第320話 読み合い

「ふむふむ、なるほど…」


 俺は読み終えた資料をテーブルの上に置く。


「イチローも読み終えたか」


 ノブツナ爺さんも資料を読み終えたようで、俺と同じように資料をテーブルの上に置く。


 ちなみにロアンは丁寧に資料を読んでいる様で、渡された資料の重要と思われる部分に、赤線を引いて、更には注釈までつけている。真面目な奴だ。


「ところで、イチローよ、資料を読んでどうおもう?」


「そうだな… チームを作れ、リーダーを決めろ、三交代制で監視してこの拠点を防衛しろ、飯は用意してあるから勝手に食ってろ… 後、喧嘩すんな、俺達の家の中には入るなって所までは読んだ」


 資料に書かれていた内容を掻い摘んで話す。


「そうじゃな、その通りだ。いかにも、上の連中から言われたから、お前たちの事を受け入れたが、邪魔せず勝手な事をするなとも言いたげな内容じゃったな」


 俺の説明も大概だったが、ノブツナ爺さんは更にオブラートに包まずぶっちゃけた内容で話す。そして、資料を読むことに興味の失せたノブツナ爺さんは自分の荷物袋の中から、重むろに本を取り出し、そのうちの一冊を俺に投げて渡す。


「なんだこの本は? って、これ! エロ本じゃねぇかっ!! しかも俺が買いそびれたやつ!? 何でいきなりエロ本なんて出すんだ?」


「こんな内容のない資料を読み続けても意味は無かろうて、そろよりかは、こちらを見ていた方が有意義じゃ」


 ノブツナ爺さんが俺に渡してきた本は、以前、ジュノーでノブツナ爺さんに先に買われて買えなかったエロ本である。驚いて顔を上げてノブツナ爺さんを見ると、爺さんは爺さんでその本の第二巻を見ている。…出ていたのか…この本の第二巻…


 俺はゴクリと唾を呑み込み、本を手に取って読み始める。


「ところでイチローよ、そなたが、あの妖艶なおなごより受けた攻撃は、そなたがいた時代の武器なのか?」


 ノブツナ爺さんはエロ本から目を離さずに尋ねてくる。


「あぁ、俺の時代にあったショットガンと言う名の飛び道具だ。しかもご丁寧な事に、弾丸に何か細工をしているらしく、俺の張っていたシールド魔法をすり抜けてきやがった」


 俺もノブツナ爺さんの様に本から目を離さずに答える… スレンダーな身体に、釣り鐘型の乳… どことなくハルヒに似た容姿… エロいな…


「やはり、そうであったか、あれは弾丸が一度にでる火縄銃のようなものか… わしが生きておった時代でもやっかいであったが、未来では更に厄介なものになっているとはのぅ…」


 ノブツナ爺さんはとてもエロ本を見ているとは思えない、真剣な真顔でページを捲る。


「ノブツナ爺さんの方はどうだったんだよ、あの近接の模擬戦、押されていたようだが…」


 ふむ… 田舎から出てきたおぼこい歌い手志望の女の子が、酒場のチャラいオーナーに酒場デビューをする為に面接を行ってもらう流れか… 腰に手を回しながら事務室に案内するのが実際にこんなことありそうで生々しいな…


「押されていたわしが言うのもなんじゃが、剣の技量についてはわしの方が遥かに上じゃ、というかあの男、全く剣の腕が無い、なのに反射神経というか反応速度だけで、わしを押してきよった… あれは人間どころか生物ではありえん動きじゃった」


「それは俺もよく見ていたから分かった。それ以外に何か感じた事はなかったのか?」


 面接前に媚薬の入った飲み物で、女の子を… くー! 俺もディートの知人でなければ、カーバルであの娘を頂いていたんだがな… 


「あったぞ、いや…無かったと言った方が正しいのか? 彼奴の…呼吸を感じる事が出来なんだ…」


「ん? それマジか?」


 俺は驚いて本から顔を上げ、ノブツナ爺さんを見る。しかし、ノブツナ爺さんは本から目を離さず、そのままの体勢で答える。


「あぁ、お主も呼吸というものが分かっておる様じゃな、剣に限らず武芸に於いては、攻撃する際に息を止めて攻撃する。なので、息の続く間、攻撃を続け、息を吸う時に攻撃がとまり、その時が弱点になる」


「俺も最初にノブツナ爺さんと対戦した時は呼吸を読んで避けようとしていたのに、やけに爺さんの息が長いから、避けきれなくなりそうだったんだよな…」


 俺はプリンクリンの部屋の前でノブツナ爺さんと対峙した時を思い出しながら答えて、再び本に目を落とす。 …なるほど、最初に一気にいかずに先ずは緊張を解す為のマッサージと称して身体を触るところから始めるのか…結構焦らすな…


「うむ、そなたの言う通り、普通は互いの呼吸を読み合って、戦いをくりひろげるものじゃが、しかしあの者の呼吸を読むことができず、あたかも呼吸など必要ない様な動きじゃった、あれは普通ではないぞ」


「呼吸の読めない相手と近接で戦うのって、かなり面倒というか厄介だな… スケルトンやガーゴイルも呼吸を読めないが、そもそも動きも遅いし、技量も低いからなんとかなるけど、あの超人的な動きでは厄介すぎる…」


 そして、チャラいオーナーは遂に女の子の肩ひもに手を掛け引き下ろす… でたぁぁ!! 乳!! しかも釣り鐘型! 乳首!! しかも薄いピンク! 


 わーい! 乳首! イチロー、乳首大好きっ!


 この作者、分かってんな!! やっぱり、最初からバーンと全裸で出されるより、じわりじわり脱がして拝む方が乳のありがたみを感じる!!


「それと、この駐屯地の在り方も奇妙な違和感を感じぬか?」


 ようやく乳を拝めて興奮していた俺は、ノブツナ爺さんに声を掛けられた事で、気を取り直して呼吸を整える。


「爺さんが思う奇妙な違和感とは?」


 乳の事で頭がいっぱいだったので、自分で考える事は止めてノブツナ爺さんに尋ねる。


「敵の襲撃を受けた時に、何をおいてもボタという人物を守れという事じゃ、それほどまでに重要な人物であれば、この様な危険な場所で作業させずに、どこか安全な場所で作業をさせれば良いであろう」


「確かに言われてみればそうだな… 弾丸などの補給がいるなら、安全な所で大量生産して、ここの駐屯地に送ればいいだけだし… 情報漏洩とか気を付けている割にはその辺りが抜けている様な気がするな」


 乳や乳首を弄ぶオーナーに、初めての感覚に喘ぐヒロイン… いきなりズバットやるよりかは、やはりこういう前戯が重要だよな… 


「いや、わしは逆だと考えておる… 恐らくは対魔族連合にも教えたくはない秘密があるではないかと… ボタという人物を対魔族連合の連中に篭絡されて漏れては困る情報があるのでは?」


「そうか… 確かに特別勇者たちが持っている装備の製造方法が流れたら、魔族ではなく人間同士の争いに発展しそうだな」


 つづく… くっそ! その気にさせといて第一巻はここまでなのかよ!! 


 俺はパタリと本を閉じて、ノブツナ爺さんを見る。そのノブツナ爺さんの手には俺が続きを読みたいエロ本の第二巻が握られていた。



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