第352話 足止め役


 ズシンッ!! ズシンッ!!



 アイダとニノミヤだったものが降ってきた方角から、この駐屯地まで届く地響きのような足音が響いてくる。そちらに視線を向けると、黒煙の中に前回ここの駐屯地に現れた魔族人など比較にならない大きさの人影が揺らいで見える。



「改めて言う! 予定変更だ! ぼっさんの車にはアルファーが乗って、俺は足止めをする!! 皆はすぐに出発しろぉぉぉぉ!!!」



 俺は怒鳴り声で、皆を駆り立てるように言い放つ。するとその突然の予定変更に驚いたシュリが、御者台から馬車の荷台に上がった所で、俺に声を掛けてくる。



「あるじ様よっ!! 予定変更とはどういう事のなのじゃっ!?」


「俺がもたもたしていた責で、足止めしていたアイダとニノミヤがやられちまった!! 責任を取って俺が足止めをするっ!! お前たちは早くいけっ!!!」


 俺は再び怒鳴り声を上げて、皆の出発を促し、剣の柄に手を掛けて、黒煙の中から姿を現しつつある敵に向き直る。


 そして、陽炎の様に揺らぐ黒煙の中から、敵がその姿を現し始める。前回遭遇したエイリアンの様な体の造形であるが、体の大きさに関しては、ロボットアニメに出てくるような大きさがあり、両腕にはかなり長めの流線型の装甲が付いている。そして前回のものと一番異なるところが、木が邪魔になって全体像を見る事は出来ないが、何だか鉄球の様な鯨の様なものに、その巨大な上半身がついているのである。


 どの様な形状にしろ、ここまで巨大な敵である。一見してもはや、通常の人間には太刀打ちできない存在だ。


「くっそ! マサムネたちはいつもこんな奴を相手にしていたのか!? いや…今回だけ特別以上だから、マサムネもアイダもニノミヤもやられたのか…」


 消息の分からないヤマダとトマリさんも、アイツにやられたのであろう… 俺はそんな特別勇者が束になって相手にできない敵を相手に足止めをしなければならないのか!? 俺史上、ここまで自信の持てない状況は無かった…


 そんな敵がどう動くのか、また俺はどう対処するのか、刹那の時間で思考を巡らせていると、敵が長い流線形の装甲のある腕を上げて、腕をこちらに伸ばし始める。



「ちょっ!! うそだろ!?」



 俺は驚きのあまり声を上げる。なぜなら、敵の伸ばした腕の装甲の先端には発射孔の穴が空いていたからである。あの無駄に長い流線型の装甲は、ただのデザインなどではなく、発射装置のカバーであったのだ!



 人間相手に、戦車砲みたいなのを持ち出しやがって! おとな気ねぇ!!!



 そう考えて対処しようとした瞬間、発射孔から閃光が放たれる!!



「任せよっ!!」



 その刹那、俺の隣を人影が駆け抜ける。



 ギィィィィンッ!!!



 ほんの僅か、瞬きもない瞬間であるが、金属で何かを切り裂く金属音が響き、次の瞬間には俺の後ろで、出発していた部隊を挟むような二か所で何かが着弾した轟音が響き渡る。



 俺は見ていた。俺の隣を疾風か稲妻のように駆け抜け、迫りくる電信柱のような砲弾をまるで大根でも切るかのように一刀両断したノブツナ爺さんの姿を…



「ここはわしも残らねばならないようじゃのぅ…」



 あんな巨大で且つ高速な砲弾を、一刀のもとに切り離したノブツナ爺さんが、敵に刀を受けたまま、俺に背中で語る。



「ノブツナ爺さんっ! やっぱ実力隠していたのかよっ!!」


「ありまえじゃろ! 子供の喧嘩に本気を出す奴がおるかっ!」



 ノブツナ爺さんは背中で答える。


 すると、敵はもう片方の腕を上げて、こちらに手を伸ばす。



「また撃つつもりかよっ!!」


「ならば、再び切り伏せるのみっ!!」



 爺さんが威勢よく声をあげるが、次に敵が撃ち出したのは、先程の電柱のような砲弾ではなく、四方八方にばらまかれる散弾であった!


「くっ! これでは! 守りきれんっ!!」


 流石のノブツナ爺さんでも、自分に飛んでくる散弾は切り落とす事も可能だろうが、後方の脱出部隊に向けて飛ぶ散弾全部を切り落とすのは難しい!!!



「オメガシールドッ!!!!」



 そう思った矢先、誰かの声が響き渡り、放射状に迫りくる散弾全てが空中で弾き返されていく!!



「なんだ!? 無色透明であるシールド魔法が可視化できるほど強力に展開されているだと!?」



 散弾が弾き返された衝撃の後、そこには、半透明でシャボン玉の表面の様に虹色に滲むシールド魔法が展開されていた。



「ま、間に合った…」


 

 その声に後ろを振りかえって見てみると、腕を伸ばし、肩で息をしながら、シールド魔法を展開するロアンの姿があった。



「おまっ! ロアン! これ、お前一人で展開しているのか!?」


「あぁ、タンク職の僕がソロ活動することになったからね… これぐらいの事をしないと一人ではやっていけないよ…」



 ロアンはそう言ってシールドを展開しながら、俺とノブツナ爺さんの所まで歩いてくる。



「イチロー、君一人では足止めの荷が重そうだからね、僕も足止めの役目をさせてもらうよ」



 そう言って、ロアンはにっと笑ってサムズアップを送ってくる。



「すまねぇな…ロアン、そしてノブツナ爺さん…そんな役回りをさせちまってよ…」



 俯き加減で、二人に聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた後、俺は頭を上げて脱出部隊に向き直り、再び声を上げる。



「俺達三人が足止めしている間に、お前らはさっさと出発しろ!!! おら! カズオ!! さっさと馬を走らせんか!!!」


「へ、へい!! 旦那ぁ! 御武運を!!」



 俺が最後にカズオに向かって声を上げると、何か言いたげに口を開いたシュリとカローラを無視して、馬に手綱を撃って馬車を走らせ始める。



「ワタクシ…ニガサナイ…」



 奇妙な声に振り返ると、魔族の巨人が不気味な声で言葉を発し、再び両手を上げて次の発射準備に取り掛かる。



「マジかよ! コイツ喋るのか!?」



 ノブツナ爺さんとロアンもすぐに迎撃とシールド展開の準備に入る。俺は射線をずらす為、試しに魔力弾を撃ち込んでみるが、敵の本体に届く前に、魔力シールドで弾かれて消滅する。しかしながら、注意をこちらに引けたようで、敵は俺達に顔を向けて見てくる。



「コウイウノ…ナンテイッタカ… ソウ…ウットウシィ… オマエタチカラショリスル…」



 敵はそう言うと、腕をこちらに向けて、歩き出してきた…・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る