第373話 目覚めたロアン

 ノブツナ爺さんも談話室へと去り、大きなテーブルに一人残された俺は、目の前に置かれた料理の載ったトレイを見る。みんながガッツいているから俺も同調してガッツリ料理を取り分けてきたのだが、冷静になって見てみると、朝からこんなに食うのはあり得ない。


 しかし、取り分けて料理に手を付けてしまった以上、食わないと勿体ないし、勿体ないお化けが出てくる。



「仕方が無い… 体力を回復させるためにも食うか…」


 

 そう呟いて、ぷらぷらと手で弄っていた、フォークをなんとなくソーセージに突き刺して口に運ぶ。


 その時、食堂の扉が大きな音を立てて開かれる。俺はその音にソーセージを咥えたまま視線を向けると、そこにはしかめっ面をしたロアンの姿があった。



「んぐっ… おぅ! ロアン! 元気になって目覚めたようだな!」



 俺は咥えていたソーセージを呑み込み、ロアンに手を振って呼びかける。


 するとロアンはようやく見つけたと言わんばかりに、おこでしかめっ面な顔をして、ツカツカと速足で俺の所にやってくる。



 ダンッ!


「どういうことなんだ! イチロー!!」


 ロアンは俺のテーブルの所までくると、ダンっ!とテーブルを叩きつけて、開口一番、大声で言い放つ。


「え? 一体、何の事だよ…」


 俺は座りながら、ぽかんとあ然に取られてロアンを見上げる。


「この城のことだ! イチロー!」


「この城の事? いい城だろ、これ俺の物なんだぜ、いいだろ?」


 俺が城主である事をロアンに告げてなかった事に、怒っているのかと思ってそう答える。


「僕はそう言う事を言っているんじゃないんだよ!」


 そう言ってロアンは拳の底で、ダンダン!とテーブルを叩きながら俺に詰め寄る。


「じゃあ、何の事を言ってんだよ?」


 詰め寄ってくるロアンに引き気味に尋ねる。


「僕が病室で目覚めた時、部屋の中にメイドがいたので、色々と事情を聞いていたら、そのメイドに違和感を感じて、看破魔法で調べて見たら、一般人を擬装したスケルトンじゃないかっ!」


「あっ、肉メイドの見たのか、 あれ、俺と俺の弟分で、人間そっくりになるように仕立て上げたんだぜ、良いだろ?」


「肉メイドって… 良くないに決まっているだろ!!」


 ロアンは再び大きくテーブルを叩く。


「人外の物を人間に擬装して何をするつもりなんだ!! 人里に送り込んで街や村を乗っ取るつもりなのか!!」


「ナニを…いや、人里を乗っ取るつもりなんてねぇよ! そもそも、ここいら一帯は俺の領地なんだぞ? 乗っ取る必要なんてないだろっ!」


 ナニを致すつもりで作り上げたと言いかけたが、そこはぐっと堪えて、肉メイドを使って悪事を働くつもりがない事を伝える。


「だが、僕が驚いて病室を飛び出したら、人間のメイドに擬装したスケルトンだけではなく、蟻族のメイドまで沢山いるじゃないかっ! ここの城は至る所に人外しかいないじゃないかっ!!」


 ロアンは激高して口角泡を飛ばしながら大声を上げる。


「いや…人外だけって事はないぞ、ちゃんと人間や人類側の人物もいるぞ?」


 確かにロアンの言う通り、人外の比率が多いので、言い訳がましくそう告げる。


「ちゃんと人間もいるだって? じゃあ、あれはなんだ!! あれが人間だというのかっ!」


 そう言って、ロアンは厨房にいるカズオや肉メイド達を指差す。


「いや、カズオの事はロアンも駐屯地で知っているはずだろ? 人畜無害…な奴だって…」


「確かに彼…の事は知っているが、他の者が人畜無害な人外だと分からないだろ!! 現にそこの者や」


 そう言って、ロアンは食堂で後片付けをしている肉メイドを指差す。


「他にもそこの者や、あの者! そして、今食堂に入ってきた…あの…」


 勢いよく、肉メイドや蟻メイドを指差していくロアンであったが、恐らくたまたま飲み物を補充にしに現れた、オネエドワーフのビアンを指差したが悩み始める。


「えっと…一応言っておくが… 女装をしているだけで普通のドワーフだぞ… だから、ギリギリ人類側の存在だ…」


 ビアンは食堂に入って突然、ロアンに指差されて戸惑っているが、あんな恰好をしているので、俺は自信を持って人畜無害の人類側とは言い難かった。


 すると激高していたロアンは急に真顔になって、心配そうな顔をして俺を見る。



「…あれは…イチローの趣味でさせているのか…?」


「ちげーよっ! 本人の趣味だよっ!! なんでもかんでも俺の趣味にするなっ!!」



 今度は俺が激高して、俺を残念な者を見るような目をするロアンに声をあげる。


 くっそ! なんでロアンの奴は急に真顔になって心配そうな顔をするんだよ…俺がそんな趣味を持っているはずがねぇだろ… いかん…サブイボが出てきた…


 俺とビアンがいちゃいちゃしている所を想像して背筋に寒気がはしる。


「コホン…イチロー…まぁ、何だ…」


 ビアンの事で勢いをそがれたロアン、咳ばらいをして調子を整える。



「この城には人外が多すぎる!! それ相応の理由が無ければ納得はできないっ!!」



 ロアンは心配そうな顔から、眉を顰めた真剣な顔に切り替えて俺に問いかけてくる。


「…分かった…事情を説明してやるよ…」


 俺は諦めたかのようにそう答える。そして、俺の前で仁王立ちをして俺を見下ろすロアンを見上げる。


「だから…先ずは座れ、ロアン…長話になるからな…」


「分かった!」


 ロアンは俺の言葉に素直に従って座り、さぁ!話せと言わんばかりに俺を見る。


「では…」



 きゅぅぅぅぅぅぅ~


 俺が話しかけた所で、ロアンの方から盛大に腹の虫が鳴り響く。その音に俺は話を止めてロアンに食事を取りに行くことを進めようと思ったが、ロアンの顔は事情を聞くまではテコでも動かないという硬い決意の様な物が感じられた。


 そこで、俺は自分の目の前のトレイを見る。手を付けていない食べ物がある。そして、再びロアンに視線を戻す。


「…ロアン、とりあえず…パン食うか?…」


 俺は自分のトレイからまだ手を付けていないパンを取り、敵意を示す野生動物を餌付けするようにパンを差し出す。


 するとロアンは俺の顔とパンの間を視線を移動させつつ、最終的にはパンに手を伸ばす。


「…頂こう…」


 ロアンはパンを受け取るともしゃもしゃとパンを頬張り始める。


「じゃあ、話を始めようか…」


 俺はパンを頬張るロアンを眺めながら、この城について説明し始めた。



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