第370話 肉うどん

「皆が声援を掛けて送り出してくれたお陰で、俺はこうして手柄を立てて、生きて帰ってくることが出来た。ありがとう! そして、帰って来た俺達をこうして盛大に持て成してくれた事にも礼を述べる。ありがとう! 今日は生還祝いだ! 皆もたっぷりと御馳走を食べてくれ!!」


「わぅ!」


 俺は食堂の上座の壇上で、会場に集まる皆に向けてそう語る。こうして壇上から皆を見ると、この城の人員が増えたことが良く分かる。最初は俺とシュリとカローラとポチとカズオの主要五人と、それに城の骨メイド達。しかし、そこにクリスやケロース兄妹、ダークエルフ達や、プリンクリン、フィッツ、アソシエ達が増えて、カーバルから、マリスティーヌとディートを拾ってきて、マグナブリルとその文官たちがやってきてや、ヴィクトルとコゼットちゃん、エイミーたちの蟻族も合流して、あんなに広くて最初の俺達五人がまるで体育館の真ん中で飯をくっていたようだったのが、今では人がひしめき合って満員御礼状態である。


 なので、今日のパーティーは着席式ではなく、立食形式を取っている。料理も一部の者を除いてはビッフェ形式で、飲食をしない肉メイド達が飲み物や料理を配ったり、ライブキッチンをしていたりと忙しくしている。


 ちなみに、今の俺の頭には、俺の看病から来る過労で眠っていたポチが目覚めて、それ以降、ずっと頭に張り付いて肩車状態になっている。


 その姿を見た、アソシエ達の子供たちが自分もやって欲しそうな目で俺を見ている。


「では、皆さま、お手元にお飲み物をお取りください」


 司会を請け負うマグナブリルが乾杯の飲み物を持つように会場の皆に言う。


「では、イチロー殿、乾杯の音頭をお願いできますかな?」


 マグナブリルが飲み物を手渡してそう告げてくる。


「わかった」


 俺はグラスを手に取ると再び皆の方に向き直る。


「では、皆の健康と繁栄を願って、乾杯っ!」


「「「乾杯!!」」」


「わぅ!」


 俺の声に合わせて、会場の皆がグラスを掲げて、グラスを飲み干す。飲み物は皆それぞれ好きなものを飲んでいるが、俺のグラスにはホエーで作ったレモネードが注がれていた。久々のレモネードは美味い! 


 いつか、領地で自前で酒が造れるようになった暁には、その酒で乾杯したいものだな。


「お疲れ様でした、イチロー殿」


「あぁ、マグナブリルも急なパーティーの準備をさせて済まなかったな」


「この後、駐屯地の報告ではなく、土産話をお聞かせ願いたいところですが、イチロー殿はかなり空腹のご様子… 土産話は先に心行くまで料理を堪能して頂いた後に致しましょう」


 マグナブリルがフフと笑みを浮かべて言ってくる。


「あっ、もしかして演説中、俺の腹の虫がなっていたのが聞こえた?」


「えぇ、私だけではなく、会場の者にも聞こえたと思いますぞ、なので、会場の皆もイチロー殿が食べ終わるまでは気を使ってくれるでしょう」


 会場の全員に聞かれていたのか… まぁ、妄想の垂れ流しを皆に聞かれるよりかは恥ずかしくないな… というか、今はそんな事が気にならない程、腹が減っている。


「じゃあ、遠慮なく、料理を堪能させてもらいに行ってくるよ」


 俺はマグナブリルにそう告げると、今回、出征した者たちの主賓席へと向かう。そこは立食形式とは異なり、功労者達なので、自分で料理を採って来るのではなく、メイド達に頼んで配膳してもらう着席式となっている。


 ただ、普通の着席式と異なるのは、俺が事前に注文していた『たーんとくってけろぉ~』の日本昔ばなし盛の料理が並べられているので、着座式のパーティーではなく、テレビチャンピオンの大食い選手権のようになっている。


「よいしょっと」


「イチロー、お疲れ様じゃ」


 自分の席に腰を降ろすと、隣のノブツナ爺さんが声を掛けてくる。今回の座席は俺の中心で左側にはゲストのノブツナ爺さんとロアンの席、右側にはシュリやカローラ達の席が準備されている。そのロアンの席をみると空席なので、まだロアンは目を覚ましていないようだ。


「待たせて済まなかったな、ノブツナ爺さん、じゃあ食おうか」


 俺は頭に乗っかっていたポチを膝の上に乗せながら応える。


「そうじゃのう」


「では、頂きますっ!」


 俺は生きている事とマサムネの冥福を祈って、マサムネがやっていたように手を合わせて頂きますを行う。皆も合わせて頂きますを行い、料理に手を伸ばす。


 俺も勿論、料理に手を伸ばす。その料理は俺が喰いたかった骨付きあばら肉だ。自分の分とポチの分の二本をとり、ポチと一緒に齧り付く。


 いい感じに焦げ目がついた肉の表面が、パリッ!とした音を立て、肉を噛み千切って行くと、口内に芳香なスパイスの香りと共に、とろける脂と濃厚な肉汁が溢れだし口の中を満たしていく。


