってる?」
アソシエはカローラのその言葉にしばらく無言で考え込むが、はっと気が付き、俺に向き直る。
「しねーよ!! なんで俺が掘られなならんのだっ!!!」
「で、でもっ! イチローなら好奇心旺盛だし…」
「だからって、そんな事はしねーからっ! カローラも余計な事を言うなよ! それとアソシエ、そんなに俺を疑うなら、俺の何人の侵入を許してないピュアでヴァージナルなケツ穴を見せてやろうか!」
そう言って、俺はズボンのベルトに手を掛ける。
「やめてよ! イチローっ! 今、ガトーショコラを食べている所なんだからっ!」
ミリーズが眉を顰めて声を上げる。
「ところで、処女は持ち上げられるのに、童貞はバカにされるんだろうね…」
ロアンがポツリと呟く。
「それは、一度も攻め落とされた事のない城と、一度も城を攻め落とした事のない者の差じゃろ」
ノブツナ爺さんがロアンの独り言に答える。
「なるほど、そういうことだったんですね! では、ギルドの受付のお姉さんが39歳でも処女で結婚しないのは誇れる事なんですね。 今度、褒めてあげましょう」
「いや、ロアン…それは止めとけ…マジで止めとけ…」
とんでもない事を言い出すロアンを止めに入る。
「でも、39年間も処女を守り続けて来たんだろ?」
「その39年間が微妙な年齢のお年頃なんだから、止めて差し上げろ… ってか、もうロアンは黙ってガトーショコラを食ってろよ… 俺の分もやるから…」
「ありがとう、頂くよ」
ロアンは笑みを浮かべながら、俺のガトーショコラを受け取る。
「まぁ、とりあえず…俺の男色疑惑が晴れた所で、ミリーズに尋ねたい事があるんだが…」
「イチロー、そんなに改まって、私に何を聞きたいの?」
ミリーズはガトーショコラを口に入れたフォークを咥えながら首を傾げる。
「…その…聖剣の事について尋ねたいんだ」
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