第339話 勧誘

 俺はマサムネの力強く当てがあるとの発言に、そこまで確信的に断言するとは思わず、目を丸くする。


「マジかよ!? そこまで断言するのかよ!?」


 俺が驚きながらそう返すと、マサムネはフッと小さく笑う。


「あぁ、ここにはいないが、俺達の仲間の中には天文学に詳しい人間がいる」


「天文学!?」


 次元を超える話だと思っていたので、物理学者や素粒子学者が出て来るなら分かるが天文学者が出て来て俺は更に驚く。


「俺も詳しい事は分からないが、その天文学者が言うには、意外と近くに…いや、身近にあると言って良いと言っていた」



 しかし、帰るべき元の世界の話で、天文学者が出てくるとは…しかも意外と近いどころか、身近にあるって… 


 でも、天文学者のいう事だからな…天文学的単位で見れば近くって意味だろうか… となると身近にあると言うのは…今、俺がいるこの異世界の星が属している恒星系って意味か?


 いや、それだとおかしい…一応、俺が現代にいた頃には、太陽系で生命の存在する星なんて発見されていなかった… もしかして、NASAが情報隠蔽していて、実は火星や金星あたりが、この異世界がある惑星ともいうのか?


 もしくは、現代科学では存在を否定されている太陽を挟んで地球と反対側にある惑星、反地球と呼ばれるクラリオンやヤハウェが存在しているって事なのか!?


「おいおい! 身近にあるって… 俺としては話して貰えて嬉しいが、マサムネ、そこまで話していいのかよ?」


 スラスラと重要な情報を話すマサムネに、聞いているこちらが逆に心配になってくる。


「あぁ、構わないよ、イチロー、お前にはそれぐらいの事を話していいと思えるだけの恩義を、俺は感じているんだよ…」


「いや、ラーメン満腹セットでそんなに恩義を感じなくてもいいよ、いくらでも作れるものだし、ってか、マサムネ… 恩義に応えるというのは人としての良い美徳がだ、応えすぎるのはどうかと思うぞ?」


 俺がラーメンを食って気分を良くし過ぎたマサムネを心配して、そう告げるとそのマサムネはフッと小さく笑い、俺の事を一番警戒していたトマリさんは俺からの忠告で、困り顔をしながら苦笑いをする。


「俺はそんなお人好しではないさ…それには別の理由があるからだ…」


「別の理由?」


 マサムネの顔から笑みが消え、真剣な眼差しで俺を直視する。


「イチロー… 俺達の仲間になれ! そして、お前も特別勇者になろう!!」


 マサムネは前のめりに俺に詰め寄って精力的に勧誘し始める。


「イチロー! 俺達の仲間に成れば、俺達と同じ装備を渡すことが出来る!」


「同じ装備って…そのパワードスーツと銃器の事か?」


 チラリとマサムネの着ているパワードスーツを見る。


「そうだ! このスーツは、直接血管に酸素や養分を供給するから、フルマラソンをしても疲れることはない! それに武器の銃器は、イチローならその有用性が分かるだろ?」


「直接血管に酸素って… それでヤマダがノブツナ爺さんと戦っていた時に、 道理で呼吸が読めなかった訳か、ノブツナ爺さんが苦戦していたのも頷けるわ… あの反応速度もスーツに寄るものなのか?」


 ヤマダとノブツナ爺さんが模擬戦を行ったあの時の事や、その後のノブツナ爺さんの話を思い出しながら、マサムネに尋ねる。


「いや、反応速度に関しては、俺達は神経細胞や筋繊維を強化する処置を行っているのでその為だ」


「おいおい、人体改造まで手を出していたのかよ…大丈夫なのか?」


「あぁ、普通に日常生活も出来るし、外見に変化が出る事もない、そもそも、このパワードスーツ前提の強化だからな、特に困る様な事はない」


 なるほど、身体的にも装備的にも、この異世界ではあり得ないほど強化していたのか、そんな奴相手にノブツナ爺さんも押される程度で良く済ませたな。


「身体やそのパワードスーツだけではなく、いつも使っている銃も、普通に現代の物を再現したのではないんだろ?」


「そこも気が付いていたのか? 流石だなイチロー」


 マサムネは一瞬目を丸くするが、すぐに小さくフッと笑う。


「いや、初回にトマリさんからショットガン喰らった時に、密かに掛けていたシールド魔法を何もないかのように貫通してきたし、先日のエイリアンみたいな魔族の襲撃の時も、あの魔族が持つ特殊なシールド魔法を貫通して、尚且つ、あの硬い装甲を打ち抜いて、問題なく倒していたからな」


「なるほど、そこまで見抜いていたか… あの弾丸はその魔族の装甲から作り出した物なんだ、どうも、敵の魔法は一定の強度の攻撃は弾くように設定されているが、自分の組織は弾かないように設定されているので、そこを点いた攻撃なんだよ」


「えっ!? そうなのか!? では、専門の対魔族用の装備でなければ、アイツらと戦う事も出来ないんじゃねぇのか!?」


 そういうカラクリがあるのなら、最初に説明しておいてくれと思う。


「いや、攻撃力強化の魔法ではなく魔法の効果除去の処置をすれば、奴らのシールドを向こうかできるし、素であの装甲を貫通できるだけの攻撃力や、関節などの装甲の無い部分を攻撃すればダメージを通す事が出来る」


 そう言えば、デュドネの貫通矢はアイツの腕の関節に刺さってたな。


「それに、俺達はただの魔族だけではなく、魔王に対しての秘密兵器を準備している。その一つが…」


 マサムネは俺に顔を寄せて俺だけに聞こえる声の大きさで耳打ちをする。


「実は、……が秘密裏に……していると言われる、………を持っているんだ…」


「えぇぇ!? それ、本当にマジかよ!!! ヤバすぎるだろっ!!!」


 俺はマサムネに聞かされた内容に、滅茶苦茶驚き、驚愕の声を上げる。


「まだ、試作段階だし、一発しかないがな…」


「いや一発で十分だろ、そんなのが何発もあったらこの世界が崩壊するわっ!」


「確かに、我々もこの世界を崩壊させるつもりは無い、だが、魔王の居場所が分れば、一発で勝負を決める事が出来る… そして、魔王を倒した後は、全てのリソースを元の世界に戻る事に注いで行くつもりだ。なので、元の世界に戻る事はそんな遠い未来の話しては無い! だから…」


 再び、マサムネは真剣な面持ちで俺の顔を直視する。


「俺達の仲間となって特別勇者になり、一緒に元の世界に戻らないか?」


 

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