第364話 城の皆との再会

 馬車が城の城門まで見える距離まで差し掛かると、門番をするフィッツを先頭に、皆が俺達を出迎える姿が見え始める。


「以前と違って、今回はえらく盛大でやすね」


 その様子を見てカズオがポツリと声を漏らす。


「あぁ、蟻族のエイミーたちも合流したし、マグナブリルの文官たちも来たからな、以前の骨メイドだけ状態ではなくなって大所帯になってきたからな」


 俺の目にも城壁の上や城門から城の玄関まで並ぶ蟻族や文官・肉メイド達の姿が見える。そんな中、城門を警備するフィッツが目を丸くして俺の所へ駆けよってくる。


「イチロー様っ! そのお怪我!! 大丈夫なのですかっ!?」


 フィッツは俺の包帯姿を見て眉を顰める。


「あぁ、大丈夫だ、フィッツ、でなければ御者台に座ってたりしてないよ」


 そう言って、フィッツを安心させる言葉を返す。それでもまだ不安そうなフィッツを置いて、馬車は城門を抜け、城壁の中へと進んでいく。城門から城の玄関まで続く道には、蟻族だけではなく、マグナブリルの文官や肉メイドたちもならんでいるが、蟻族はいつも通りのポーカーフェイスなのに対し、文官たちはフィッツと同じように目を丸くしたり、眉を顰めたりして俺の包帯姿に驚いているようだ。


 さらに城の玄関前まで近づくと、俺を出迎えに出て来ていたアソシエ達やプリンクリンが俺の包帯だらけの姿を見て悲鳴のような声を上げて駆け寄ってくる。



「ダーリンっ!!!」


「大丈夫!?イチロー!!」


「イチロー!! その怪我っ!!」


「死なないでっ!! イチローっ!!」


 それぞれの女が自分の子供を抱いたり手を引いたりしながら、悲壮な顔をして馬車に駆け寄ってくる。


「ただいま、みんな、心配かけたな、俺は無事だ」


 俺は柔和な笑顔で皆に答える。それでも女たちは眉を顰めて不安な顔をしているが、抱きかかえられていたり手を引かれている子供たちは、俺の包帯だらけの姿がどんな状況かは分らず、ただ久々に俺と再会できたことにきゃっきゃっと声を上げて喜んでいた。


