第346話 聖剣の真実

「イチロー、それは本気で聞いているのか?」


 ロアンは、『えっ!?お前、なんでそんな常識的な事を知らないの? バカなの死ぬの!?』って感じの顔をしながら、逆に俺に尋ねてくる。


「えっ!? え!? なに? えっ!? 一般常識として聖剣の事を知らないと恥ずかしいとか、そう言ったレベルの事なのか!?」


 俺は雰囲気をずっと『ふいんき』と読むと思っていたぐらいの恥ずかしい状況だと思って、戸惑いながらロアンに尋ねる。


「いや、一般人が常識として知っているものではないが、イチローなら知ってて当然の話だと思うが… 本当に知らないのか?」


 ロアンは俺が知らない事を本当に心配そうに聞いてくる。


「いや…本当に知らないんだ… もしかして、以前のロアンのパーティーにいた時に見に行ったとかそんな話か!?」


 俺は聖剣について知らない事の恥を忍びながら、ロアンの問いに答える。


「いや、そんな観光旅行のような事はしていないさ、で、聖剣についてだが…教会が管理保管していることを君は知らないのか?」


「えっ!? 教会!?」


 ゲームで出てくるような秘境や特殊な場所ではなく、ごく一般的に使われている教会という言葉に驚く。


「あぁ、そうだ、聖剣は昔より教会組織が管理保管しているんだよ。ミリーズが側にいるのに聖剣の話を聞いた事がないのか?」


 確かに教会が認定する聖女のミリーズが側にいるのなら、俺が知っていても当然の内容だよな…


 しかし、俺はミリーズと真面目な聖剣の話などせずに、


『くっ!! 俺の股間の聖剣が暴走しようとしている… はっ早く聖女という鞘に納めて、この暴走を鎮めないとっ!』


って感じのプレイをやった事しかなかった… これ、ロアンに話したら、また怒られそうだな…


「すまない… 領地に置く教会の設置やその運営の話はしたことはあったが、聖剣の話まではしたことがなかったな…」


 実際の所、教会云々の話もマグナブリルやマリスティーヌに任せて触りしかしておらず、ミリーズとはエロ話とか、カローラの蔵書のドロドロした人間関係の奴の話とかそんなのばっかだったな…


「ふむ…なるほど、僕自身もミリーズから聖剣の話を聞いたのはイチローが加入する前の話だし、その後のイチローも色々と忙しかったようだから、仕方のない事だな… よし、とりあえず今ここでは僕の知る限りの聖剣の話をしてあげるよ、ちゃんとした話はミリーズの所に戻ったら本人から聞くんだぞ?」


 ロアンは久々にリーダーらしい事を出来る為か、フフンと鼻を鳴らして、腕を組む。


「あぁ、頼む」


「わしも話を聞かせてもらえるか?」


 一緒にいたノブツナ爺さんも俺に意味ありげな笑みを浮べてから、ロアンに説明を頼む。…ノブツナ爺さんのあの意味ありげな笑み… 爺さんは俺と似たような趣味を持っているから、ミリーズと何をしていたのか分かっている様な感じがする…


「ノブツナ様もですか…僕もミリーズから聞いた話の受け売りなので、聞き間違えやうろ覚えの所があるかもしれないのでご了承ください」


 俺だけではなく、自分よりかなり年上のノブツナ爺さんまで話を聞くという事なので、ロアンはささやかなイキリ態度を改めて、姿勢を正して話し始める。


「聖剣の始まりは凡そ300年前の第七期魔王の時だと言われています」


「なんじゃ、魔王の存在が出てきたのは今に始まった話ではないのか?」


「はい、魔王は定期的に誕生して人類とその生存を掛けて戦っています、ちなみに前回の第八期が150年ほどまえで、今は第九期の魔王と呼ばれています」


 ノブツナ爺さんが魔王について初歩的な事から尋ねる。元々ファンタジー作品があった時代の人間ではないし、こちらに来てからも剣の修行に明け暮れていて、そんな話、戦国大名の騒乱程度の思っていたかもしれんな。


「そうか、では話をつづけてくれ」


 ノブツナ爺さんはうんと頷いた後、ロアンに話を続けるように促す。


「はい、ノブツナ様、そしてその第七期の魔王の時代は、長く平穏な時代が続いていた為、魔族と戦う術が衰退し、人類は魔族との戦いに大いに苦しめられました」


「敵の強さまで同じなのかは分らんが、今の俺達の様に対抗する手段が無くて困っていたのか」


「そうだね、イチローのいう通り、対抗手段がなくてかなり苦労したそうだよ、なんでも平和な時代が続いたため、数多くの戦闘魔法が喪失していたそうだ」


 魔法の補助なしで魔族と戦うなんて、自殺行為にも等しいな…俺の領地に出現した魔獣一匹ですら、魔法なしで倒すのには困難するだろう。


「そんな状況でも果敢に戦う勇者がいたのだが、ある日、魔族との戦闘で大怪我を負い、教会に運び込まれるんだ。その勇者の現状を憂いた、その時代の聖女と等しい存在が、天に祈りを捧げて神を降臨させ、自らの体と引き換えに聖剣を作り出したのが始まりなんだよ」


「乙女の体と引き換えに生み出された聖剣か…」


「なるほど…その勇者は聖女の聖剣で魔王を倒した訳だろ? それからずっと教会が管理して魔王が現れる度に勇者にその聖剣を託して魔族と対抗してきたんじゃないのか? なんで現在ではそうしないんだ?」


 勇者と聖女と聖剣の話はファンタジー王道の良い話であるが、現代において『魔王現れる時、聖剣を携えた勇者もまた現れる』とかそんな逸話が広まってないのが気になった。


「うん…確かにイチローのいう通り、第七期魔王の時はその聖剣を持った勇者が魔王をたおしたんだけど…その後の第八期の魔王の時が問題なんだ…」


「問題? もしかして、聖剣を悪用する奴が出て来たとかそんなのか?」


「いや…そういうことだったら、その勇者を罷免すれば良いだけの話なんだけど…」


 ロアンは苦虫が奥歯に詰まって噛みつぶしたような顔をし始める。


「じゃあ何なんだ?」


「…イチローはその聖剣がただの聖なる力を持った剣ではなく、剣自ら意思を持った剣であることは知っているか?」


「あぁ、知っている、マサムネから聞いた」


「ほぅ、その様な奇怪な剣があるのか」


 ロアンは俺とノブツナ爺さんの言葉に、コクリと頷いて、少し覚悟を決めたような顔つきで話の続きを語り出す。


「その聖剣は… 最初の勇者以外の者が自分の使用者となる事を拒み続けているんだよ… どうも、その身を捧げた聖女が一途と言うか…なんていうか…」


「面倒な女じゃな」


 ノブツナ爺さんがロアンが濁そうとしていた言葉を包み隠さずズバリと言ってのける。


「えっと…あの…その…つまり何て言うか… そう言う事があまりにも続き過ぎたので、誰もその聖剣を扱う事が出来ずに、人々から忘れられた存在になっているそうなんだよ…」


「…それ、人類の頼みの綱どころか、教会のお荷物になってんじゃねぇか…」


 俺の言葉にロアンは自分のせいでも無いのに気まずそうに顔を伏せる。


 ロアンの話から、どうも聖剣も望みが薄そうだと分かったのであった…



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