第365話 状況報告
いつも使っている城を入ってすぐの応接室に入り、マグナブリルに肩を借りながら主賓席に座ると、まるで椅子取りゲームでもしているような勢いで、プリンクリンとネイシュが掛けて来て、即座に俺の両隣に座って占拠する。
「ダーリンっ! 私が愛情たっぷりの回復魔法を掛けてあげるわね!」
「ネイシュも秘伝の塗薬をイチローにつけて上げる…だから早く良くなって!」
二人が両側から俺の治療を開始する。
「イチローさん、私も治療しますね」
「僕も回復魔法を」
ソファーの後ろからマリスティーヌとディートも治療を始める。
「お、おぅ…すまねぇな…」
回復魔法で出来る範囲は自分で治したのだが、まぁ、好意を断る事も出来ないし、自由にさせておくか…
そして、ノブツナ爺さんは俺の正面に座り、その両隣にシュリとカローラが座り、その他の今回参加していたカズオやアルファー、クリスは今は馬車を片づけたり、馬を厩に回している所だ。
「それで、イチロー殿、今回の出征先での任務はそれほどまでに過酷だったのですかな?」
端の席に座るマグナブリルが早速話を聞いてくる。
「それが最初は過酷どころか、暇を持て余していた状態なんだが… その…なんだ、世界の裏側とか真実を知ったような感じで、最後には飛んでもない事になったんだ」
俺の言葉に一緒に駐屯していたノブツナ爺さんもうんうんと頷く。
「どの様な事があったのか詳細をお聞かせ願いますか?」
そう言われて俺は詳細を語り出す。
契約魔法があるので、団体名や個人名などを具体的な状況を説明する事は出来なかったが、例えや匂わせる発言などで、マグナブリルならそれらの状況なら与えられた情報を整理して、なんとなく事態を把握してくれると踏んだ。
そんな感じに説明しているうちに、契約魔法で制限される内容と制限されない内容とが、魔法の効果の発動という形で分かってきた。契約魔法で制限されるものは、話し出そうとすると、首が閉まる感覚があるが、制限されてないものはその感覚がない。
それで自分で検証してみるとマサムネたち特別勇者や駐屯地の事はどうやらアウトで、最後に戦った魔族人との戦いについてはセーフの様だ。
なんだろう、これは単なる情報漏洩だけを心配したものではなく、マサムネたち特別勇者の技術を独占したい意図が感じられた。…ぼっさんは今頃無事だろうか…
そんな感じに契約魔法に配慮しながら今回の事を説明した。
「なるほど…」
俺の話を聞き終わると、マグナブリルは顎に手をやり、暫し考え込む。そして、頭の中で組み立て整理してから顔を上げる。
「つまり… この世界には真の強者がいて、その者たちの力で、魔族の主力を魔族領に閉じ込めていたということですな?」
マグナブリルは確認するように、俺達に問いかける。しかし、言葉にして答える事はおろか、頷いて答える事も契約魔法で制限されているらしく、頷く事もできず、俺達はじっとマグナブリルを見る。
「…なるほど…私の問いに答える事も契約魔法の制限に掛かっているのですね、無理をなさらなくても結構です」
マグナブリルにそう言われると、俺達は息を止めて固唾を呑んでいたような状態から解放されて、ふぅと胸を撫で降ろす。
あの時は気軽に契約魔法を交わしたが、これは結構厄介な代物だ…
「しかし、なんですな…私がイアピースの宰相を勤めていた時にはその様な情報をもたらされておりませんでしたので、私が宰相を辞退した後に設立されたのか、もしくは王のみに与えられる情報なのかもしれませぬな… そう言えば、今から思い返せば時々、王が先程イチロー殿がなされたような回りくどい例え話をなさることがあったので、その頃からあったのやもしれませぬ」
マグナブリルが一人納得したようにうんうんと頷く。すると今度は俺の後ろで回復魔法を掛けていたディートが話し出す。
「なるほど、情報漏洩を警戒して、イチロー兄さんのいた場所は魔法を使った情報のやり取りも出来ないように何か仕掛けをされていたのですね、最初の内は返信があったので安心していましたが、カローラさんやシュリさんが読みたがっていた本を手に入れて連絡したのにまったく返信が来ないので、こちらも心配していたんです。まさか全滅したのではないかと…」
