第328話 イチロー被害者の会

「うわぁ!」


「うわぁ!」


 俺が最近、姿を見せるようになったぼっさんと、カードゲームをしていると、後ろの方から驚きの声が、二人の別々の人物から発せられる。何事かと思い振り返って見ると、久々にというか存在する事すら忘れかけていたクリスが馬車から出てきたところに、最近はポチと一緒に駐屯地内を巡回するロアンとが鉢合わせして、お互いに驚きの声を上げたようである。


「まだ別の人物が馬車に乗っていたのか!?」


「この人誰!? というかここはどこ?」


 クリスの存在を知らなかったロアンは、まだ馬車の中に知らない人物がいた事に驚き、クリスは、駐屯地に向かった事を忘れて、見知らぬ存在のロアンや見知らぬ場所の駐屯地に驚いている様だ。


「彼女もイチローさんのお仲間ですか? 他の女の子たちとは違って独特なファッションセンスをしてますね…」


 クリスの姿を見たぼっさんが、微妙な顔をして愛想笑いをする。それと言うのも、クリスがカズオから受けたおしゃれ講義の、オカマバーのオネェみたいな姿をしているからである。あんな衣装、どうやって用意したのかと思ったが、どうやらカズオから借りている様だ。

 普通に、メイド服でも着ればそこそこ可愛く見えるはずなのに、カズオの衣装をチョイスしている時点で、やはりクリスのセンスは壊滅的だな…


「えっと、君もイチローのパーティーメンバーなのかい?」


 驚いていたロアンは気を取り直して、クリスに声を掛ける。


「えっ? い、いや、そのパーティーメンバーというか、何て言うか… それよりも、あ、あの… あ、貴方は?」


 クリスは知らない人に話しかけられることに驚くというよりも、久々に受けるロアンの紳士的な対応に戸惑いながら尋ねる。


「あぁ、これはこれは自己紹介がまだでしたね、私は勇者のロアン・クラースと申します。アシヤ・イチローの知人で同じパーティーメンバーでした」


 そういって、俺が真似をした本家のキラキライケメン爽やかフェイスでクリスに微笑みかける。そんなロアンの紳士的、王子様的態度に、クリスは完全に忘れかけていた貴族作法を必死に思い出しながら対応する。


「わ、私はイアピース国、ティーナ様の元護衛騎士… 今は、アシヤ領…騎士団の団長のクリス…ロル・ゾンコミク…です」


「ぶっ」


 俺はクリスの言葉に吹き出す。


 クリスの奴…盛大に話を盛りやがった… 一応、俺はそのアシヤ領の領主なんだが、騎士団があることなんて初耳なんだが… しかも、そんな場末のオカマバーのオネエの様な姿をしてその団長だなんて… 俺が許しても、マグナブリルが絶対に許さないと思う… そもそも、門番長の肩書すらアイツが勝手に決めて勝手に名乗っているだけだからな…


「これはこれは、イアピースの騎士団長であらせられましたか、騎士団長として人類の安寧を護るために、一人この任務に参加されたのですね? 素晴らしい!」


「えぇ…騎士団長の責務として…いや、人として、あまねく世の人々の平穏を護るものは、当然の事です…」


 イケメン爽やかフェイスのロアンに褒められた事で気分を良くしたクリスは、嘘八百並べ立てながら、気取った顔をしてさも当然のような態度でそう返す。


 クリスの奴…調子やら図やら乗りに乗りまくって、その上で煽てられた豚の様に木に登りそうな勢いだな…


「私と同じ志を持つ方がいようとは、本当に貴方は素晴らしい方だ!! しかし… こうして会話を交わしていると、ただ同じ志を持つだけではなく、何か私と近しい物を感じるのは何故でしょう?」


「私もです… 私も貴方と言葉を交わしていると、とても赤の他人とは思えない、親近感と言うか、シンパシーに近い物を感じるのです…いったいこれは何でしょうか…」


 突然に電波系な口説き文句ような言葉を言い出したロアンもロアンだが、それを受け入れるというか、同調するクリスもクリスだな… しかし、他の俺の周りの女が口説かれている状況なら、腹立たしい状況であるが、クリスの場合は全くそのような事を感じない…


 それどころか、一向に嫁に行こうとしない娘が漸く、男を連れて来て巣立ちする瞬間を見守る時の親の様な清々しさすら感じるのは何故だろう…


 そんな所に、馬車の中で二人の会話を聞いていたカローラがひょっこりと顔を現す。


「二人とも、イチロー様に人生を狂わされた者同士ですから、共通する被害者意識みたいなので、シンパシーを感じているんじゃないですか?」



「「それだっ!!!」」


 

 ロアンとクリスの二人は示し合わせたように、二人同時に同じ言葉を上げて、俺を見る。



 「えっ!? 俺に火花が飛んできた!?」



 カローラの余計な一言で、突然、俺の方に向いてきた矛先に、俺は目を丸くする。


「確かに私自身のカリスマ性や指導力不足だったのは認めるが、イチローにパーティーメンバー全員を妊娠させられてパーティーが崩壊してしまった… しかも、パーティー全員が妊娠して辞めた事が、私がパーティーをブラック経営していたという、謝った噂が流れて、以降、一人で冒険することになってしまった…」


 ロアンの奴、説明会場では、もう怒ってないとか言っていたのに、やっぱり根に持ってんじゃねぇか… まぁ、タンク職一人にされたら恨まれても仕方が無いが…


「ロアンさんもそんな酷い事に…」


「クリスさんはこのイチローにどの様な事をされたのですか?」


 ロアンの身の上話に同情して顔を顰めるクリスに、今度はロアンがクリスの身の上話を尋ねる。


「私は、家宝の剣や、ティーナ姫からの恩賜の鎧をイチローに奪われ… その責で家を御取り潰しにさせれてイアピースを追われ、その私を僅かな糧でイチローの城の騎士団の重責を背負わされるようになったのです…」


「おまっ!!!」


 図々しい被害者面をするクリスの言動に俺は驚きと怒りの声を上げる。


「ロアンの事は、その…俺も少しは悪いと思っているが… クリスっ!! お前に関しては俺は悪くないだろっ!! そもそも、お前が勘違いして俺達を攻撃してきたのが悪いし、剣も鎧も返してやったろ!!」


 俺の突っ込みに、クリスの目が泳ぎ出す。


「しかも、俺が無理矢理、城で働かせているような事を言っているが、そもそも、帰る家がなくなったお前が、勝手に住み着いているだけで、自称門番長を名乗っているが、ろくに仕事もせず、狩りばっかりして、フィッツを連れて来た時は、お前の方から泣きついてやめさせないでくれと言って来たんだろっ!!」


 調子こいて嘘を並べ立てたロアンの前で、俺が真実を話す事により、クリスは蒼い顔をしながらダラダラと冷や汗を流し、マナーモードの携帯のようにブルブルと震えだす。


「ク、クリスさんっ!? どうされましたか? もしかして、イチローに何か弱みでも握られているから言い返せないのですか? それなら安心してください!! 僕は貴方の味方です! 貴方の事を信じますから! 同じイチロー被害者の会の仲間として!!」


「ロ、ロアンさん!!」


 そう言って、二人はガッチリと手を握り合う。


 くっそ… イチロー被害者の会って… 俺にも少し、罪悪感があるのでとっちめ難い…


 でも、城に帰ったらマグナブリルに告げ口してやるから…覚えてろ…


 

 こうして、ロアンとクリスの二人でイチロー被害者の会が結成されたのであった…   



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