第330話 臨戦態勢

「マジかっ!! じゃあ、俺達は最初に言われた通りに、ぼっさんを連れてここから逃げ出せばいいのか!?」


 俺はこの駐屯地に着いた時に説明された事を思い出し、ぼっさんに尋ねる。


「いや、今トマリちゃんがこちらに向かってきているそうだっ! 私はコンテナハウスの中にある避難壕の中に隠れているから、君たちは逃げ出してくれっ!!」


 ぼっさんがマサムネの説明とは全く正反対の事を言い出すので、俺は困惑する。


「いや、逃げろって言われても、俺達はマサムネからぼっさんを守って欲しいとか何かあった時は連れて逃げ出して欲しいって言われているし、そもそも、特別勇者のマサムネたちと比べれば見劣りするかもしれないが、俺達もそこそこ名の売れた勇者だぞ? これだけの数がいれば、俺を取らんよ」


 俺は脅えて混乱していると思われるぼっさんを安心させる為に、ちょっとうぬぼれ気味に答える。


「いや、数や個人の強さの問題じゃないんだよっ! 奴らは君たちが今まで戦っていた存在とは次元が違うんだよっ!! 分かってくれ!! 決して、君たちの事を侮っているじゃないんだっ! 逆に、君たちに死んでもらいたくないんだっ!!」


 ぼっさんの言葉やその必死さから、その言葉通り、ぼっさんが俺達の事を侮っているのではなく、真剣に心配していることが伝わってきて、真剣に事の重大さやヤバさを空気で感じはじめる。


「…ぼっさんがそれだけ言うってことは、マジヤバい奴なんだな… かと言って、俺達がはい分かりましたと言って、すぐにケツ捲って逃げ出せないのも理解してくれ… 取り合ず、ぼっさんは早くコンテナハウスでもなんでもいいから避難してくれっ! 俺達は、トマリさんが来るまでなんとか持たせるつもりだっ!」


 そう言いながら、俺は気を引き締めて戦闘準備を始める。


「わ、わかった…でも、気を付けるんだぞ!! 絶対に無茶しちゃいけないよっ!!!」


 俺達の事情も察したぼっさんは、険しい顔をしながら俺に一言残して、コンテナハウスに避難するために駆け出していく。しかし、ただのコンテナハウスにしか見えないが、避難豪まであるとは、なかなか謎の建物だな…


「イチロー…」


 ぼっさんが駆け出した後、話を聞いていたノブツナ爺さんが、険しい顔をして俺に声を掛けてくる。


「ノブツナ爺さんか、さっきの話は聞いていたか?」


「あぁ、勿論だとも…」


 ノブツナ爺さんは腰の刀をカチャリと持ち直して答える。


「僕も忘れないでくれ!イチロー! 僕は早速、皆に伝えて回ってくる! イチロー達は当初の指示通り、ボタさんの護衛に当たってくれないかっ!」


 馬車の近くで剣の素振りをしていたロアンもぼっさんの話を聞いて、リーダーらしく指示を飛ばしてくる。


「ロアン! 分かった!」


 俺とノブツナ爺さんはロアンの言葉に頷くとぼっさんのいるコンテナハウスに駆け出すし、その後ろにシュリやカローラ、フェンリル状態に戻ったポチが後に続く。そして、コンテナハウスを警護する為、全方位警戒する為、コンテナハウスを取り囲むように、配置につくが、そこで違和感の様な物を感じる。


「ん?」


「イチローも感じたか?」


 異変に気が付いた俺に、少し離れた場所で警戒するノブツナ爺さんが声を掛けてくる。


「あぁ、なんだかこのコンテナハウスを中心に妙なものが張り巡らされているな…」


 そう言って、コンテナハウスの方にゆっくりと慎重に手を伸ばすと、急に感電したような衝撃と共に、伸ばした手が弾き飛ばされる。


「っつ! 痛てっ!」


 俺は弾き飛ばされた手を見ると、赤くなって痺れているのが分かる。そんな俺の様子を見ていたノブツナ爺さんは、刀の鞘で同様に試して、コンテナハウスに何かが張り巡らされていることを確認する。


「何やら妙なものが張り巡らされておるな…」


「あぁ、コイツはよくあるシールド魔法と違って、見えない壁が張り巡らされるものではなく、反発する力場みたいなのが生成されているな… なるほど、コンテナハウスの中に避難豪があるといっていたけど、この力場の事か?」


 最初の時にトマリさんにショットガンを喰らわされた時に、弾がシールド魔法をすり抜けてきたが、自分たちはちゃんと対処する方法を持っているのか…


「ふむ、ともあれ、これだけ強力な結界を気付いているという事は、流れ弾の事まで心配せずとも良さそうじゃな」


「あぁ、流れ弾程度ではビクともしないだろうな、この力場を壊そうと思ったら、本腰入れて何かしないとダメだと思う」


 俺はそこまで気が回らなかったが、ノブツナ爺さんは流れ弾の事まで心配していたのかよ… ってか、流れ弾まで切り落とすつもりでいたのか? ハニバルでドローンの大軍の中をアルファーの所まで切り進んだ爺さんならやってのけそうではあるが…


「イチロー!! 皆に伝えて来たぞっ!!」


 そんな所へ、ロアンが他の勇者たちを引き連れてやってくる。


「おぅ! ようやく俺達の出番があるそうだなっ!」


 今まで散々暇を持て余していたラッシュレクレスリーの狂犬ハワードが自慢の双剣を抜き放ちながら、息まいてやってくる。


「俺達も、いよいよ、アルファーさんに魔族を倒す良い所を見せられるな…」


 復讐同盟の魔族キラーのデュドネと抜き身の刃レーヴィが武器を構えてニヤリと笑う。いや、そのアルファーも元魔族側なんだが… まぁ、いいか…


「それで、配置はどうする?」


 デュドネがギラリと目を光らせながら、ハワードに尋ねる。


「ぼっさんの護衛はイチローたちに任せるとして、俺達は迎撃の方だろ? ばらばらになって各個撃破されようって馬鹿はいないよな?」


「そんな馬鹿はいねーよ、かと言って、なかより冒険者ごっこする連中もいないよな?」


 流石は名の売れた勇者達だけあって、分散して各個撃破されるような作戦はとらないし、また、まったく練度のない連携を取ろうとせず、お互い自分の役割を果たしてその結果、連携するというやり方をするようだ。手慣れている。


「しかし、マサムネたちがいつもどちら側で魔族と戦っているのか分からないから、どちらを警戒すればいいのか分からないな…」


 ラッシュレクレスリーや復讐同盟とは違う、他の勇者メンバーの一人がポツリと呟く。


「何言ってんだよ! 思い込みや固定概念でやってたら、死角からやられるだろうがっ! 全方位に集中しろ!!」


 そんなメンバーに狂犬ハワードが声を上げる。



 ドシンッ!



 ハワードが声を上げた瞬間、駐屯地全体に張られている天幕を突き破って、何者かが、駐屯地の中央に着地する。


「流石に…上からとは思わねぇわ…」


 狂犬ハワードがポツリと呟いた。



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