第351話 撤退指示
「ぼっさん! ぼっさんは車の運転できるんだろ?」
「あぁ、勿論だ!」
ぼっさんは俺の言葉に即座に答える。
「じゃあ、ぼっさんは車でここからの撤退準備を始めてくれ! コンテナハウスは破棄するしかないと思うが… 問題ないか? 持ち出さなきゃならない物があるなら、運び出すのに人手を割くぞ」
「いや、ここに持ってきているものは基本的に破棄しても良い物ばかりだ」
コンテナハウスを運んでくれと言われなくて、俺は胸を撫で降ろす。
「かと言って、残しておいてこの世界の人間が手に入れても困る物もあるだろ? そこはどうするんだ?」
「その辺りは大丈夫だ… 自爆装置が取り付けてある…何もかも木っ端みじんになってリサイクルすることなんて不可能になるよ…」
恐らく準備はしているだろうなと思っていたら、やはり、自爆装置を取り付けていたか…他にもコンテナハウスの中には泥棒対策なんかもしていたんだろうな…
「分かった、爆破のタイミングはぼっさんに任せていいか? 人手はいるか?」
「大丈夫! 誘拐された時の事や、殺された時の事も考えて自動操作や遠隔操作を出来るようにしているからね」
「そうか、ならぼっさんに任せていて大丈夫だな」
セコムもアルソックも吃驚のセキュリティー体制だな。そして、こんどは、皆の方向に振り返って、こんどはこの駐屯地に居候をしていた勇者達に向き直る。
「みんなも、すぐにこの駐屯地を引き払う準備を始めろ!」
「ちょっと、待ってくれ! キャンプ道具の後片付けに時間が掛かりそうなんだっ!」
勇者の一人が手を上げて意見してくる。
「最初にたっぷりと契約金を貰っているんだから、納得できるだろ? ってかしろ! だから、ここに設置したものは諦めろ!!」
俺とその勇者のやり取りに、何か言いたそうにしていたシュリが押し黙る。お前も言い出そうとしていたのかよ…
そんな所に、ぼっさんがこの異世界で再現した車を走らせて来る。そのままの再現ではあまりにも目立ちすぎるので、一応、この世界の馬車に似せているが車輪ではなく、ゴムタイヤの様な物を使っているので走破性は良さそうだ。
「うわぁ!! なんだ!その馬車!! 馬が無いのに走っているぞ!!!」
一応、この世界の馬車には似せているものの馬の無い馬車が走るところを見て、自動車の存在など知らないこの世界の連中が、ぼっさんの乗る自動車に驚きの声を上げる。
「イチロー君! 僕の方の準備は終わったよ! いつでも出られるぞ!!」
ぼっさんの言葉に頷いて答え、すぐに皆に向き直って声を上げる。
「分かった! ぼっさん! じゃあ、遠距離射撃が得意なデュドネのチームが一番先頭を走ってくれ!! 前方から敵が出てきたら接敵する前に撃ち殺してくれ!」
「分かった! 仲間の恩人のボタさんに、指一本たりとも触れなせない!! 任せてくれ!!」
デュドネが長弓を握り締め、力強く頷く。
「その後に、ぼっさんの車、その車を守るために後ろにはハワードのチーム! 横からの接敵に注意してくれ!」
「分かった!! 俺の双剣に任せてくれ!!」
狂犬と呼ばれるハワードも、需要人物の護衛を指せておけば、猪突猛進することも無いだろう。
「キング・イチロー様! では、我々は一番最後につけばよろしいのですか?」
アルファーが尋ねてくる。
「あぁ、殿は俺たちの馬車を走らせる! カローラは前の馬車から落ちたやつがいれば、あの手で拾い上げてくれ! 決して握りつぶすなよ!」
「は、はい、わかりました…」
カローラは浮かない顔で答える。
「アルファーは部隊全体を見て、手助けが必要な箇所があれば、飛んで補助してやってくれ!」
「了解です! キング・イチロー様! このアルファーにお任せください!」
アルファーはいつもと変わらないキリっとした表情で答える。
「シュリ! お前は後方から敵の追手が来た時は、ブレスや最悪ドラゴンになって足止めして欲しい… 一番つらい任務になるが頼めるか?」
「わらわがあるじ様の頼みを断れるわけがないであろう」
シュリは嫌な仕事を押し付けられたという感じではなく、ふんと鼻を鳴らして、自信気に答える。
「そうか、済まないなシュリ、 ポチ! もしシュリが敵の足止めをして置いてきぼりになりそうな時は、フェンリル状態になって回収しにいってもらえるか!?」
「わぅ! まかせて! いちろーちゃま! ポチ!なかまは見捨てないっ!」
ポチは元気よく答えると、ポンとフェンリル状態に戻る。
「して、あるじ様はどうするつもりなのじゃ?わらわたちと同じ馬車で戦うのか?」
「いや、俺とロアン、ノブツナ爺さんはぼっさんの車に乗り込んで、部隊が全滅したとしても、ぼっさんを対魔族連合の所へ連れていく役目だ…」
シュリ達に危険な殿をさせておいて、自分たちはこの隊列で比較的一番安全なぼっさんの車に同乗するのは心苦しい所もあるが、何しろこのメンバーの中で、ぼっさんに万が一の事があった時、代わりに車の運転が出来る事や、現代知識で作った道具を扱えそうなのは俺しかいない。それに運転を代わった時に、俺は戦えなくなるので、ロアンやノブツナ爺さんの様な戦力もいる。
そういった判断から、この体勢を考えた。
「…わかった… 部隊の全滅など、そうはならんようにわらわたちも努力する!」
シュリは俺になんらかの事情がある事を察したような顔をして答える。いい女だ。城に帰ったら、また何か買ってやろう…
「じゃあ!! みんな!! すぐに出発するぞ!!」
俺が声を上げると、皆は無言でコクリと頷いて、すぐさま所定の馬車に乗り込み出発の準備を始める。
ドゴォォォォォォォンッ!!!!!!!
ドゴォォォォォォォンッ!!!!!!!
その時、アイダとニノミヤの足止めで戦っている方角から、二本の火柱と共に轟音が鳴り響く。
すげぇ、戦闘だな…アイダ、ニノミヤ…足止めを頼んだぞ…
俺は心の中でそう思いながら、ぼっさんの車の方へ駆けだそうとする。
ヒュルルルルルルゥゥゥゥ…
ドサッ!
ボチャッ!
すると、火柱の方角から、何やら破片が飛んできて、この駐屯地に落下する。
「ここまで、戦火が…ヤベェ! 早く撤退… !!!!!!!」
俺が車に乗り込もうとした時に、何気なく落ちてきた破片に目を向けると信じられないものが目に飛び込む!
「予定変更だ… ぼっさんの車にはアルファーが乗り込んでくれ!」
「よろしいですが、何故ですか? キング・イチロー様」
不思議に思ったアルファーが俺に振り返る。だか、俺はアルファーに振り返らず、落ちてきた破片を見つめていた。
そこには、首だけになったアイダと、胴体だけになったニノミヤの死体があったからだった。
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