第354話 攻勢

 ドゴォォォォォォォンッ!!!!!!!


 ドゴォォォォォォォンッ!!!!!!!



 俺のすぐ近くに電信柱の様な砲弾が着弾する。



「クッ!」



 回避して直撃は避けたものの、飛び散ってくる破片が散弾の様に広がり、ビシバシと体にぶつかる。鎧をまとっている部分は破片をキンキンと硬い音を立てて弾き返すが、肌が露出している部分はシールド魔法を掛けていても、痛みを感じる。



「シールド魔法を掛けていてもこれかよ… 無しで受けたら大変な事になっていたな…」


「済まない… 敵の攻略方法が見つからない状態では、何度もオメガシールドを使う余裕が無い…」


 オメガシールドを使わず、各々の方法で、回避することになった事を、ロアンが申し訳なさそうに頭を下げる。


「しかし、本当にやっかいな敵じゃな…」


 ノブツナ爺さんがそう言いながら体についた土埃を払う。


 何度か敵の砲撃を避け続けて分かった事だが、敵は、散弾でこちらの足止めを狙った後、止めを刺す為に主砲の方や、光線を放ってくる。主砲や光線のそれぞれ単体では、俺達に容易に回避されることを分かっているのだ。



「しかし、何度か砲撃されて見て分かったが、あのでっかい砲弾の主砲の方はリロードまでに二発、散弾の方は四発、光線はクールタイムに60秒掛かるみたいだな」


「何度も死にかけそうになったけど、敵の攻撃パターンが分かった事は、今後の攻略の糸口になるね」


 ロアンにそう言って、ほんの僅かな希望を見出してにっと笑う。


「して、その攻略の糸口をどのように使うのじゃ?」


「そうだな…」


 ノブツナ爺さんの言葉に少し考え込む。


「次の散弾からの攻撃パターンの時に、ちょっと試してみたい事がある」


「どのような方法じゃ」


「主砲が飛んできた後、俺は敵の懐に飛び込んで攻撃してみようと思う」


 そう言って、敵の魔法障壁を撃ち破る為のアンチマジック処理を施した剣を抜き放つ。


「イチロー、正気か!?」


 ロアンが俺に発言に目を剥いて声をあげる。


「あぁ、正気だ、ここらで一発反撃を加えておかないと、こちらがジリ貧になる!」


「じゃが、攻撃するのなら、わしの方が良いのでは?」


 砲弾を両断している実績のあるノブツナ爺さんがそう申し出てくる。


「いや、シールドを張っている間はロアンは動けないし、その後の砲弾を処理するので、爺さんもすぐには行動しずらい、その間、役目がない俺が突進して敵の足元を掬ってやろと思う。爺さんはその後、来るであろう光線を避ける為に、ロアンを抱えて回避に専念してもらえないか?」


 ロアンはあの強力なオメガシールドを展開中は展開に背一杯で、回避行動を取ることが出来ない。だから、散弾を撃たれた時は、ロアンがシールドを展開し、ノブツナ爺さんが砲弾を切り伏せ、そしてその後に飛んでくる光線を避ける為に、俺がロアンを抱えて回避行動を取るパターンをしていた。


 だが、今回の俺の作戦は最初の散弾をロアンのシールドで防いだ時点で、俺がシールドから飛び出して、敵を攻撃しようというのだ。もちろん、敵が違う行動を取って来た時には、この作戦は破綻するし、ノブツナ爺さんの負担も増える。


 なので、ノブツナ爺さんが承認するかだ。


「分かった、ロアンはわしが抱えて回避しよう、イチロー、お前は自分の思うように攻撃してみろ、正しあまり無理をせぬように… あのマサムネたちすら手に負えなかった敵だからのぅ…」


「イチロー!! 来るぞ!!!」


 ロアンの言葉を合図に、俺達は作戦を開始する!



「ワタクシ…オマエタチ…ハイジョ…」



 敵は俺達に腕を伸ばして散弾を発射する。



「オメガシールドッ!!!」



 ロアンが予定通りにシールド魔法を展開して散弾を防ぐ!


 俺は次に砲弾が撃ち込まれている隙に突進する為、獲物を狙う肉食獣の様に身を屈めて力を蓄える。



「心肺機能強化!! 筋力強化!!! そして! 筋力機能アシストオンッ!!! さらに筋肉強化ぁ!!!!」



 ノブツナ爺さんやロアンが隠し玉を持っていたように俺にも隠し玉がある。二人の様に自らの技を極めたものではないが、ディートが骨メイドを肉メイドに改造する時に開発した筋組織を使った、外部筋力強化装置である。


 この外部筋力強化装置は鎧の下にスキューバーダイビングに使うスウェットスーツの様に着込んで、必要な時に魔力を流して起動するのだ。


 単体で使ってもそこまでの効果は得られないが、この装置の起動と、自身の筋肉、そしてこの装置自体にも筋肉強化の魔法を使う事で、数倍の筋力を得られることが出来る。



 バシンッ!!!!



 散弾がロアンのシールドに衝突する!


 突進の合図だ!俺は屈んで溜め込んだ力をギリギリまで縮めたバネのように解放して、弾丸のように突進する!!!


 目指すは敵の足元! 足首でも切り落としてやれば、敵は姿勢を崩して倒れ込む筈だ!


 俺は散弾の威力がロアンのシールドで相殺されるとの同時にシールドの内側から飛び出て、敵の足元に飛び込もうとする。



「アサハカ…」



 敵はそう呟いたかと思うと、砲弾の方ではなく、再び散弾を撃ち出そうとする!



「コイツ!!! この為にワンパターンな攻撃を仕掛けていたのかっ!!!」


「イチローッ!!!」


 

 ロアンは再びシールド魔法を展開するが、既に俺はシールド魔法の外側に出ていた。このままでは敵の散弾をモロに喰らってしまう!!!



「ならば、加速!! 超加速ゥ!!!」



 俺は加速魔法を使い、散弾の射程の内側へ一気に駆けこもうとする。



 チッ!!!



 散弾の一片が耳を掠めるだけで、俺は敵の足元に飛び込むことに成功する!!



「ヨッシャァァァァァ! 行くぜぇぇぇぇ!!!!」



 俺は全身全霊の一撃を叩きこむ為、体を捩って剣を背中側まで振りかぶる。


 いくら俺の全身全霊の一撃でも、巨大化して分厚くなった装甲を切り裂くのは難しい…だから、狙う場所はただ一つ! 昔からこういった敵は装甲で覆う事の出来ない関節部分が弱いと相場が決まっている!!!


 狙いは敵の足首!!



「ウォォォォォォォォォォォ!!!!!」



 俺は背中まで振りかぶった剣を渦巻きバネを解放するように、敵の足首目掛けて叩きつける!!!



 ガギィィィィィィン!!!!



 俺は肉を切り裂く感触や音と違う事に驚愕する!



「なっ!!」



 そのまま、振り抜いて力づくで強引に切り裂く事も考えたが、そうはせずに、敵の足首の表面をなぞるように剣を流して、敵の足元を駆け抜ける。


 そして、敵から少し離れた場所で、振り返る。



「くっそ!! 関節部分まで、蛇腹装甲をつけているのかよ…」



 俺は改めて敵の理不尽な強さに苛立ちを覚えた。



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