第338話 マサムネとの会話
「いや~ 美味かったなぁ~」
「そうだな、今まであのカリカリした食っていたからだとしても、この飯は俺の人生でも一、二を争う美味さだった…」
「こんな美味い料理を食えるのなら…俺もイチローのパーティーに入りたいなぁ~」
「おいっ! って… 実は俺もそう思うわ…」
俺達の造った天上天下一品ラーメン、満腹セットを食べ終わった連中が、満足感の余韻に浸りながら、思い思いの感想を述べていく。
パンッ!!
「御馳走様でした…」
そんな中、マサムネたち特別勇者達が、食前と同じように、真剣な態度で手を合わせ、食後の御馳走様をいう。
マサムネたち一行は、思わぬ日本食のラーメンに一心不乱に食べ続け、その食いっぷりの良さにお代わりを申し出ると、更にお代わりまでして食べつくした。
他の勇者たちの質素でまずい食生活での大食いとは異なり、転生したらずっと食べる事の出来なかった日本の料理に出会った事の大食いである。だから、自分たちの分を後回し手にする事を俺は全く厭わなかった。
そんなマサムネたちの前に俺は食後のアイスコヒーを差し出す。
「どうだった? 俺のラーメンは? なかなかの再現度だったろう?」
俺にアイスコヒーを差し出されたことで、今まで我を忘れてラーメンを食べていた事に気が付き、はっと我に帰ってはにかみながら俺に頭を下げる。
「…美味かった…」
「満足できたか?」
俺はそう言いながら、自分の分のアイスコヒーを持って、マサムネの前の席に腰を降ろす。
「あぁ! 大満足だ! 思い出補正を別にしても、完璧な再現度だったし、最高に美味かった!!」
マサムネは屈託のないさっぱりとした笑顔でそう答える。
「そうか、満足してもらえたのなら何よりだ、また何か作ってやるよ、しかしなんだ…」
俺は一口、アイスコヒーを啜ってからマサムネの視線を向ける。
「マサムネたち程の技術力とかあれば、日本食の再現なんて簡単だろ? なんで今まで再現してこなかったんだ?」
俺はここにあるコンテナハウスの中だけしか見てないが、現代技術と同等、いや異世界の魔法技術と組み合わせてそれ以上の物を作る技術を持っている。そんなマサムネたち特別勇者が俺でも再現できるような日本食を作れない訳がない。だから、何か理由があると考えた。
「そうだな…俺達はこの世界で生き抜く事、そして元の世界に戻る事に、全てのリソースを注いできて、日本食の再現の様な食生活の向上にリソースを割こうとはおもわ… いや、違うな…」
そこまで言いかけてマサムネは、少し考え込んでから、顔を上げて俺に向き直る。
「この異世界で食生活や、日常生活の向上をしてしまっては、この異世界に留まる事が心地よくなり、元の世界に戻るモチベーションが失われてしまうと感じていたからであろう…」
そして、再び空になったラーメンどんぶりに視線を落とす。
「だが、こうして再び日本食を食べた事により、以前よりも増して元の世界へと戻るモチベーションが高まった… イチロー、君のお陰だ!」
そう言ってマサムネは真摯な眼差しで直視する。
「そうか、最初の話を聞いた時は、俺のラーメンでモチベーションを下げてしまったらどうしようかと思っていたが、逆に上がったのならなによりだ。しかし…」
「どうした? イチロー?」
「いや、俺が他に会った転生者やその知人の転生者は、皆、現代に未練なんかない人物ばかりだったから、マサムネたちみたいに、現代に戻りたがる人間は珍しいなと思って… 俺はてっきり現代に対する未練の無さが転生要因だとおもってたからな」
俺はハニバルでハルヒさんと話した事を思い出しながら、そう話す。
「あぁ、現代への未練の話か…確かに俺も転生する前は、政治家たちの煮え切らない態度に辟易して、日本にいる事が嫌になっていたからな… でも…」
マサムネは少し俯く。
「現代日本に残してきた妻や子供の事を思うと… この異世界でのうのうと生き続ける事は出来ないと考えたんだ…」
そう言って、ぐぐっと拳を握り締める。
「私も、世界情勢のせいでいわれのない非難を浴びるようになったから、生きづらいと思っていたの… でもね、私を育ててくれった、祖父と祖母の事を思うとね…」
なんだかトマリさんにも複雑な事情があるようだ。
「僕も同じような感じだね、同僚がリストラされたり、理不尽なノルマを課されたりと…会社に居続ける事が辛くなってね… でも、一人残してきた母の事を思うと…」
ぼっさんのいた時代は丁度、そんな頃だったのか…パワハラが横行していた時代だからな…
「で、ヤマダはどうなんだ? お前はぶっちゃけABEXをリアルで出来るこの異世界の方がいいんじゃないのか?」
俺はそう言ってヤマダに目を向ける。
「いや、俺も最初はリアルABEXできる世界だから喜んでたよ、でもさ… ゲームはゲームだから楽しいんだと気が付いたんだよ、ゲームの内容が普段の日常になった時に、ねぇちゃんの事が恋しくなってさ…」
「お前、ねぇちゃんいたんだ」
俺は俯きながら、椅子をぎったんばったんと前後に揺らすヤマダに尋ねると、顔を上げて嬉しそうな表情で応え始める。
「あぁ! いるよ! めっちゃ可愛くて、俺の事が大好きで、俺も大好きな大切なねぇちゃん! 初給料で俺にプラレールを買ってくれたんだ!!」
「プラレールって…お前、いつの話だよ…」
ヤマダは見た目高校生ぐらいだが、やっぱり中身は中坊成りたてか、小学校高学年ぐらいじゃねぇのか?
「なるほど… 皆の元の世界に帰るモチベーションは分かった…でも、本当に帰れるのか? 当てはあるのか?」
四人の話を聞いた俺は、マサムネに向き直り、問題の本質を率直に尋ねる。
人が水の中を上手く泳ぎたいなら魚を研究すればいいし、空を飛びたいなら鳥を研究すれば、原理も分かるし効率化も出来る。だがしかし、次元を超えるとなると、参考できる生き物がいないので、全く一から研究をしなくてはならない。この異世界から現代日本に戻るという事はそう言う事だ。
さらに次元を超える方法を見つけたとしても、問題は戻るべき元の世界がどこにあるかだ。
俺達転生者は気がついたらこの異世界にいたので、どうやってこの異世界に辿り着いたのかその方法やその経路すら分からない。だから、元の世界がどこにあるのか見つけるのは、砂漠のど真ん中で、唯一正解の砂の一粒を見つけるのに等しい困難さだろう。
だから、元の世界に帰ると言っても簡単な事では無いはずだ。当然、マサムネの俺が思いつくような事は分かっているはずである。
俺の質問にマサムネは目を閉じて考え始める。
「マサムネ…」
そんなマサムネにトマリさんが、心配そうに声を掛ける。これは俺に話してしまうのかと心配しているのであろう。
「…いや、いい… イチローになら話そう…」
そう言って、マサムネは心配するトマリさんに目を向けず、瞳を開いて俺に向き直る。
「当ては…ある!!!」
マサムネはそう俺に力強く断言した。
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