第367話 身体の治療
ベッドの上に横たわる俺の体を、ミリーズはハサミを使って、全身ぐるぐる巻きにされた包帯を除去していく。
先ず、腕の包帯を除去する時は、傷が残っていないか確認すると共に、骨折箇所がないか俺に尋ねてくる。
「どこか痛む骨はある?」
「うーん、どれが痛むかというよりは、痛くない方をあげるのが早いな… まぁ、大体の骨はひびか繋がりかけているけど、尺骨がまだ繋がってない感じがするな」
俺がそう答えると、ミリーズは包帯を取り除いた腕の表面を手を滑らす様に撫でていき、それと共に、ひびや骨折による痛みが引いていく。
「やっぱり、ミリーズの聖女の力による治療はスゲーな、痛みがスッと引いていくよ」
「ふふふ、そうでしょ? それでこその聖女ですもの、じゃあ、反対側の腕も治療していくわよ」
そう言ってミリーズはベッドの周りをくるりと回って、反対側の腕の所にくる。そして、包帯を除去するためにハサミを握った時に眉を顰める。俺の左腕は空中で神の杖を照射している時に、敵の光線に薙がれて二の腕から肩に掛けて肉を削ぎ落されているからだ。その状態が包帯の上からも良く分かったのであろう。
「ひでぇ有様だろ? 俺もまだまだだな…」
「人類を守ると言っても、実際にはやっている事は殺し合いだから、傷を負うのは当り前よ」
そう言って左腕の包帯を除去していく。すると傷口を見たミリーズは更に眉を顰める。そして、真剣な覚悟を決めた面持ちで、瞳を閉じて傷口に力を注いでいく。すると、肉をそぎ落とされた傷口が脈打つようにもぞもぞとし始め、再生されている部分が、蚊に刺されたか霜焼けになった時のように、むずがゆくなってくる。
「なんだか再生されている所が滅茶苦茶痒くなってきたんだが…」
「イチローは傷口の再生されるのは初めてだったわね、切れた神経が繋がっていくから痒くなるそうよ」
「へぇ~ そうなんだ…」
以前、プリンクリンにマイSONを奪われた後、再生してもらった時には痒くなかったけど、あの時はマイSONをもぎ取られたというよりは、分離して言った感じだから、傷口が無かったからか? 原理的にどうなってんだろ、ちょっとわからんな…やはりそう言う所も含めて聖女の力は技術ではなく神秘の技の範疇なんだろうな…
その後もミリーズは俺の体の治療を進めていく。最初に両腕が傷も痛みも消えて自由になったので、腕の回復具合を確かめる為、治療をつづけるミリーズの胸に手を伸ばそうとする。
だが、その都度、シュリとカローラからまるでカンフー映画かモグラたたきゲームのように手を叩き落とされた。
くっそ…アイツら治療が始まる前にひそひそ話をしていたのはこの事か… 別にメスや注射器で治療している訳ではないから危なくないだろ…
「あるじ様… 治療をして下さる方への誠意の問題じゃぞ…」
そこにシュリが俺の考えを見透かしたように、ジトリと睨んで声を掛けてくる。こういう時のシュリの読心術は精度高すぎだろ…
まぁ、上半身の包帯を除去して肋骨のひびを治療する時は、俺が手を伸ばさなくてもミリーズの方からそのたわわな胸を俺の体に載せて来て、よい思いをする事が出来た。
「はい、上半身の治療は終わったわ、どうかしら?」
ミリーズがそのたわわな胸を俺の体から離して立ち上がり、調子を聞いてくる。もっとそのたわわな胸で俺の体を撫でまわして欲しいと言いかけたが、シュリとカローラが監視するように俺を睨んでいるので、俺はその欲望の言葉を呑み込んで、普通に治療の感想を述べる。
「今まで、呼吸するたびに、肋骨のひびが痛んで息をするのがつらかったが、ミリーズが癒してくれたお陰で楽になったよ、呼吸することがこんなに気持ちいいと思ったことは無い」
そう言って、久々に大きく深呼吸をする。う~ん、空気が美味い!
「うふふ、良かったわね、イチロー、では、次は足の治療をしていくわね」
「おぅ! 頼む! ミリーズ」
嬉しそうに目を細めて微笑むミリーズに俺は元気よく答える。すると足の方は一度に両足を治療していくらしく、ミリーズだけではなく、シュリとカローラもハサミを使って足の包帯を除去していく。
すると先程までにこやかな顔をしていたミリーズが再び眉を顰めて重い表情に変わっていく。俺の抉れた太ももや裂けそうになった足の傷を直視した為であろう。
「イチロー…」
ミリーズは沈んだ声で呼びかけてくる。
「なんだ? ミリーズ」
「貴方…良く生きていたわね…」
「まぁ、運よく致命傷を負わなかったり、一撃死を避ける事が出来たからな…」
俺はあの時の戦闘の事を思い返しながらそう答える。
「いえ、そう言う事を言っているのではないのよ… 貴方、目を覚ますまで五日程眠っていたのでしょ?」
「そうだけど…それがなにか?」
「傷を負ってすぐに治療するなら私も死ななかった事は運がいいと思うけど、五日も聖女の力無しで良く持ちこたえたわね… 普通ならこんな傷があったら失血死したり体力が尽きていてもおかしくはなかったのよ?」
もしもそうなっていたらを想像してか、ミリーズは泣き出しそうな悲壮な顔をこちらに向ける。
「あっ、それについては私に感謝して欲しいですね!」
カローラがドヤ顔をしながら声を上げる。
「ん? カローラが特別な回復魔法でも掛けてくれたのか?」
「いえいえ、そのままだとイチロー様が失血死しそうなので、私の血をイチロー様に与えて、ヴァンパイアの回復力で傷口を塞いだんですよ、イチロー様をヴァンパイア化やアンデッド化させないように見極めるのが大変だったんですよ!」
そういって自慢気につるぺたの胸を逸らせてふんと鼻を鳴らす。
「後、失っていた血や体力は、アルファーがいつぞやのロイヤルミルクをあるじ様に与えておったから、何とか持ちこたえたようじゃな」
そう言ってシュリが補足説明をする。
「なぬっ! アルファーのロイヤルミルクだとっ!! それは直接オッパイトゥマウスという事かっ!?」
「…なんでそこに熱くなるのじゃ… いや… そこは一度哺乳瓶に入れてから、看病をしているわらわとカローラで飲ませておった、ほれ、いつぞやでクリスに使っていたものがあったじゃろ?」
シュリの言葉に俺は記憶を呼び起こす。確か、ミケと一緒に猫の国に行った時の話か…
「あぁ、あの時の奴か… まさか巡り巡って俺も同じことになるとはな…」
俺もたまに赤ちゃんプレイを嗜む事はあるが、俺は哺乳瓶派ではなく、直接派なので残念だ。
「イチロー、とりあえず治療を続けるけど、足の治療は、傷口というか足その物が裂けて変形して、その上癒着までしているから、施術中施術後、かなり痺れたり痒くなったりするわ
、だから、一応全ての施術が終わるまで、体の感覚を遮断するけどいいかしら?」
ミリーズが真剣な面持ちで確認してくる。
「あぁ、そこはミリーズに任せるよ、やってくれ」
「じゃあ、始めるわよ」
そう言うと、俺の体は全身麻酔を掛けられたように感覚がなくなり動かせなくなる。
これが終われば、俺の体は完全復活だ…治ったら…まぁ最初に久々の…
そんな事を考えながら俺は静かに目を閉じたのであった。
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