第318話 俺達の役目
俺とノブツナ爺さんとの模擬戦の後、それでも納得しない、脳筋のラッシュレクレスリーの連中が全員でチャラ男やトマリさんと模擬戦を繰り広げたが、あっという間に、チャラ男に切り伏せられたり、俺と同様に真っ赤に染め上げられたりして、最後にはトマリさん一人に対してバーティー全員で挑んだりもしたが、結果は同じで漸く納得したようであった。
それを見ていた復讐同盟の連中は、元々人間相手に敵意が無い事と、見ているだけで実力差が分かったようで、戦意喪失して、模擬戦を行おうとはしなかった。
そうして、全員が特別勇者の指揮下に入る事を了承して、改めて契約魔法で指揮下に入る事や特別勇者に敵意を持たない事、そして情報漏洩を行わない事を取り交わす。なんだか、借金を返すためにタコ部屋に来たような気分である。
そして、入念な事に再び場所を移動して、当初の目的地である特別勇者の駐屯地に到着した訳である。
到着した駐屯地は、山間の窪地にあり、どんな方法を使っているか分からないが、駐屯地全体を天幕の様な物が覆っており、外からは擬態されていて普通の地形に見えるようになっているそうだ。
そんな駐屯地の中は、まだここに移って間もない様で、いくつかの天幕とコンテナハウスの様なものが設置されており、とりあえず最低限の生活設備しか整っていないような感じだ。しかしながら、ここでも異世界には場違いな存在である、現代の車に似た乗り物がある所をみると、ガチで現代技術を使って元の世界の物を再現している様だ。しかも、俺の所にあるゴーレムトラクターよりも洗練されている感じがする。
「さて、ここが我々の本拠地だ」
リーダーのマサムネが俺達に向き直り説明する。
「ここでの任務を説明する前に、改めて俺達の自己紹介を行う。俺がここの駐屯地の責任者であり、リーダーでもあるムラカミ・マサムネだ」
リーダーのマサムネは、アスリートの様に鍛え上げられた肉体に、黒髪の短髪、やたらいい姿勢をしている所を見ると… もしかして自衛隊の転生者なのか?
「次に、こちらの白髪が…本当にラオプティーアでいいのか? 呼びにくいだろ… 名字か名前のどちらかを名乗ったらどうだ?」
マサムネがちゃら男を紹介する前に、改めて確認を取る。
「名字は普通すぎるし、名前はもっと平凡だからイヤなんだよ… でも呼びにくいならラオでいいや」
「というわけで、こちらがラオだ」
マサムネの提案にチャラ男は妥協して呼び名をラオに決定する。しかし、普通の名字に平凡な名前って、あのチャラ男の本名はなんだろう? タナカ・タケシとかそんなのか?
「そして、こちらの女性がヴァダー・トマリだ」
「私がヴァダー・トマリよ、トマリって呼んで」
そう言ってトマリさんがニッコリと微笑む。しかし、彼女の名前ってどうなんだろ? ヴァダーは完全に外国語だけど、トマリは日本語だよな? だからハーフって事はわかるんだけど、どっちが名字でどっちが名前なんだ? トマリって名前が名字でも名前でも使えそうで検討がつかん。
「次に…」
マサムネがコンテナハウスに目を向けると、マサムネたちとは違って普通の作業着姿の40代ぐらいのおっちゃんが姿を現す。
「彼がボタ・サンジだ。俺達のバックアップをしてもらっている」
「ボタです。皆さんよろしくお願いします」
おっちゃんは少し頭頂部が寂しくなった頭を下げて一礼する。
「そして後で紹介する、周辺を警戒中のアイダ・カズトを合わせて五人がここのメンバーだ。君たちの任務はこの駐屯地の防衛をする事だ」
マサムネは俺達にそう告げる。すると、まるで衛兵の様な仕事内容に、やはり脳筋のラッシュレクレスリーの連中が不満の声を上げ始める。
「俺達は魔族と戦うためにここに来たんぞ! それをそこらのおっさんでも出来るような衛兵の仕事なんて出来るかよっ!」
その次に復讐同盟の連中が落ち着いた感じで質問する。
「私は逆に、貴方方の様な我々では手足も出ない強者の特別勇者がいるのに、弱者の我々の拠点防衛が必要なのか?」
二つの全く異なる声にリーダーのマサムネはフッと笑う。
「その二つの問いかけに同時に答えよう。先ず我々の戦い方であるが、特殊は方法で超遠距離から敵を暗殺する方法をとる。それこそ、相手がどこにいるのか見えないぐらいの距離からだ。なので、他の物では我々と一緒に戦闘行為をすることは出来ない。そして、もう一つの質問であるが、魔族の対処を行う時は、先頭を担当する私、ラオ、トマリ、アイダの四人で行動することになる。その時にこの拠点を守るものがいないので守って欲しいのだ」
そして、マサムネはボタのおっちゃんを見る。
「彼は特別勇者の一人であるが、後方支援専門で、我々の様な戦闘力はない。また、我々も彼がこの拠点で製造する補給物資無しでは戦いを継続することは出来ない。だからこそ、君たちにこの拠点の防衛をお願いしたいのだ」
そのマサムネの説明に俺達に守ってもらう事になるおっちゃんは申し訳なさそうに頭を下げる。
そのマサムネの言葉にまた別の勇者チームの一団が質問を投げかける。
「私たちはここに来る前に特別勇者が討たれたと説明を受けた。しかし、先程の模擬戦を見る限り、私たちの実力では、貴方たちの足元にも及ばない… そんな私たちにこの拠点を襲ってくる魔族を撃退することができるのか?」
「うむ、当然の質問だな… 我々も敵がこちらに流れていかないように処理していくつもりであるが、漏らしたとしても手に負えない数の時だけで、その時でも強敵の魔族はこちらで処理するつもりだ。その上でで、対処できない場合は、最優先で、ボタさんを保護して逃げ出して欲しい」
マサムネはおっちゃんの肩に手を置きながら説明し、おっちゃんはおっちゃんで、再びすみませんと申し訳なさそうに頭を下げる。
なるほど…マサムネたちの強さや、あの装備はあのおっちゃんあってのものなのか…
でも、何か違和感みたいなものを感じる…何だろう…
俺がそう考えていると再びマサムネが声を上げる。
「とりあえずは以上だ。詳しい決め事は後で資料を配る。先ずは、全員、これからここで暮らす野営の準備に取り掛かってくれ」
こうして、この拠点防衛の日々が始まったのであった。
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