第347話 対魔人族実験

 マサムネから聖剣の話を聞いて、それをロアンに詳細を聞き出して、聖剣が使えないものとわかってから、数日経った。その間、俺は何とか自力で魔族人に対抗する手段が無いか摸索していた。


「シュリ、カローラ、もっとシールド魔法の周波数を色々ランダムに変えてくれるか?」


「いや、イチロー様、そう仰いますけど、これ結構難しいですよ…」


「魔法の強度を増すなら簡単じゃが、周波数を変えるってのはややこしいのぅ~」


 俺と標的の間には、シュリとカローラが人一人分離れて向かい合って座り、その間にシールド魔法を展開している。


 俺は指先にいつも使っている牽制用のパチンコ玉のような鉄球に魔法を纏わせながら、標的に狙いを定めて撃ち出す。



 ビシュンッ!



 撃ち出した鉄球はシュリとカローラの展開するシールド魔法にぶつかり、干渉音を立ててシールド魔法の展開している所にポタリと落ちる。


「うむ、やっぱり、ただ威力を増す魔法を掛けるだけでは、周波数を変調しているシールド魔法を貫通することはできないか… やはりシールド魔法を無効化する処理が必要だな…」


 俺はそう独り言を漏らすと、アンチマジックの処理を施した鉄球を取り出し、先程の様に魔法で撃ち出す事は出来ないので、そこらの枝とパンツのゴムで即席で作ったスリングショットで鉄球を撃ち出す。



 ピッ!



 鉄球はシールド魔法との小さな干渉音を立てて、二人の作り出すシールド魔法を貫通して、その向こう側にある標的に命中する。



 カンッ!


 パシッ!



「あいたっ!」


 軽い音を立てて標的である鉄板にぶつかった鉄球はそのまま弾き返されて、シュリの肩に命中する。


「あっ! シュリ、大丈夫か?」


 俺は鉄球の当たった肩を押さえるシュリの元へと駆け寄る。


「大丈夫じゃ、あるじ様、ちょっと赤くなった程度じゃ」


 そう言って、蜂に刺されたように赤くなった命中箇所を俺に見せる。


「うーん… まだまだ威力が弱いな…」


「はぁ!?」


 うっかり漏らした俺の言葉に、シュリは目を見開いて声を上げる。


「いやいや、お前の怪我の事じゃない、あんな鉄板を撃ち抜けないようでは、先日の魔族の装甲を撃ち抜く事は出来ないなって話だっ、シュリ、お前には悪いことをしたと思っているよ、ほら、いたいのいたいの♪ 遠くのお山にどんだけ~♪」


 そう弁明しながら、機嫌を損ないそうなシュリを宥めていく。


「…なるほど、そう言う事か…なら、事前に安全対策はとって欲しかったのぅ」


 とりあえず、シュリはそう零しながらも機嫌を損なう事は無かったようだ。


「イチロー様、そういう事でしたら、そんなおもちゃの様な物ではなく、ちゃんとした弓を使った方がいいんじゃないですか?」


「そうだな、実際、前回の戦闘でも、デュドネの弓で装甲部分ではないが、関節部分を撃ち抜いていたからな…」


 カローラの提案に基づき、前回の戦闘を踏まえて、現在可能な魔族人に対する対策を考える。


 敵の魔法障壁を貫通する為にアンチマジック処理をしたものであれば、その魔法障壁を貫通することが出来るが、その向こう側にある強靭な装甲を、魔法的な補助なしで貫通しなければならない。


 デュドネの長弓や、火薬で打ち出す銃であればその装甲を撃ち抜く事も出来るかもしれないが、腕の力だけで振るう近接武器ではあの装甲を貫通するのは難しいだろう…


 実際、ハワードの斬撃や、ルドルフォヴナの戦槌も…ん?


 そう言えば、ルドルフォヴナの一撃は装甲で受け止めるのではなく、手で受け止めていたな… 手で受け止められたからと言って、装甲を貫通することは出来ないと考えるのは間違いかも知れないな…


 例えば、ノブツナ爺さんは無刀取りで相手の刃を手で受け止める事ができるが、それは体で刃受けても大丈夫だという事にはならない… そう考えると、ルドルフォヴナの一撃ぐらいの威力があれば、アイツの装甲を貫通することが出来るかも?


 うーん、ルドルフォヴナが受け止めやすい戦槌ではなく、刃がついて手で受け止めにくい戦斧を使っていればワンチャンあったかも知れない訳か…



 しかし、考えれば考えるほど、マサムネたちの使っているやり方の方が理にかなっているといえるな。敵を倒すという目的は同じであるが、そのアプローチの方法が、アンチマジック処理を使って人力だけで敵の装甲突破を考える俺のやり方と、敵の魔法障壁に干渉しない敵の装甲から作り出した弾丸を、魔法補助を掛けて装甲を撃ち抜く。


 どう考えても、後者のマサムネたちのやり方の方が、威力も取り回しも良いな…


 となると…こちらも敵の装甲を使って剣などの武器を作れば、近接戦闘でも敵を倒せるかも知れないな… まぁ、あの酸攻撃は注意しないと当たりどころが悪ければ、一撃でお陀仏だけど、反撃する手段が無いよりかはマシだ。



「あるじ様よ、何を考え込んでおるんじゃ?」


 一人無言で考え込んでいた俺の顔をシュリが覗き込んでくる。


「いや、アイツに対抗するいい方法が無いか考えていたんだ」


「それで、この奇妙な実験はつづけるのか? 続けるのであれば、また弾が跳ね返ってこぬように、何か対策をしてもらいたいのじゃが…」


 シュリはそう言いながら、弾が当たった個所に、塗り薬をつけている。それって虫刺されの薬じゃなかったか? まぁ、ハッカ油が入っているから、スースーして痛みは引くと思うが…


「そうだな、このまま実験していたら、また跳弾して危ないからな… 今回は肩だったから良かったものの目だったら大変な事になっていたしな…」


「そんな恐ろしい状況じゃったのか… カローラであれば目が潰れても再生出来るかもしれんが、わらわの場合は失明するところじゃったのか…」


「いや、私でも、弾が目から脳まで突き抜けて、脳内に留まったら、目の再生どころじゃなくなって、廃人になってたかも知れないわね」


「ひぃ!」


 ただでさえ、目に当たって失明するところを想像してビビっているシュリに、カローラが最悪の事態を話しかけるので、シュリはブルブルと震えだして、実験の中止を懇願するように見上げてくる。


「あ、あるじ様…実験をつづけるのか?」


「心配するな…続けねぇよ… お前たちが失明したり廃人になるのは嫌だからな…それに別の方法も思いついたし…」


 二人ともまだ頂いてないのに廃人になられたら困るからな…俺は人形を抱く趣味はない…でも、ミリーズがいるから城に帰れば治療はできるかな? どうだろ、今度ミリーズにきいてみるか…


 そういうわけで、第一回目の実験は中止になったのだった…




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