第349話 災害レベルの緊急事態

 ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ!!!!!



 俺は立ち上る巨大な火柱と噴煙をただ呆然と見上げる。



 ドッゴォォォォォン!!!!



 そして、再び別な場所で同様の火柱と黒煙が立ち上る。そして、その周辺に弾丸のような閃光が飛び交うのが見える。その二本目の火柱で突然の自然災害でも見るように唖然としていた俺も、これは自然災害ではなく、何らかの人為的な災害であると気が付き、意識を取り戻す。


「ちょっとこれ!! マサムネたちが戦っている結果だというのか!? ヤバすぎるだろっ!」


 この地獄の世紀末の様な状況に、俺だけが声を上げるのではなく、この駐屯地の警護を務める他の勇者連中も警戒しはじめる。そんな中、コンテナハウスの中から、ドタドタとけたたましい足音が鳴り響き、乱暴にその玄関扉が開かれて、血相を変えたぼっさんが姿を現す。



「ぼっさん!!」


「い、一体何事なんだい!? さっきの音は!? って、なんだ!! ありゃ!!」



 玄関から声を上げて出てきたぼっさんは、辺りを赤く照らす火柱に、すぐに気が付いて、大きく目を見開き、驚きの声を上げる。



「ぼっさんがそんな風に言うって事は、あれはマサムネたちの武器のせいじゃないのかよ!?」



 俺は火柱を指差しながらぼっさんに尋ねる。



「あぁ!! 当然だよ!! うちにはあんな火山の噴火の様な火柱をあげる武器なんて存在しないよっ!」


「ってことは、アレは敵の攻撃によるの物なのか!? 自然災害レベルの威力だぞ!? マサムネたちは今までもあんな敵を相手に戦っていたのか!?」


 俺が詰め寄り気味に尋ねると、ぼっさんは悲壮な顔をしながらプルプルと顔を横に振る。


「あんな自然災害レベルの火力を持った敵と戦ったって報告なんて今まで聞いた事がないよっ! きっと、魔族人が現れたように、新型の敵が現れたんだよっ!」


「新型って…おいおいおいっ! いくらなんでも程度ってもんがあるだろう!!」



 いくらマサムネたちに効率よく倒されているからといって、この火力を見る限り、今までの対人戦の試合に、戦車や戦艦を持ち込むぐらいの大人げのなさだろっ! 程度ってもんがあるだろっ!


 そんな事を考えながら、想定していた以上の大規模な現状に、どう行動すれば良いか判断のつかない状況の所に、その戦火の方角の山間に、何かを背負ってこちらに掛けてくる人影を見つける。



「なんだ?あれは…ってか、誰なんだ!?」



 この駐屯地の仲間で入ってきた人影は、マサムネたちと同じパワードスーツを身に着けているが、マサムネの様に長身でマッチョな体格に、長髪を後ろでくくった今まで見た事のない人物である。



「ニノミヤ君!!」



 ぼっさんがその人物に向けて名前を呼ぶ。ぼっさんに名前を呼ばれた男は、俺達の所に一直線で掛けてくる。



「マサムネがやられた!!」



 その男は走りながらそう叫び、俺達の前に駆けつける。



「えっ!? マサムネが!?」



 その男の言葉に、男が背負うものの正体を見極めると、それは死人のように蒼白な顔をしたマサムネであった。



「マサムネ君は死んでしまったのか!?」



 ぼっさんが悲壮な顔でニノミヤと呼ばれた男に尋ねる。



「いや、分らん、俺が助けた時はまだ息はあった…」



 ぼっさんがその存在を知っていて、マサムネたちと共に戦っていたという事は、このニノミヤという男は、他の特別勇者のメンバーではなく、マサムネたちと同じメンバーなのであろう。俺達を警戒してか、その存在を隠していたのか…


 マサムネが完全には俺達の事を信用していなかった事にショックではあるが、今はそんな事を気にしている場合ではない、それよりも他のメンバーの姿が見えない事が心配であった。



「それで他の連中はどうしたんだよっ!?」



 俺の言葉に、ニノミヤはギョロリと俺に視線を向ける。



「お前がイチローという男か、マサムネ経由で届けてもらったラーメンなどの食事は美味かったぞ」



 二食分用意してくれと言われていたのはこの事かよ…



「今は飯の事はいい! 他のメンバーは!」


「あぁ、そうだな、最初の一撃でマサムネがやられた時は、ヤマダとトマリは慌てていたものの姿はあった。だが、二撃目以降は姿を見てない」



 ニノミヤは同僚の安否の事だというのに淡々と言ってのける。



「じゃあ敵はどうしてるんだい!? もう倒してしまったのか!?」



 ぼっさんは二人の安否を不安に思いながらも、敵や前線の事を尋ねる。



「いや、倒してない、今はアイダが一人で対応している所だ。俺が戻って参戦しないとアイダも持たん」



 そう言って、ニノミヤは背中に背負っていたマサムネをバサリと降ろす。



「!!!!」



 俺とぼっさんはそのマサムネの姿に驚愕し言葉を失う。



「これから俺はアイダと共に、敵の殲滅に奮戦するが、実際の所、どう転ぶか分らん… だから、ボタさん、それとイチロー…」



 ニノミヤは険しい表情で俺とぼっさんを見る。



「最悪の場合を想定して、当初の任務通りに、この駐屯地からボタさんを連れて逃げ出して欲しい… 逃走時間はなんとか俺とアイダで稼ぐつもりだ…」



 ニノミヤはそう淡々と言ってのけて、腰に下げていた武器を構えるが、その表情は死を覚悟した者のものだ。



「分かった…任せてくれ!!!」



 俺は今も一人で戦い時間を稼いでいるアイダの為に、的確に短く答える。



「では、俺はアイダの元へ向かう!」



 ニノミヤはそう言うと、ふん!っと跳躍して、火柱や銃弾の飛び交う前線へと飛び立っていった。『行ってくる』ではなく『向かう』とニノミヤが言い残したのは、覚悟の現れなのであろう…


 そんなニノミヤの背中を呆然と眺めたい気分であるが、今は事態がひっ迫した状況である。すぐさま次の行動に移らなければならない!



「ぼっさん! コンテナハウスの中にあった医療ポッドみたいなのは、すぐに車に移動できるか!? それともコンテナハウスの中でなければ動かないのか!?」



 まだマサムネの息があるかどうかは確認していないが、直ちに医療ポッドに入れて治療しないと長くは無いだろう… だが、コンテナハウスごと医療ポッドを運ぶとなると、かなり大がかりな事になる。


 いくらアイダとニノミヤの二人が時間稼ぎをするとは言え、そこまでの時間を二人に要求するのは酷な話だ。コンテナハウスから移動できないとあれば、その時は非情な決断を下さなければならない…



「大丈夫だ!! ちゃんとスタンドアローンで動くように設計してある!!」



 ぼっさんの言葉に憂いていた気持ちが明るくなる。



「じゃあ、今すぐ車に運ぶぞ!」



 俺がぼっさんにそう答えてすぐさま実行しようとした時、微かな声が俺達二人に響く。



「…待て…」



 それは、蒼白な顔をして気を失っていると思われたマサムネの声であった。




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