第317話 エンジョイ勢とガチ勢
「勝負あったようだな、だがしかし、いきなりの飛び道具では納得いかない者もいる事だろう、なので近接戦でも我々の強さを見せたいと思う」
俺とお姉さんの勝負が付いた事を、長身の男が述べ、さらに近接戦での模擬戦を提案してくる。
「そこの侍の方、お相手願えますかな?」
「うむ、わしの事か、近接戦という事は刀での勝負でいいのじゃな?」
ノブツナ爺さんが、願ったり叶ったりというった顔をして進み出る。
「では、アイス…いや、ラオプティーアだったな、そのお侍さんの相手をしてもらえるか?」
「マサムネがやるんじゃなくて俺? いいよ、俺もウズウズしていた所だから」
チャラ男はそう言うとニヤリとしながら、スターウォーズに出てくるライトセーバーの様な剣を両手に出す。
「双方やる気だな…では、模擬戦始め!!」
開始の合図と同時に両者が一斉に相手に向かって飛び出し、剣戟を交え始める。
ノブツナ爺さんの剣はプリンクリンに洗脳されていた時のサイリウムの剣を使ったものしか見ていなかったが、正気のノブツナ爺さんの剣を腕を見るのは初めてだ。実際に爺さんの正気の剣を見てみると、マジで立ち筋が早すぎて目で追うのが精一杯だし、動作の起点のモーションが恐ろしく早くて、普通の人間…いや、普通の勇者レベルでは文字通り太刀打ちできないであろう。
だが、驚くべきことは、その爺さんの剣戟をなんら鍛錬を積み重ねていなそうなチャラ男が難なく受け止めているのである。しかも、爺さんが以前俺と戦った時の様な、相手の手を封じ込めるような、経験と神業で攻めているのに対して、チャラ男は、全く技量などはなく、ただの圧倒的な反射神経だけで対応しているのである。
嘘だろ!? 爺さんの技も人間の到達できるレベルのものではなかったが、あのチャラ男の反射神経はそもそも人間どころか、生物の反射神経とは思えねぇ!!
「爺さん、中々やるな、俺もギアアップしていくかっ!!」
チャラ男がそう言うと、チャラの反応速度が上がっていき、先程までノブツナ爺さんが攻めて、チャラ男が受け流す構図から、徐々に爺さんがチャラ男に攻められる構図に切り替わっていく。
「マジかよ…あの剣聖ノブツナ爺さんが剣で押されるなんて…」
他の勇者の連中も二人のとても人間技とは思えない、激しい剣戟を見て、唖然とした声を漏らす。
「止め! そこまででいいだろう!」
長身の男が模擬戦終了を告げる。
「えぇぇ! マサムネ~ 俺はまだギアアップを二回残してんだぜ!!」
爺さんから距離をとったチャラ男は長身の男の言葉に不満の声を上げる。
「模擬戦の目的は勝つことじゃなくて、俺達の実力を知ってもらう事だ。模擬戦に力を使い過ぎて後の仕事が出来なくなっては困る」
「っち仕方ねぇなぁ~ マサムネの指示に従うよ」
長身の男に説明されたチャラ男は納得して、ライトセーバーの様な剣を納め、鼻歌交じりに長身の男の元へと歩いていく。そんな余裕のチャラ男とは対照的に、ノブツナ爺さんは模擬戦が終わると、ふぅと大きく息を継ぎ、吹き出してくる汗を拭い始める。
「ノブツナ爺さんがあの様子だとは…一杯いっぱいだったんだ…」
そんな汗を拭う爺さんの姿を見てみると、俺自身も先程のショットガンのペイントで真っ赤になっている事を思い出す。
「うわぁ… 俺…海外のトマト祭りに参加した人みたいに真っ赤っかになってんじゃ無ねぇか… ん? あれ? なんだこれ… 落ちないぞ?」
身体に着いた赤い染料を水魔法を使って洗い流そうとしても、油性インクの様に洗い流す事が出来ずに困り始める。
「ウフフ、それ、本当は模擬戦に使うものではなくて、追跡用のものだから簡単には落ちないようになっているのよ」
そんな困り果てた俺の様子に先程のお姉さんがやってきて、色っぽい感じの笑い声を上げながら俺に手を翳す。すると、俺の体にまとわりついていた赤の染料が度数の高いアルコールが気化するようにすぐに蒸発していく。
「おっ! 一気に綺麗になった」
俺は自分の身体を見回して、赤の染料が残っていないか確認する。
「どう?」
「残ってないな…しかし、いきなりのショットガンでペイント弾を撃たれた時は正直驚いたよ」
俺は愛想笑いをしながらお姉さんにそう答えると、お姉さんの顔から笑みが消え、じっと俺を見つめ始める。
「…やはり、貴方にはあの攻撃が『ショットガン』と『ペイント弾』って事が分かったのね」
「あ…」
俺は自分の迂闊な発言により、俺自身が現代人の転生者であることがバレた事に気が付く。といっても特に隠している事ではないが、俺が現代転生者ではないかと試されていたのではないかと考えた。
「って事はトマリさんも転生者…しかも俺と同じ現代人って事でいいですか?」
「そうよ、私もあの子もそして、マサムネも全員、現代人の転生者よ」
俺が転生者であることを告げると、トマリさんの顔に笑みが戻る。なんだか、旅先で同郷人を見つけた時の反応に近いな。
「やっぱりそうなんだ…でも、何て言うか…その姿…」
そう言って、再びトマリさんの姿を頭から足のつま先まで確認する。どう見ても、この異世界の科学技術ではあるような物ではない。
「もしかして、転生特典とかで貰った装備なの?」
俺が貰ってないだけで、もしかしたら他の人は転生する時に神様のような存在から何か貰っていたかもしれないので尋ねてみる。
「えっ? 何? その転生特典って、私貰ってないわよ… 貴方は何か貰ったの?」
「いや、俺も何も貰ってない…でも、その装備はこの異世界にはあまりにも不釣り合いな装備だから、もしかしてって思って」
俺がトマリさんにそう返していると、長身の男とチャラ男がこちらにやってきて口を開く。
「それはお前の様な転生エンジョイ勢とは違って、俺達が転生ガチ勢だからだよ」
チャラ男がそう告げてくる。
「ラオプティーアの説明では分かりづらいだろ? 分かり易く説明すると、生前身に着けた知識や技術を使い、この異世界の魔法の技術と融合させて、この異世界で生き抜き、そして、元の生きていた世界に戻ろうと考えている集団の事だと理解して欲しい… 同じ現代日本人のアシヤ・イチロー君」
長身の男、マサムネは俺にそう説明してくれる。しかも、事前に俺の事を調べていたようであった。
「…なるほど、転生ガチ勢って、そういうことなのか…」
改めて、特別勇者の連中が他の転生者や勇者と異なる事を認識したのであった。
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