第358話 60秒

「…と言うやり方だ… 出来るかロアン?」


 俺は今回の作戦の内容をロアンとノブツナ爺さんに説明する。ロアンの現状は限界に近いというかほぼ限界だ。これ以上無理をさせればロアンが廃人になってしまう恐れがある。


 だがしかし、無理は承知でも作戦内容を行ってもらわないと、そもそも俺たち全員生き残る事は不可能だし、俺達だけの命ではなく、今逃走中の仲間や、魔族の人類に対しての進行が始まってしまうかもしれない。


 ロアンの性格からすれば、元々断るなんてことは出来ないであろう、だが俺は敢えてロアンに選択肢があるような問い方をした。その方が自分が下した決断という事で、強い覚悟ができるからだと踏んだからだ。


 ロアンは目を閉じて考えた後、カッと目を開く。



「人類の為…仲間の為…そして僕たちの為… 分かった引き受けよう!!」



 俺の思い通りロアンは覚悟を決めて力強く答える。



「ノブツナ爺さんはいけるか?」



 俺はノブツナ爺さんに向き直って尋ねる。



「わしは端から畳… いやこの世界ではベッドか…ベッドの上で死のうとは思っておらぬ」



 ノブツナ爺さんは口元をニヤリとして答える。



「ありがとな、爺さん… じゃあ、改めて言うが60秒だ、俺が照射を始める時に合図をするから、60秒経ったら、ロアンはシールドを全力で張って、爺さんもそのシールドの陰に隠れてくれ、出来れば可能な限り敵から離れていた方がいい!」


「うむ! 60秒じゃな!」


「全力だねっ! 頑張るよっ!」



 ロアンとノブツナ爺さんは覚悟した顔でうんと頷く。



「ワタクシ…カイフクカンリョウ… オマエタチ…トドメサス…」



 敵も準備が終わったのか、完全回復した体でこちらに腕を伸ばして歩いてくる。



「泣いても笑っても…これが最後だ… 行くぞ!!!」



 俺がそう言うと同時に、敵はいつもの散弾をかましてくる!!



「オメガシィィィルドォォ!!」



 ロアンが気力を振り絞ってシールドを展開する!


 それと同時に敵の散弾がシールドに着弾して、視界一面に散弾が炸裂する様子が広がる。そして、それを合図に俺とノブツナ爺さんは敵のいる前へと駆け出す!!!



「オマエタチ…バカダ…ワンパターン…」



 しかし、敵は俺達が再び足元に潜り込むことが分かっていたのか、膝を屈めて本体で圧し潰そうとしてくる。



「抜かせ!!! バカはお主じゃ!!!」


 キィンッ!


 キィィィィィィンッ!!!!



 赤い闘気を放つ残像の様なノブツナ爺さんが、敵の足に二つの一閃を放つ!!



「おまけじゃ!!! どすこいっ!!!」



 ノブツナ爺さんは敵の足首と膝を切り離し、すくに再生されてくっ付かないように、切り離された脛を蹴り飛ばす!!



「ナッ!!!」



 脛が無い状態ではすぐに足を再生することは出来ず、敵は体勢を崩して大きく傾き始める。



「よっしゃぁぁ!!! 俺の出番だぁ!!! 心肺機能強化!!! 筋肉強化!!! 筋肉アシストオンッ!!! さらに筋肉強化!! 追加で筋肉強化!!!」


 

 俺は自身の筋肉と、筋肉アシストオンにして更に今まで以上の筋肉強化して、自身もアシストもオーバーブーストした状態で、残っている敵の足にしがみ付き、全力で押していく!!



「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



 俺はキログラム単位の重さではなくトン単位の重さの敵に、自分が出せる全力の力で、まるで相撲の様に、敵を押し続ける!!


 流石に分厚い装甲を纏った巨大な敵である。その重さは尋常ではなく、まるで幼児が大人の足にしがみ付いて押すようなものである。


 その巨大な敵を押す為に、着込んでいた筋力アシストがオーバーブーストに耐えられなくなってきて、体のあちこちでブチブチと何かが切れる音が聞こえる。それは自前の筋肉も同じで、音が聞こえてくることは無いが、感覚で体の筋肉や血管が弾けるような感触が伝わってくる。



 持ってくれ!!! 筋力アシスト!! 持ってくれ!!! 俺の体!!!



「うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



 渾身の力を込めて押し続けると、ふいに敵の体が沈む感覚と、熱気を肌で感じる!!



「ヌオッ!」



 ドブゥゥゥゥゥンッ!!!!!



「よしっ!!! やったぞぉ!!!!」



 俺は声を上げて、敵から飛びのく。そして、敵の姿を確認すると、敵は自らの光線で作り出していたマグマに嵌っていた!!



「次に行くぜぇぇぇ!! アイシクルゥフィィィィルドォォォォ!!!!」



 俺はアソシエの得意技である、無数の氷柱が地面から突き出す魔法、アイシクルフィールドを使う。



「イッシュン…オドロイタ…デモ…オマエ…バカ… コンナトコロデハ…コオリ…デナイ…」


 思った通り、マグマの中でも無事な敵が、俺の魔法で氷柱が出ない事を嘲笑い始める。



「いや、これでいいんだよっ! お前の周りをよく見てみろっ!!」



「ナヌ!?」



 敵の周りはドロドロに溶解したマグマではなく、冷え固まった岩へと変わっていた。



「これでお前は動き回ることは出来まい!! みんなぁぁ!!! 始めるぞぉぉぉ!!」


 

 俺は皆に合図の大声を上げて、腰の小物入れから、マサムネから託されたグリップ型の秘密兵器を取り出し、敵に向けてそのトリガーを引く!!



『Stand by Ready, set up.』



 グリップから敵に向けて、レーザーポインターが伸び、秘密兵器から音声が流れる。


 おいおい!マサムネの奴! あの時、俺の妄想を聞いて笑っておきながら、この秘密兵器にも同じような音声が入っているじゃねぇかっ!!



『発射モード操作を確認しました』



 おっ、ちゃんと日本語でも説明してくれんだな



『対象に60秒間、照射し続ける事で、対象を攻撃します。尚、照射から30秒を過ぎると発射シーケンスのキャンセルは不可能になります』



 ってことは、30秒を超えてから、照準を逸らしたりするとやり直しは効かねぇって訳か… 注意しないと…



『発射シーケンス完了まで、後22秒…』



 発射シーケンス完了まで22秒…そこから更に30秒…合わせて52秒後にケリがつく訳か… そこまで照射しつづけられるか!?



「トクテイフメイ… キケンコウドウヲカンチ… ハイジョ…ユウセン…」



 俺の照射に危険を感じた敵は、俺を排除するために、マグマに埋もれなかった砲弾の方の腕を伸ばす。



「させんっ!!」



 ノブツナ爺さんが飛び出してきて敵の砲弾を両断する!!



「ナラバッ!!」



 敵は自分の被害を被るのを覚悟で、自分を固めているマグマに砲弾を撃ち込む!



「ちょっ! おまっ!!!」



 ドゴォォォォォォォン!!!


 

 散弾の直接射撃程ではないが、砲弾と固まったマグマの破片が俺とノブツナ爺さんを襲う!!



「オメガシィィィルドッ!!!」



 そこへロアンが駆けつけてシールドを展開する。間一髪で俺とノブツナ爺さんは破片から防がれるが…



『照射が中断されました。もう一度最初から照射を初めて下さい』



 グリップから音声が流れる。砲弾を撃ち出した時の土煙や、シールドに破片がぶつかって広がった事により、レーザーポインターが切られてしまったのだ。



「くっそ! また、最初からかよっ!!!!」



「ナルホド…ソウイウコトカ…」



 グリップの音声を聞いていた敵は、まだ体の大半が冷えたマグマに埋まっていて体は動かせないものの、砕けた破片を鷲掴みにして、俺達を目掛けて投げてくる!!