「あぁ、そうだったようだな、俺も駐屯地にいる時に、城からの本が手に入ったって連絡が無かったが、最後に脱出する時に駐屯地から離れてから一気に溜まっていた情報が流れてきたみたいだな、生憎俺はずっと眠ったままだったのと、体が動かせない状態だったから、返信をする事はできなかったが… すまねぇな心配かけて…」
俺は頭を仰け反るようにして後ろのディートを見ながらそう答える。すると、ディートはにこりと笑いながら答える。
「いえ、構いませんよ、こうして生きて帰ってきてくださったのですから」
「そうそう、私、ダーリンを信じていたからっ!」
「ネイシュも必ずイチローが帰ってくると信じていた!」
両脇のプリンクリンとネイシュも呼応して声を上げる。
「それよりも、『このワン』はどうしたのっ! 『このワン』!」
カローラが本の事を思い出して声を上げる。そのカローラの言葉に俺の後ろにいるマリスティーヌが答え始める。
「あぁ、カローラさんの読みたがっていた『このワン』なら私が預かってますよ、ついでにホワイトブラックの新弾と、シュリさんの読みたがっていた『小さなシュリのものがたり』も預かってますよ、いや~今回のシュリさんの話も面白かったですね。特にお風呂場での…はっ!!」
マリスティーヌはそこまで言いかけて、はっと気が付いて、シュリを見る。
「言いませんからっ! 言いませんからっ!! 私は前回まだこっちに来るなと師匠にいわれていますからっ!」
身構えるシュリにマリスティーヌは慌てて言い訳を始める。前回、マリスティーヌはシュリのボディープレスを受けて三途の川を渡りかけたからな…
「まぁまぁ、シュリもカローラもその事は後にしてくれ、今は今回の結末の情報共有が先決だ」
俺がそう言うと、手をワキワキとしていたカローラと、ソファーから腰を上げていたシュリが、シュンとして腰を降ろす。
「ふむ、それで最終的に魔族の強敵をイチロー殿やそのお仲間たちが重傷を負いながらも打ち倒したのはお伺いいたしましたが、その後、こちらに戻ってこられましたが、傷が治ればまた、再び任務地に戻らねばならないのですか?」
マグナブリルが俺に向かって発言し、その内容に俺がまたそんな危険な任務地に赴かねばならないかと皆が心配した顔で俺を見る。
「その件に関しては…ノブツナ爺さん頼めるか?」
俺も目覚めてからノブツナ爺さんに、俺が気を失っている間に、イアピースの国境付近の対魔族連合の駐屯地でどの様な話し合いが行われたかを聞いたが、俺が話すよりも、直接話をしたノブツナ爺さんに説明してもらった方が良いと思って振って見る。
「うむ、対魔族連合との話し合いじゃが、わしらがあの化け物を倒した後、魔族領全域に、不透明の障壁が張り巡らされてのぅ、中を見る事どころか、行き来することが不可能となり、少数精鋭を使った威力偵察もなくなったそうなのじゃ、なので、後は対魔族連合が対処して、わしらはお役御免となったのじゃ」
ノブツナ爺さんがマグナブリルに向けて説明する。
「ふむ、先程スラスラと事情を説明されましたが、契約魔法の制限を受けておられないご様子ですね」
「あぁ、魔族領の近隣国からすれば誰にでも見える状態で障壁が張られておるからの、そのように目立つものを公の秘密にはしておけんじゃろ」
俺もその話を聞いて望遠魔法で見てみたら、確かに障壁が張ってあるのが見えたからな… あれだけ目立つものを公の秘密にしておくことは不可能だろう…しかし、あの障壁… 恐らく、マサムネの神の杖を警戒しての事だろうな…
「なるほど、分かりました。現状では任務が解かれたということですな…しかし、その障壁を張ったのが魔族側であるならば、解除するのも魔族側の好きに出来る状態だと… これは障壁が解かれた日には再び招集されると考えた方が良さそうですな」
俺とノブツナ爺さんは真剣な面持ちで、マグナブリルの言葉にコクリと頷く。
「では、再び招集される事に備えて、今はゆっくりと休まれるのが良いでしょう。そちらのお客人にはお部屋をご用意いたします」
そうして、とりあえずの報告会が終わったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます