第341話 駐屯地でもお風呂
ラーメンの一件以来、今まで、顔を知っているだけの同級生で話しかけたりしないような距離感だった、俺とマサムネたちは、顔を合わせる度に何かと話し合うようになった。と言っても、ヤマダやぼっさんはラーメンの一見前からエロ本の事で仲良くなっていたので、今回の一件で距離を縮めたのは、マサムネ、トマリさん、アイダの三人だ。
アイダに関してはあの時、同席していなかったが、マサムネに頼まれて、任務中だったアイダの為に、二食分の天上天下一品のラーメン満腹セットを用意して渡してやると、無事にアイダに届いたようで、任務が終わってこの駐屯地に帰って来た時に、俺に90度頭を下げて礼を述べていった。
それからというと、駐屯地にいるぼっさんは毎日、他のメンバーはローテーションで任務が終わった時に、俺の所に飯を食いに来るようになった。
そこで、飯を食いに来るときに、マサムネたちに話しかけるようになったのだが、実際に色々と話して見ると、最初に陰キャだと思っていたぼっさんは、ただ俺達に関わらないように言われていた事を忠実に守っていただけで、話して見ると気の良いおっさんだった。
逆に会話する機会が増えたアイダの方は、こちらはガチの陰キャのようで、俺どころか、シュリやアルファーでも目を合わせようとせず、何か話しかけても『はい…』『いいえ…』以外の言葉が返ってこない。
先程も、シュリが料理を運んだついでに話しかけても、ひっそりと小さな声で、『近い近い…近づかないで欲しい…』と呟いていた。
いっちゃなんだが、シュリは顔も体もかなり上位の部類に入る女だ、まぁ、たっぱは低いが、そんな美少女でも人見知りして怖がるのはよっぽどの陰キャだろう。
だが、そんなアイダでも、臆することなく接する人物がいる。その一人がポチである。俺達にははいかいいえしか言わない、目も合わせないが、ポチに対しては目を合わせるどころか、笑顔で接し、色々と会話をしている。
最初はただロリコンなだけかと疑ったが、フェンリル状態になったポチでも仲良くしているので、人間ではなく動物なら大丈夫という事なのだろう。では、野生化しかかっているクリスではどうかというと、こちらはダメな様だ。クリスに対しては『陽の気が…』と漏らしていた。後、何故かロアンと話をしている…うーん…ロアンはそっち側に行ったのか…
まぁ、そう言う事で色々あった訳だが、今俺は、ゆっくりと風呂に入っている。というのも、魔族の襲撃で先送りにしていた仮説風呂場やカローラたちの仮説個室を設置した為である。
「うーん、やはり、日本人は風呂が無いとだめだなぁ~」
「イチローの居る時代では、どの家にも風呂があって毎日風呂に入ることができると聞いたが、良い時代になったものじゃのぅ~ わしの居った時代では、大名ぐらいにならんと毎日入るのは難しいのぅ」
「確かに、ノブツナ爺さんのいる時代では、薪を使って湯を沸かさないとダメだから、結構面倒だよな」
一緒に湯に浸かるノブツナ爺さんの言葉にそう答える。
「でも、イチロー君、本当に僕たちと一緒で良かったんですか? なんだか女の子たち、イチロー君と一緒に入りたそうな感じでしたけど…」
一緒に湯に浸かっているぼっさんが申し訳なさそうな顔をして聞いてくる。
「シュリやカローラたちの事か? その話なら大丈夫だ。ってか、あいつらと入っている所を他の連中に知られたら、折角、懐柔していったのに、妬まれたり恨まれたりするからな、アイツらも髪ぐらい自分で洗えるしな」
と言う訳で、俺はせっかく作った風呂をシュリやカローラ、アルファーと一緒には入らず、ノブツナ爺さんや、ぼっさんの男同士で入っている。
まぁ、女の出汁を吸収することは出来ないが、ビアンやロレンスと一緒に入るのとは異なり、貞操の危機を心配することなく、安心してゆったりと湯に浸かれることはいい事だ。
「あぁ、なるほど、いつも髪の毛を洗ってあげてたんですね」
ぼっさんはそう言いながら、安心したように湯船の淵に体を預けてゆったりとする。どうも、俺があのロリっ子たちに手を出していたと思われていた節があるな… まぁ、アルファーには手を出しているけど…
何故、俺がノブツナ爺さんやぼっさんと一緒に風呂を入っているかと言うと、ここでの初風呂という事で、俺が一番風呂に入る事になったのだが、先程の理由でシュリ達の女生徒は一緒に入る事は出来ないが、一人で入るのも味気ないので、ノブツナ爺さんやぼっさんを誘った訳である。ちなみにロアンも誘ってみたが、巡回の後で入ると言われて断られた。
そして、俺達が入った後に、シュリ達が入る事になっていて、その後に、他の連中が入る順番になっている。何故、シュリ達の後に他の連中なのかというと、女の残り湯という事で、金がとれるからだ。