「イチロー、私がすぐに聖女の力で癒してあげるわっ!!」


 ミリーズがぐいっと前に進み出る。


「ミリーズさんっ! 私もイチローさんの治療のお手伝いをしますっ!」


「僕にも出来る事があればなんでもしますっ!」


 ミリーズの後に続いて出迎えに出ていたマリスティーヌやディートも進み出る。


「いや、俺は後回しでいい、それよりも先に治療してもらいたい奴がいるんだ」


「えっ!? 他の人って… もしかして、シュリちゃんやカローラちゃんが怪我をしたの!?」


 俺の言葉にミリーズが眉を顰めて驚く。恐らくシュリやカローラが包帯だらけの俺以上に怪我をしたものと誤解したのであろう。


「二人とも大丈夫だ、って、さっきズボンだけ履いたのはいいけど靴を履くのを忘れてたな… シュリ! 済まないが俺の靴を持ってきてくれるか?」


 ミリーズに答えながら馬車から降りようと思ったが、自分が包帯だけの足で靴を履いていないのを思い出し、馬車の中にいるシュリに声を掛ける。


「それとちょっと人手を呼んでくれないか、ロアンを降ろすのにシュリとカローラじゃ無理だ」


 ミリーズ達に向き直り、そう告げるとミリーズだけではなく、アソシエとネイシュが目を丸くして驚く。


「えっ!? ロアンが!? ロアンが一緒にいるの!?」


「もしかして、私の聖女の力が必要なのはロアンなの!?」


「ロアン…大丈夫なの!?」


 パーティーを脱退して俺の所に来た三人であったが、ロアンの名を聞いて、驚きと動揺を隠せない様子だ。


「ほれ、あるじ様、靴じゃぞ」


「ありがとなシュリ、で、ロアンとは任務地で一緒だったんだ。そこで、俺達を護るためにロアンがちょっと大変な事になってな」


 俺はシュリから靴を受け取り、靴を履きながら三人に事情を説明する。片方の足は問題なく靴を履く事が出来たが、裂けた方の足は包帯が邪魔で靴を履く事が出来ずに諦める。


「仕方ねぇな…」


 そんな事で、俺は片足だけ靴を履いて、いつもなら飛び降りている御者台を手すりを握って慎重に降り始める。魔法で痛覚は切っているもののやはり裂けた足に体重をかけるのはちょっと気が引ける。


「イチロー殿、肩をお貸ししますぞ」


 そこで、後ろで状況を見守っていたマグナブリルが進み出て来て、俺に肩を貸してくれる。


「おっ マグナブリル、済まないな」


「いえいえ、イチロー様に肩を貸すのは私の当初よりの務め… しかしながら、私のような老体が勇者のイチロー様に物理的に肩を貸す日が来るとは思いませんでしたな」


 マグナブリル的にはウィットなジョークのつもりでそう返す。そこへロアンを運ぶために呼んだ人手が、ロアンを抱えて馬車の中から運び出されて俺達の前を通り過ぎていく。


 ミリーズの聖女の力が必要だと言われたロアンであったが、ただ眠っているだけの様な姿に疑問に思ったミリーズが俺の顔を見る。


「ロアンは俺達を守る為に無茶をして、自分の体を顧みず何度も強力なシールド魔法を掛け続けたんだ、無茶をした魔法使いによくある神経の過負荷で廃人状態になりかけているんだ。ミリーズの力で癒してやらないとずっと眠ったままだ」


 俺がそう説明すると、ミリーズは真剣な面持ちで魔術師のアソシエの顔を見た後、アソシエの俺の言葉に同意するような頷きを見て、俺に向き直ってコクリと頷く。


「分かったわ! 私の力でロアンを元通りにしてみせるわっ! ロアンを医務室に運んでもらえる?」


 ミリーズがそう支持を飛ばすと、ロアンを運び足しているビアンとロレンスの二人が、眠れる馬車の美青年状態のロアンを見ながら、悪人が何か盗んだヤバい物を見てニヤリしたような笑みを浮べながら城の中へと運んでいく…


 …大丈夫だよな? まさかとは思うが廃人状態になって眠り続けている病人に手を出したりしないよな? ってか、もしかしてとは思ったが、イケメンロアンは二人のストライクゾーンに入っていたのかよ…


 もし、あの状態がロアンでなく俺だったと想像すると、それだけでケツヒュンになってくる…


「どうされましか? イチロー殿」


 そんな俺の不安を察してマグナブリルが声を掛けてくる。


「いや、何でもない…少しロアンが心配になっただけだ…」


 俺はマグナブリルにそう返す。するとロアンに続いて馬車の中から目を覚ましたノブツナ爺さんが出てくる。


「ここがイチローの城か… あれからそれ程経っていないがこの様な城を手に入れているとはのぅ… 大したものじゃ」


 ノブツナ爺さんは睡眠で十分休息を取っていた為、誰にも支えられることなく、一人で立って馬車を降りる。


「イチロー殿もお客人も、先ずは部屋で休まれますかな?」


 マグナブリルが俺とノブツナ爺さんに尋ねてくる。


「俺は大丈夫だ。ノブツナ爺さんはどうする?」


「馬車の中で十分寝ておったからのぅ、わしも大丈夫じゃ」


 俺達の返事を聞くと、マグナブリルはうんうんと頷く。


「では、とりあえず城に入ってすぐの応接室にてどの様な事があったのか事情をお聞かせねがいますかな?」


 そう尋ねてきた。


「わかった、色々あったから事情を話そう」


 そうして俺達は城の中へと入っていった。




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