「うはっ!! やっぱ久々の骨付きあばら肉は美味いな! マジうめぇ!!」


「わぅ! おいしいよ! イチローちゃま!」


「鍋の肉とは違い、これは美味いのぅ!」


 ノブツナ爺さんも豪快に齧り付く。


「やはり、あるじ様の骨付きあばら肉が一番じゃ!」


 シュリも骨ごとバリバリと食っている。まぁ、カーバルに行く際に、シュリにあれこれ言われて何度も作らされたからな…


「このチーズソースにつけて食べるのも美味しいですね」


 アルファーは用意されたチーズソースにつけながら骨付きあばら肉を食べる。どんどん食べて俺の巨乳を回復してくれよ…アルファー


「えっ…なんですか…これ…罰ゲームですか?」


 皆が料理をガッツく中、カローラが少し顔を引きつらせ気味に声を漏らす。


「あぁ、カローラは俺の為に血を使ってくれたから、血の気が回復するような料理を頼んでおいたんだ」


 カローラのたーんとくってけろぉ~の日本昔ばなし盛にされた料理は、俺達の様な漕げ茶色の骨付きあばら肉がメインではなく、毒々しい赤色をしたミートローフっぽい物がメインのようだ。きっと血を練り込んだ物が多いのであろう。


「いや、毒々しい赤の血を含んだ料理の事もありますが、量の問題ですよっ! 私、元々小食なんですよっ!」


「カローラ、くわねぇと、大きくなれねぇぞ」


 もっと大きくなって、元のえろむっちむっちの姿に戻ってもらわないとな…


「いや、一度にこんなに食べたら大きくなる前に太りますよっ!」


「そこはシュリを見習って、乳に脂肪を回して巨乳になればいいだろ」


「えぇ~!! 私がシュリみたく乳牛のようになれと仰るんですかっ!?」


「誰が乳牛じゃ… そんな事を言っておると、お主のお気に入りのディアナとキエルを食うぞ…」


 シュリがジト目でカローラを睨む。


「ひっ!? やめてっ! 私のディアナとキエルを食べないでっ!!」


「ってか… ディアナとキエルって誰だよ…」


 疑問に思った俺はシュリに尋ねる。


「あぁ、カローラのお気に入りの乳牛の事じゃ、あるじ様、最初からこの城にいたのがキエルで、牧場から乗って帰って来たのがディアナじゃ」


「あぁ、そういえば、そんな事を言ってたな…」


 そんな話をしていると肉メイドがノブツナ爺さんの所に丼を配膳する。


「おっきたなっ!」


「ん? 爺さん、何を注文していたんだ?」


 丼の料理に目を輝かせる爺さんに気になって声を掛ける。  


「あぁ、これは肉うどんじゃ! 以前、駐屯地でらーめんなるものを食べたから、肉うどんも出来ないかと頼んでおったのじゃ」


 爺さんはそう言うと滅茶苦茶美味そうに肉うどんを啜り始める。



 ゴクリ…



「イチロー様も、肉うどんを召し上がりますか?」


 側にいた肉メイドのヤヨイがそわそわしながら聞いてくる。


「おう、頼めるか? ヤヨイ」


「はいっ! 分かりましたイチロー様っ! すぐさまお持ちいたします!!」


 待ってましたと言わんばかりのヤヨイは元気よく声を上げて、肉うどんを作っているライブキッチンに駆け出していき、すぐさま肉うどんを持ってくる。


「お待たせいたしましたっ! イチロー様! はいっ! 肉うどんでございますっ!」


「おぉ! うまそぉ~!! ありがとな! ヤヨイ!!」


 礼を言うとヤヨイは満面の笑みを浮かべて、小躍りするように喜ぶ。俺は早速箸を手にとり、肉をうどんに絡めて啜っていく。


「うめぇ!!! マジ美味い!!! これはいい箸休めになるなっ!!」


 生姜と和風だしのさっぱり感に、甘辛く味付けされた肉と喉越しツルツルの麺が混然一体となって程よい美味さを口の中でハーモニーのように奏でる。


「えぇぇ… 肉の箸休めに肉って… イチロー様はどんだけ肉が好きなんですか…」


 俺の肉うどんを食べる様子を見て、カローラが零す。


「あるじ様のその肉うどん…美味そうじゃな… わらわにも貰えるか?」


 俺の肉うどんを食う様を見て、自分も我慢できなくなったシュリは近くの肉メイドを捕まえて自分の分を注文する。


「ほぅ! これは美味い! 確かに美味いな! あるじ様の言う通り、いい箸休めじゃ!」


「…シュリ、それ本当に美味しいの…?」


 自分の隣で美味しそうに肉うどんを啜るシュリに、カローラも食指をそそられていく。


「美味いぞ! カローラ、お主も食ってみたらどうじゃ!」


 そう言われたカローラは視線をシュリから上げると、その視線の先にいたホノカがすぐさま反応して、肉うどんを準備し始める。


「うそ! 本当に美味しい! 全然血っぽくない!」


 カローラの美味しそうに肉うどんを食べる姿を見て、今度はアルファーとカズオが反応し始める。


「アルファーお姉さまにカズオおじちゃまも肉うどん食べたいの?」


 小蟻メイドがアルファーとカズオに尋ねる。


「そうですね…私も興味をそそられますね…」


「あんな風に美味そうに食べる姿をみせられては、あっしも我慢できないでやすね」


 アルファーとカズオの二人がそう答える。


「じゃあ、私が二人の分を持って来るねっ!」


 そう言って小蟻メイドがとたとたと駆け出して二人の分の肉うどんを用意する。


「あら、本当に美味しい…」


「これはいけやすね…あっしも頑張らないと負けてしやいそうです」


 二人は肉うどんにそう感想を漏らす。後にこの事は肉うどん感染症と呼ばれ、一時期この城で肉うどんブームが始まる切っ掛けとなったのだ。


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