「オメガシールド!!!」



『照射が中断されました。もう一度最初から照射を初めて下さい』



「くっ!! シールドと破片がぶつかった時の粉塵で照射が中断されちまうっ!!」



「イチロー!!! どうするんだっ!!!」


 シールド魔法の使い過ぎで、ドバドバと鼻血を流すロアンが必死の形相で尋ねてくる。



「こうなりゃ、土煙の心配の無い上からねらうしかねぇなっ!!! エアブースト!!!」



俺は敵に照射を続けながら、吹き出す間欠泉の様な勢いで空へと舞い上がる!



「イチロー!! それではシールド魔法で防げないぞ!!!」



 ロアンが俺を見上げて叫ぶ。



『10秒経過』


「んなことは分かってんよっ!! 何とか必死に避ける!!! それよか後50秒程だ!! 忘れんなっ!!」


「バカメ…ウチオトシテヤル…」



 敵はそう言うと、口を大きく開いて、光線の発射準備に取り掛かる。



 やべぇ! 砲弾や散弾もヤバいがアレはシールド魔法でも防げない、一発当たったらオワタ式の攻撃だ! しかも光の速度でくるので見てからの回避なんて不可能だっ!



「ならば! 当てられないように高速で予想できないランダム飛行をするしかないっ!!」



 俺は残る魔力を全開に、ジグザグのランダム飛行を始める。



 スゥンッ! スゥゥゥンッ!



 俺のランダム飛行をする周りに、敵の光線がかすめていく。高速でジグザグ飛行しながら敵に照準することにかなりの集中力が要求される。その集中に神経がガリガリと音を立てながら削られていく感じだ。



『25秒経過…』


 まだ25秒かよっ!! 


 スゥンッ! スゥゥゥンッ!


 くっ!!! ギリギリすぎるっ!! いつ手足が光線で切り払われてもおかしくねぇ!!!


『30秒経過しました。発射シーケンス開始。以後、発射のキャンセルはできません』



 ついにやり直しの出来ない所まで来た!!!


 光線が当たれば終わり、照準が外れたら、これもまた終わりだ。



 ジュゥゥゥンッ!!!



「ぐわぁっ!!!!」



 光線が空いている左腕の肩をかすめ、その時に肩の肉を一部削いでいき、猛烈な痛みが俺を襲う!!!




 堪えろ!!! 堪えろ!!! 俺!!! 痛みで照準を狂わせてたら何もかもが終わるっ!!



 俺はガチン!!と音立てながら歯を食いしばり、痛みに耐える!



『後20秒…』



 なげぇ…長いよっ!! 今までの人生で一番長い60秒だっ!



 そこで、敵の光線がすっと消える。敵の光線の照射時間の終わりだっ! 確かクールタイムに60秒必要だったから、これで勝てるぞ!!!



「ワタクシ…ガンバル…」



 敵はそう言うとまだクールタイムが終わっていないのに、再び口を開いて口内が光り始める!!


 俺達が限界以上に体や精神を酷使して戦っている様に、敵も自身の体がオーバーロードするのを覚悟して攻撃してきたのだ!!!



「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!! やってやるっ!!! やってやるぞぉぉぉ!!!!!」



 先程の照射を続けながらの高速ジグザグ飛行という神経をガリガリ削る集中状態に、肉を抉られた肩の猛烈な痛みが加わっている。



『後10秒…』



 後10秒凌げば、俺達の勝利だっ!


 そう思った時、俺の体全体に激痛が走る!!!


 敵が光線を吐きながら、先程地面を砕いた破片を散弾代わりに投げてきたのである。



『9…』



「ぐはぁっ!!!」



 太ももが抉られ、体のあちこちに細かい破片が鎧を突き抜け、体にめり込む!



『8…』



「イチロォォォォ!!!!!」



『7…』



「いかんっ!!!」



『6…』



 キィィィィィィィン!!!



『5…』



 ドサリっ!



『4…』



「ワタクシノ…ウデガ…」



『3…』



 俺は身体全身に走る猛烈な痛みで、気を緩めたら気を失ってしまいそうなのを必死に堪える!!!



『2…』



 霞みかかった視線で敵を直視する。



『1…』



「うぉぉぉぉぉ!!!! 俺達の勝利だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



『0!!』


 


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