中には少数のただ風呂に入りたい人間もいるが、殆どがシュリ、カローラ、アルファー…ポチもいるかも知れんが、誰か一人、もしくは全員を推しているので、その残り湯となれば、文句を言う所か、喜んで金まで払って入る訳である。
ちなみに、シュリ達には、風呂に入った後、ちゃんと排水溝の髪の毛は完全に除去するように伝えてある。また、カズオとクリスには申し訳ないが、余計なエレメントを混入して欲しくないとの連中の希望なので、後回しになっている。
クリス…お前はカズオと同類に思われているぞ…
「ふぅ…やっぱ風呂上りはコヒー牛乳だな~」
風呂から上がった俺は風呂上がりの定番のコヒー牛乳を飲んでまったりとする。
「いや~ コヒー牛乳も懐かしいですね!!」
風呂も久々だが、コヒー牛乳も久しぶりのぼっさんが、嬉しそうに声を上げる。
「ふむ、酒も良いが、この牛の乳もなかなか良いのぅ」
ノブツナ爺さんも美味そうにコヒー牛乳を飲む。
「キング・イチロー様、上がりました」
そんな三人が待ったりしている所に、湯上りのアルファーが声を掛けてくる。
「あれ? もう上がったのか?」
城にいる時はもっとゆっくりと使っているはずなのに、雀の行水の様な時間で、アルファー達が風呂から上がってくる。
「いや、もっとゆっくりと入っていたいのじゃが、カズオやクリスもおるしのぅ…」
「それに、あの行列を見ると…」
そう言って、シュリとカローラが視線を誘導する。
その先には、長蛇の列を成した風呂の順番待ちがあった。
「あんな風に待たれたら、ゆっくり入れませんよ… 髪を乾かす時間が無いぐらい…」
そう言って、カローラが、まだ湿り気のある髪先を摘まんで見せる。
「そ、そうか…すまんかったな… じゃあ、髪を拭いてやるからこっちにこい」
「はーい」
カローラは俺の膝の上に背中を向けてチョコンと座り、俺はその髪の毛を拭いてやる。
「じゃあ、わらわはポチの髪を拭いてやるかのぅ」
「では、私はシュリ様の髪を拭きますね」
シュリがポチの髪を拭き、そのシュリの髪をアルファーが拭くという微笑ましい光景が生み出される。…ポチをシュリに取られたか…まぁ、仕方ないな…
俺はカローラの髪の毛を拭きながら、長蛇の列に顔を向ける。
「じゃあ、次はお前たち、入っていいぞ! 四人づつな!」
金額によって入る順番を決めても良さそうであったが、そこまでぼると後で恨まれそうなので、やめておいたが、連中は連中で順番を決めあったようだ。
「よっしゃ!! ようやくだっ!」
先頭の四人は鼻息を荒くして、仮設風呂場へと入っていく。
「先ずは排水溝を調べろ!!! そこにあるはずだ!!」
「おぅ! 絶対に手に入れてやる!!」
「俺は浴槽を調べる!」
「白、黒、銀! 絶対にこの三色の毛を見逃すな!!」
中から最初の四人の声が響く。
「…最初にイチロー様が何を仰っているのか意味が分からなかったですが…こういう事だったんですね…」
俺に髪を拭かれているカローラが気持ち悪そうな顔をしてポツリと呟く。
「だろ? しかし、ここまで俺の予想通りだとは思わなかったが… 指示しといて正解だったわ…」
俺も苦笑いをして答える。
その後、悔しそうな顔して最初の四人が風呂場から出てくると、次々と目を血走らせた連中が風呂へと入っていく。我そこは必ずや目的の代物を見つけてやるとでも思っているのであろうか…
そんな所にローテーションで帰って来たマサムネが、異様な光景を見て目を丸くする。
「イチロー、一体、これはなんなんだ?」
「あぁ、風呂を作ったから、皆、順番で入っているんだよ」
事情を尋ねてきたマサムネにそう答える。
「次から次へと、俺の思いつかないような事をしでかすな…」
そう言って、苦笑いをする。
「でも、マサムネも風呂入りたいだろ? 入って行けよ」
「いいのか?」
やはり、マサムネも日本人だけあって風呂に惹かれる様だ。
「あぁ、この様に並んでいるから今すぐってのは無理だけど、最後でいいなら入って行けよ」
「では、お言葉に甘えさせてもらおうか」
そうして、マサムネも列の最後に並び出す。そして、一番最後に、マサムネが風呂場に入ってしばらく経つと、中からマサムネの声が響く。
「なんだ! これは! イチロー! ちょっと来てくれ!」
「一体どうしたんだよ?」
珍しくマサムネが騒ぐので、俺は急いで風呂場に入ると、浴槽の前で全裸で佇むマサムネの姿があった。
「…イチロー… 湯船の中に湯が無いんだが…」
そこには湯が空っぽになった湯船があった。
アイツら…髪の毛が見つからないから、残り湯を持って帰ったのか…
俺もそこまでは想定してなかったわ…
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