第355話 ノブツナ爺さんの提案

 ドゴォォォォォォォン!!!!



 再び敵の猛攻が始まり、巨大な火柱が立ち上る。



「散弾二連撃の後に光線だと!? アイツ! 攻撃パターンを変えてきやがった!!」


 くっそ!敵は思ったよりも頭の回る奴だ。わざとバカな振りをして同じ攻撃パターンを繰り返し、こちらが同じ攻撃パターンしかしてこないと思って、行動を変えた時に、自分も攻撃パターンを変えるなんて…


 確かに敵が俺でも同様の事を考えるが、自分がそれをやられると滅茶苦茶腹が立つ!


 ってか、ロアンとノブツナ爺さんは無事なのか!?


 そう思っていると、ノブツナ爺さんが溶解した地面から身を護るシールドを張り続けたロアンを担いでこちらに掛けてくる姿を見つけて、一端胸を撫でおろして安心する。



「爺さん! ロアン! 無事だったか!!」


「おぅ、無事じゃ」


 俺の所まで駆けてきたノブツナ爺さんは、担いでいたロアンをバサリと降ろす。


「して、イチローよ、切れんかったのか?」


 ノブツナ爺さんは俺の敵の足首を切り落とせなかった事を真顔で聞いてくる。


「あぁ、すまん爺さん… 装甲が無いと思われる敵の足首を狙ったんだが、ご丁寧に蛇腹の装甲を付けていたんだよ」


「えっ!? 関節にも装甲を!? それとイチロー! 君の耳! 血が溢れているぞ! 大丈夫か?」


 ロアンが立ち上がりながら驚きの声をあげる。ロアンの言うように耳に触れてみると、確かに血が大量に流れており、止血魔法を掛ける為に触れてみると、耳の輪郭の一部が指先程の大きさで欠けていた。かすっただけだと思っていたら、しっかりと破片でもぎ取られていたのだ…


 シールド魔法を掛けていても、小さな破片でこの威力…アイダやニノミヤもこれでやられたのか?


「あぁ、そのまま振り抜こうとも思ったんだが…やはり敵の魔法障壁が厄介でな…」


 俺は耳の治療をしながら、先程の状況を説明する。


「どういう事じゃ?」


 俺の言い訳に爺さんが理由を聞いてくる。


「魔法を使ったものは敵の魔法障壁に全て弾かれてしまうんだが、これは攻撃魔法だけではなく、攻撃補助魔法も同様なんだ… それはただ攻撃力を上げるものだけではなく、武器自体を強化するものも同様で、あんな硬い敵を切る場合には、武器その物に強化魔法をかけていないと、武器が折れてしまう…」


 俺はカチャリと自分の剣をノブツナ爺さんに見せる。


「今回の様にアンチマジック処理を施した剣だと、武器に強化魔法を掛ける事が出来ないから、折れてしまう可能性があったから、力任せに振り抜けず、表面を流す事しか出来なかったんだよ…」


 今更ながら、何としてでもマサムネたちに敵の装甲を使った武器を分けてもらうべきだったと後悔した。


「ふむ…なるほど、そう言う訳じゃったのか…」


 ノブツナ爺さんは納得したように頷く。


「しかし…それでは打つ手が無いな… このままでは一方的に弄られるだけになる…」


 ロアンも眉を顰める。


 この打つ手の無い状況に俺とロアンは絶望に苛まれる。このまま敵に対して有効な手段が無く戦い続けた場合は、いづれ敵の攻撃を避けられなくなったり、ロアンのシールドが展開できなくなってきて長くはない時間で、俺達はやられることになるだろう…


 その時、脱出した部隊はどこまで進んでいるだろうか… とてもじゃないが、イアピースの国境付近にあった仮設の対魔族連合の施設に辿り着く事は不可能であろう。もし辿り着く事が出来るのなら、現状を報告して応援の特別勇者を派遣してもらう事もできるだろうが、その国境に辿り着くまで、昼夜を問わず馬車を走らせても丸一日は掛かる。


 とてもじゃないが、今の反撃手段の無い現状で一日も時間を稼ぐのは不可能である。それどころか、一時間、いや十分も持たないのではないだろうか…


 そうなると十分程度では、下手すれば敵の主砲が射程圏内の可能性がある。今の逃走しているメンバーでは、シュリとカローラなら、あの主砲に対応できる可能性もワンチャンあるかも知れないが、それは主砲を撃たれると分かっている場合であって、まさか十分離れた距離から砲撃されるとは思っていないだろう…



 マズいな…どうする…



 俺は現状を打破する方法が思いつかず、拳を握り締める。



「少し良いか?」



 そんな考えあぐねて沈黙を続ける俺達に声を上げたのはノブツナ爺さんであった。


「なんだ? ノブツナ爺さん」


 対応方法が思いつかず思い悩んで、眉を潜ませる俺やロアンと違って、真顔で佇むノブツナ爺さんに目を向ける。


「もう一度、さっきの戦法を為さぬか? だが、攻撃する役目はわしがやる」


 最初の言葉は訳が分からず眉を顰めたが、後ろの言葉で、俺は目を見開く。


「爺さん! 敵の装甲を何とかする方法があるのか!?」


 ノブツナ爺さんに驚きの目を向けるが、爺さんは自信ありげに笑うでもなく、またその逆でもなく、真顔のままだ。


「分らぬ…確実な事は言えぬが、わしも考えている事を試して見たくなったのじゃ…」


 そう言ったノブツナ爺さんから、突如、猛烈な圧力と言うか気迫のような物が溢れだす。



「じ、爺さん!? なんだよ!! そりゃ!!」


「わしは…以前の世界でも、そしてこの世界に於いても、最強の座に至る為に常に自身の肉体や技を磨き上げてきた…」



 ノブツナ爺さんの瞳が、鈍く輝き始める。



「だが、以前の世界では鉄砲が、この世界では魔法があり、そんなものの前では、近づく前にやられてしまう… 最強など程遠い存在であった…」



 ノブツナ爺さんが手に握る刀を自分の顔の前に掲げる。



「剣の世界で頂点に立つといっても、子供のお遊戯の様なもので、それは武を極めようとするものにとっては、真の最強を目指せなかった事への言い訳にしかならん!!」



 爺さんの顔の前の刀がブォンと鈍い輝きを放ち始め、紅に染まるオーラが、湯気の様に立ち昇り始める。



「私はこの世界に転生し、魔法なるものを知った… 己自身を磨き上げ、最強に至る為には避けては通れぬ道じゃ… しかし、既に剣に多くの時間を費やしたわしが、にわかに魔法を学んだところで、文字通り付け焼刃にしかならん…」



 やはり、ノブツナ爺さんはプリンクリンの時に、操られていたとは言え、魔法の使えない空間で、俺に負けた事を悩んでいたのか?



「ならば、魔力を練り上げ、己が闘気に変え、この身と刀に巡らせる… わしが下した結論じゃ… あのような強大な敵にわしの新しい剣がどこまで通じるか試してみたい…」



 俺ですらゾワリと背筋に寒気が走る様な、気迫と凄味でノブツナ爺さんはニタリと笑う。


 これこそが、戦国の世を生き抜いた剣豪の真の姿なのだ。


 俺はそんな爺さんの凄味に、ゴクリと唾を飲み込む。



「分かった…今度は爺さんがアタッカーでやって見よう…」



 俺たち三人は新たな覚悟でこちらに振り返ってくる敵を睨みつけた。


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