第343話 聖剣伝説

「えっ? あるのか!?」


 俺はマサムネの思わぬ発言に、少し素っ頓狂な声を上げる。まさか、この異世界の疑似術だけで、あのエイリアンみたいな魔族人に対するための手段があるとは思わなかったからだ。


「あぁ、だが、参考にもならんし、実際、使えるものでもないぞ?」


「いやいや、それは聞いてみないと分からないし、実際の所、もしマサムネたちが魔族を倒し終わったと考えて、元の世界に戻った後、生き残りが出て来るとかそんな事もあるだろ? なんらかの対抗手段は必要だろ」


 俺はマサムネに魔族人への対抗手段を聞き出そうと食い下がる。


「そうはならないように、全ての魔族人を駆逐していくつもりではあるが、この世界に生きるものにとっては、安心のする心の拠り所は確かに必要だな。でも、あまり期待するなよ」


 マサムネはそう前置きをして、この世界に存在する魔族人に対抗する為の手段を語り出す。


「人型の魔族人が現れる少し前にな、俺達が独占技術を公開しなかったり、技術移転しない事に業を煮やした対魔族連合から呼び出されてな、その時に、俺達の現代技術を使った武器を渡してもらえないのなら、この異世界にある武器を技術解明して量産してもらえないかと相談を受けたんだ」


「この世界にそんなものがあったのか? もしかして以前の転生者の遺産とかか? でも、そんなものがあったのなら、さっさと自分たちで使えばよかったのに…」


 対魔族連合の上層部の連中は、技術を独占したかったのか出し惜しみをしていたのか?


「いや、以前の転生者の遺産ではなく、純粋にこの異世界の産物だ。そして、使えない特殊な理由もあったんだよ」


「それが政治的な理由だったりしたら腹が立つな」


「いや、そう言った複雑な理由では…いや複雑かな? 何しろ、それは聖剣と呼ばれる代物で、使用者を選ぶものだったからだ」


「聖剣!? そんな中二心をくすぐるような物が存在したのかっ!」


 聖剣と言えばゲームや物語に出てくる憧れの存在!! 王者のトロの剣とか、エクスカリバーとか、男なら一度は握り締めたい物第一位の代物ではないかっ!!


「やっぱり、岩や台座に突き刺さって行って、選ばれし勇者にしか抜けないとかそんなのなのか?」


 前のめりになって鼻息を荒くして、聖剣の話を尋ねる。


「あぁ、確かにそんな感じではあったが…」


 聖剣の話にガッツリ前のめりに食いつく俺に、マサムネは引き気味に答える。


「でっ! どうだったんだ!? 引き抜けなかったのか!? でも、マサムネたちの技術があったら、掘削機とかつかって岩か台座かしらないが聖剣を引く抜く事はできるだろ?」


「いや、引き抜ける引き抜けないの問題ではなく…その聖剣は意思を持つ剣、インテリジェンスソードだったんだよ」


「なに!? インテリジェンスソード!? なおさら、カッコいいじゃん!! それでマサムネは引き抜く事ができたのか!?」


 聖剣ってだけでも中二心をくすぐるのに、それが知性を持つインテリジェンスソードとなると、中二心を鷲掴みだろっ!!



 なんかこう、必殺技とか放つ前に、


『Stand by Ready, set up.』


とか言い始めて、俺が


『セクリッドヘブンズ・ディバインバスター・フルバーストで行くぞ!』


と言ったら、


『Yes my master.A firing lock is canceled.All right load cartridge.』


って答えて射撃準備を始め、 多数の魔法陣が展開されて行き凝集されたエネルギーが発光し始める。そして、発射体制が整ったところで、


『Buster set.』


と返事が来たところで、俺が決めセリフの


『行くぜぇぇ!!!俺の全身全霊全力のぉぉぉ!セクリッドヘブンズ・ディバインバスタァァァー!フルバーストォォ!シュゥゥゥゥートッ!!』


を叫び、極太のビームが撃ち出され、敵は


『信じられない!!こんな力がぁぁぁ!!!』


とか叫びながら、蒸発していくわけだ。そして、聖剣が発射の排気熱を排出しながら、


『There is no life response with in the range.There is no dangerous object, either.』


とか言って、敵の消滅を報告してくる。そこで最後に俺が、


『任務完了を確認… また、つまらぬものを撃ってしまったな…』


と呟く訳だ…



 うぉぉぉぉ!! 想像するだけで、アドレナリンやら色々な脳内物質が耳から溢れだしそうだ!!



「え、えっと…なんだ…イチロー… お前はうちの息子と同じような事を言うんだな…」


 そんな俺に、マサムネが困惑した顔をしてくる。


 あ…また、俺の妄想が垂れ流しだったのか… ここは何かいって誤魔化さないと…


「お、おぅ…マサムネの息子とはいい酒が飲めそうだな…」


「いや、俺の息子はまだ未成年だ…」


 マサムネが苦笑いをする。


「う…じゃあ…いいコヒー牛乳だな…」


「すまん、うちの子はまだコヒーが飲めん幼稚園児だ、フルーツ牛乳で勘弁してやってくれ」


 マサムネが笑いを堪えて肩を震わせる。


 くっそ~ マジで妄想を垂れ流す癖を直さないといけないな… めっちゃ恥ずかしいじゃないかっ!!



「コホン…それで、聖剣を扱う事はできたのか?」


 俺はいきなり真顔になって、先程の事など無かったかのように尋ねる。


「そ、そうだな… 扱う事は出来なかったが、その力を見せてもらう事は出来たな…」


 マサムネは笑いを堪えて、半笑いになりながら答える。


「で、その聖剣の力はどうだったんだ?」


 それでも俺は真顔で尋ね続ける。


「流石は聖剣と言ったところだな、こちらが資料として持っていった魔族の装甲を空気でも切るように切り裂いたな、俺達が再現した魔族の張る魔法障壁も近づいただけで、無効化できるようだったし…」


「それは凄いじゃないか!! それで扱えなかったといったが、技術を解析して量産することは出来なかったのか?」


 マサムネは笑いを堪える為に、テーブルの下で自分の太ももをつねっている様だ。


「そうだな… あれは機構や理論解析して再現できるような技術ではなかったな… 正しく神秘に属する代物だった。俺は異世界にいるという事を思い出したよ」


「そこまで凄い代物だったのか… 惜しいな…」


「確かに強力な武器ではあるが、自らの使用者を選ぶところであるとか、また近接武器である事、そして、技術を解析して量産できないところから、俺達には不要という決断をしたんだ」


 確かに銃を使っての遠距離戦が主体のマサムネたちには無用の代物だな…それに一本しかないんじゃ、多方面で使用する事も出来ないしな…


「なるほど、そういうことだったのか…」


「あぁ、そうだ、期待させて済まなかったな」


 そう言って、マサムネはスッと立ち上がる。


「では、俺はひと眠りしてから交代にいかないといけないので、そろそろ眠って来るよ」


「そうか、睡眠時間を削ってすまなかったな」


 そうして、マサムネがコンテナハウスの中に入っていくと、中からマサムネの笑い声が響いてきた… くっそ、やっぱずっと堪えていたのかよ…


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