第348話 今日のメニュー
シュリとカローラを使った実験から、色々と魔族人に対抗する手段を考えていたが、やはり、結論としては、マサムネたちが使っている方法と同じ、魔族人の装甲から切り出した武器を使って、魔力を載せた一撃を加えるしかないと結論した。
アンチマジック処理を施した武器の場合は、メンテも必要だし、戦闘中に効果が切れて再び再処理しなければならない時もあり、処理に使う魔法薬も、そんなに使うものではないので持ち合わせていないし、ほいほいと使える金額の物でもない。
そもそもアンチマジック処理を施したとしても、人力であの装甲を撃ち抜く一撃を加える事の出来る人間は勇者の中でも一部である。
というわけで、マサムネたちと同じ敵の装甲を使った武器が必要であるが… 問題は、その敵の装甲をどうやって手に入れるかである。
先日の魔族の遺体はマサムネたちが回収しているので、あのコンテナハウスの中にあるはずだが、くれと言ってもらえるものであろうか…
剣などに加工する量だけ貰えたら良いのだが、マサムネたちは弾丸として使っているので、正直な所、人に渡せるほど余裕が無いように思える。
先日の勧誘の件で、俺とは協力関係にはなったのだが、自分の弾薬分まで削って俺に供給することは出来ないだろうし、俺一人だけ貰っても戦力的には厳しいだろう。
また、弾丸なら兎に角、剣の様な武器として加工できるのかも問題だ。鍛冶仕事をすることが出来るノブツナ爺さんがここにいるとしても、加工にマサムネたちの技術が必須であるなら、マサムネたちに加工してもらわないとダメであるが、いくら協力関係の俺でも独占技術を渡すのは難色を示すかもしれない。
それでも、やはり敵の装甲から作り出した武器を手に入れなければ話にならないな…
俺はそう結論付けると、コンテナハウスの中にいるぼっさんに敵の装甲の一部でも分けてもらえないか事情を話してみようと立ち上がる。そんな時、食事の仕込みを始めようとするカズオから声を掛けられる。
「旦那ぁ!」
「なんだ?カズオ」
俺はコンテナハウスの方向からカズオに視線を変えて答える。
「今日の夕食のメニューは何にしやしょうかね?」
「なんでこんなことを俺に尋ねるんだ? 好きに作ればいいじゃないか」
「いや、前に旦那がマサムネさんたちの喜ぶ料理を中心に作って欲しいと仰っていたので、あっしにはマサムネさん達が喜ぶ料理はわかりやせんので…」
カズオは困った顔をして俺に答える。
「あぁ、そうだった、俺が言ったんだったな、すまんすまん… しかし、そうだな…ラーメンもカレーも、串カツもお好み焼きもやったよな… ピザみたいなのはこっちでも普通にくえるから… となる…アレになるか…」
「アレとは?」
嫌そうな顔をする俺に、カズオが少し首を傾げる。
「アレだよ…アレ…かつ丼…」
「あぁ、かつ丼でやすかっ! でも、それが何か問題でも?」
カズオが反対側に首を傾げる。
「いや…かつ丼って事にすると、俺もマリスティーヌ教の信者みたいになるかと思ってな… ちょっと避けてたんだよ…」
「あぁ、なるほど… 城での魔獣の後片付けの時でも、信者の皆さんが魔獣の肉を使ってカツを作る練習をしてましたからね… 確かに美味いでやすが、あんなに脂っこいものをよく毎日三食、食べてやしたね…」
「見てるだけで、胸やけしそうだったよな… 米がそんなにねぇからカツを主食状態でくっていたからな…」
カズオのいう通り、本当に腐るほどある魔獣の肉を使って領民たちが狂ったようにカツを作り続けて貪り食う姿に、俺は得も言われぬ狂気を感じていたのだ…
「では、かつ丼は止めて、なにか他のメニューにしやすか?」
その言葉に今度は俺が少し首を傾げるように捻って考え出す。
「そういえば、今日の休みのローテーションはマサムネだったよな…」
「へぃ…たしかトマリさんがそんな事を仰ってましたね、それが何か?」
「いやマサムネが前にかつ丼を食いたいって言ってたからな… そろそろいい加減にかつ丼も食わせてやらないといけないかな…と思って」
今まで、マサムネにはカツカレーやらカツカレーラーメンを食わせてやったが、マサムネが熱望するかつ丼そのものはまだ食わせてなかった。どうもかつ丼には色々と日本での思い出があるらしい…
「それで…どうしやす?」
カズオは俺の顔を伺うように尋ねてくる。
「今日はマサムネの為にかつ丼を作ってやるかっ!! よくよく考えたら、ここでかつ丼を作っても、流石にここでマリスティーヌ教徒とは思われないだろ」
逆にいたらビビるけど…
「分かりやしたッ! 旦那ぁ、あっしは早速ご飯を炊きやすねっ!」
そういってカズオは腕まくりをして、ガッツポーズを取る。
「すまねぇがカズオに任せるわ、俺はちょっとぼっさんに話があるから、ちょっとコンテナハウスに行ってくる」
最近はマサムネたちに食わせる日本の食べ物なので、俺が料理に加わって細かい味付けを行っていたので、今回は一緒に料理しない事をカズオに告げる。
「へい! 任せてくだせい、アルファーさんもいやすので、あっしらだけで大丈夫でやすよ」
「ちゃんと三つ葉は忘れるなよっ! アレがあるとないとでは風味がかわっちまうからなっ!」
「へ、へい、分かりやした、しかし、旦那もマリスティーヌ嬢みたくこだわりますね…」
カズオは苦笑いで答える。
「頼むからかつ丼の事で、マリスティーヌの名前を出すな… じゃあ、行ってくるぞ」
そう言い残すと、俺はカズオに背を向けて、ぼっさんのいるコンテナハウスに向けて足を進め始める。
最終的に、俺に素材を渡すか否か決断は、ここの特別勇者のリーダーであるマサムネの指示を仰がなければならないと思うが、『将を射んとする者はまず馬を射よ』という諺がある通り、ぼっさんにマサムネたちがいない場所での俺達が魔族人に対処するための対策を持つ重要性を伝えて説得して根回ししておけば、実際にマサムネを説き伏せる時の味方になってくれるだろう。
今回作るかつ丼も、警察が犯人に自白させるときのように効果的に働くはずだ。
そんな事を考えながら歩き続けるとコンテナハウスの前まで辿り着く。
さてと…気合を入れてぼっさんを口説き落とすか…
そう考えて、扉を手の甲でノックする。
ドッゴォォォォォン!!!!!
「え!?」
扉を叩くコンコンという音ではなく、突然、腹に響くような轟音が鳴り響いた。
すぐに俺は轟音の方角に視線を向ける。
「な…なんだよ…ありゃ…」
視線の方角には、噴火の様に見上げるぐらい高い火柱と噴煙が舞い上がっていた。
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